混合診療事件
最高裁第三小法廷・2011年10月25日・最三小判平23.10.25

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム6:07健康保険で「混合診療は原則として保険給付の対象外」とされる取扱いに、最高裁がはじめて法的なお墨付きを与えた判決です。保険外併用療養費(旧・特定療養費)制度の位置づけを理解するための中心的な判例で、健保法86条の趣旨を条文から読むときの手がかりになります。
事案の概要
健康保険の被保険者が腎臓がんの治療のため、単独であれば療養の給付に当たるインターフェロン療法と、療養の給付に当たらない自由診療である活性化自己リンパ球移入療法(LAK療法)とを併用して受けていました。ところが厚生労働省の解釈では、法が特に許容する場合を除き、併用すると自由診療部分だけでなく保険診療相当部分についても保険給付を行えないとされていたため、病院から両療法の併用は継続できないと告げられました。そこで被保険者は、この解釈が健康保険法や憲法に反すると主張し、混合診療を受けた場合でもインターフェロン療法について療養の給付を受けられる地位の確認を求めました。
- 併用診療保険診療となるインターフェロン療法と自由診療のLAK療法を併用して受けていました
- 対象外LAK療法が高度先進医療(後の評価療養)の範囲から除外されました
- 中止通告病院から混合診療は継続できないと告げられ、LAK療法を断念しました
- 提訴保険診療相当部分について療養の給付を受けられる地位の確認を求めて提訴しました
- 最高裁混合診療保険給付外の原則を内容とする法解釈は適法・合憲であるとして上告を棄却しました
争点
保険診療となる療法と、療養の給付に当たらない自由診療の療法とを併用した場合(いわゆる混合診療)、保険診療に相当する部分についてだけでも療養の給付を受けられるのでしょうか。また、混合診療保険給付外の原則を内容とする法解釈は憲法25条・14条1項・13条に違反しないのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
法は,先進医療に係る混合診療のうち先進医療が評価療養の要件に該当しないため保険外併用療養費の支給要件を満たさないものに関しては,被保険者の受けた療養全体のうちの保険診療相当部分についても保険給付を一切行わないものとする混合診療保険給付外の原則を採ることを前提として,保険外併用療養費の支給要件や算定方法等に関する法86条等の規定を定めたものというべきであり(中略)法86条等の規定の解釈として,単独であれば療養の給付に当たる診療(保険診療)となる療法と先進医療であり療養の給付に当たらない診療(自由診療)である療法とを併用する混合診療において,その先進医療が評価療養の要件に該当しないためにその混合診療が保険外併用療養費の支給要件を満たさない場合には,後者の診療部分(自由診療部分)のみならず,前者の診療部分(保険診療相当部分)についても保険給付を行うことはできないものと解するのが相当である。
(中略)混合診療保険給付外の原則を内容とする法の解釈は,不合理な差別を来すものとも,患者の治療選択の自由を不当に侵害するものともいえず,また,社会保障制度の一環として立法された健康保険制度の保険給付の在り方として著しく合理性を欠くものということもできない。
結論
保険診療となる療法と自由診療である先進医療とを併用した場合、その先進医療が評価療養の要件を満たさず保険外併用療養費の支給要件に当たらないときは、自由診療部分だけでなく保険診療相当部分についても保険給付を行うことはできません。健康保険で提供する医療の範囲を、医療の質の確保や財源面の制約から合理的に制限することはやむを得ず、この解釈は憲法25条・14条1項・13条に違反しません。
関連法令の解説
健康保険法63条(療養の給付)
被保険者の疾病・負傷について、診察、薬剤・治療材料の支給、処置・手術その他の治療などを現物給付として行うことを定めた条文です。2項で、評価療養・患者申出療養・選定療養は療養の給付に含まれないことが示されており、この切り分けが混合診療の議論の出発点になります。
健康保険法86条(保険外併用療養費)
被保険者が評価療養・患者申出療養・選定療養を受けたときに、療養の給付に相当する部分について現金給付として支給される費用です。本判決は、この86条が「要件を満たさない混合診療には保険診療相当部分も含めて一切給付しない」という原則を前提に定められたものだと解釈し、明文がなくても同原則を導けるとしました。
憲法25条・14条1項・13条
上告人は、保険診療のみを受ける患者と混合診療を受ける患者とで給付の可否が分かれるのは不合理な差別であり、治療選択の自由の侵害でもあると主張しました。最高裁は、医療の質の確保と財源制約から給付範囲を制限することには一定の合理性があるとして、いずれの主張も退けています。
身近な例え
食べ放題プランのあるお店で、プラン外のメニューを一品だけ追加したら、その日の食事はまるごとプラン対象外になって全部が単品会計になる——混合診療の扱いはこれに近いです。ただしお店が「この一品はプランに追加してOK」と正式に認めているものなら、プランはそのまま使える。この「正式に認めた追加メニュー」に当たるのが保険外併用療養費の対象(評価療養など)です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
混合診療っていうのは、保険がきく診療と保険がきかない自由診療を一緒に受けること。この判例のポイントはシンプルで、混合診療をすると保険がきく部分まで含めてぜんぶ保険給付の対象外になる、というルールを最高裁が「それでOK」と認めたんだ。理由は、医療の安全性や有効性を確かめてから保険に入れるべきだし、財源にも限りがあるから。「保険診療の部分だけは療養の給付が受けられる」って肢が出たらバツだよ。ただし抜け道はちゃんとあって、それが保険外併用療養費(健保法86条)。評価療養・患者申出療養・選定療養の3つに当てはまれば、保険がきく部分は保険外併用療養費として戻ってくるんだ。この3類型は条文でも問われるから、混合診療の原則とセットで覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「保険診療+保険外の自由診療」を併用すると、その疾病の診療は全体が保険給付の対象外になります(混合診療保険給付外の原則)。例外は、法が定める評価療養・患者申出療養・選定療養の要件を満たして保険外併用療養費が支給される場合に限られます。「保険診療の部分だけは療養の給付を受けられる」という肢は誤りです。
- ▶混合診療をすると、その疾病についての診療は全体が保険給付の対象外になります。保険診療相当部分だけを切り出して療養の給付を受けることはできない、というのが結論です。
- ▶例外は保険外併用療養費(法86条)です。現行法では評価療養・患者申出療養・選定療養の3類型があり、要件を満たせば保険診療相当部分について保険外併用療養費が支給されます。
- ▶本判決の判断枠組みは、医療の質(安全性・有効性)の確保と財源面の制約から給付範囲を合理的に制限することはやむを得ない、というものです。憲法25条だけでなく14条1項・13条の主張も退けられています。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「被保険者の受けた療養全体のうちの保険診療相当部分についても保険給付を一切行わないものとする混合診療保険給付外の原則」
- 「自由診療部分のみならず、保険診療相当部分についても保険給付を行うことはできない」
- 「健康保険制度の保険給付の在り方として著しく合理性を欠くものということもできない」
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