堀木訴訟
最高裁大法廷・1982年7月7日・最大判昭57.7.7

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:28障害福祉年金を受けていることを理由に児童扶養手当を受けられなかった母親が争った事件です。最高裁大法廷が「立法府の広い裁量」という審査基準を明示し、社会保障立法の合憲性を判断する共通のフレームを作った判決として、社会保険科目の総論で必ず出てきます。
事案の概要
原告は視力障害があり、国民年金法に基づく障害福祉年金を受給していました。内縁の夫と別れたあと男子を独力で養育していたため、児童扶養手当の受給資格の認定を請求しましたが、障害福祉年金を受けていることが当時の児童扶養手当法の併給調整条項に該当するとして却下されました。異議申立ても棄却されたため、この処分の取消しを求めて提訴し、併給調整条項そのものが憲法25条・14条・13条に反すると主張しました。
- 受給視力障害により、国民年金法上の障害福祉年金を受給していました
- 請求子を独力で養育しているとして、児童扶養手当の受給資格の認定を請求しました
- 却下障害福祉年金の受給者は併給調整条項に該当するとして、請求を却下されました
- 提訴併給調整条項が憲法25条・14条・13条に反すると主張して、処分の取消しを求めました
- 最高裁大法廷が立法裁量論を示し、併給調整条項を合憲と判断して上告を棄却しました
争点
障害福祉年金を受けている者に児童扶養手当を支給しないとする併給調整規定は、憲法25条・14条・13条に違反するか。また、社会保障給付の内容や併給の可否を決める立法府の裁量を、裁判所はどこまで審査できるか。この2点が争われました。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。
したがつて、憲法二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。
(中略)児童扶養手当は、もともと国民年金法六一条所定の母子福祉年金を補完する制度として設けられたものと見るのを相当とするのであり(中略)受給者に対する所得保障である点において、前記母子福祉年金ひいては国民年金法所定の国民年金(公的年金)一般、したがつてその一種である障害福祉年金と基本的に同一の性格を有するもの、と見るのがむしろ自然である。
(中略)社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、さきに述べたところにより、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。
結論
憲法25条をどのような立法で具体化するかは立法府の広い裁量に委ねられ、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえない場合を除いて、裁判所の審査には適しません。児童扶養手当は母子福祉年金を補完する所得保障であって障害福祉年金と基本的に同一の性格を持つため、両者の併給を調整するかどうかも立法裁量の範囲に属し、その結果生じる差別も合理的理由のない不当なものとはいえません。
関連法令の解説
憲法25条(生存権)
本判決は、25条1項が国の責務を宣言したものであり、2項の社会的立法・社会的施設の創造拡充を通じて個々の国民の具体的な生活権が設定充実されていく、という朝日訴訟以来の枠組みを踏襲しました。そのうえで「立法府の広い裁量」という審査基準を明示し、以後の社会保障立法の合憲性判断の基準になっています。
憲法14条1項(法の下の平等)
本判決は、憲法25条の要請にこたえて制定された法令が、受給者の範囲・支給要件・支給金額について何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをすれば14条違反の問題が生じうることは否定しませんでした。ただし本件では、身体障害者・母子に対する諸施策や生活保護制度の存在も踏まえると、生じる差別は合理的理由のない不当なものとはいえない、と判断しています。
年金の併給調整(一人一年金の原則)
現在の公的年金でも、同一人に同じ性格の給付が重なるときは調整が働きます(老齢・障害・遺族の各基礎年金は原則としてどれか一つを選択し、65歳以後の老齢基礎年金と遺族厚生年金など法律が認めた組合せだけ併給できる)。本判決は、この併給調整という仕組み自体を立法裁量の範囲内と認めた根拠判例として引用されます。
身近な例え
会社の福利厚生に住宅手当と家族手当があって、両方の条件を満たしても片方しかもらえない、というルールをイメージしてください。「二重取りは公平じゃないから片方にしよう」という線引きは、その会社が決めていい範囲の話です。裁判所が口を出すのは、その線引きが誰の目にも説明のつかないほど不合理なときだけ、というのがこの判決の考え方です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
堀木訴訟は「併給調整ってアリなの?」に最高裁が正面から答えた判例だよ。答えは、社会保障をどう設計するかは立法府の広い裁量にゆだねられていて、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除いて裁判所は審査に適さない、というもの。この言い回しがそのままキーフレーズになるから、まるごと覚えちゃおう。それから、児童扶養手当は「子どもの養育費の保障」じゃなくて「母子福祉年金を補完する、受給者本人への所得保障」と位置づけられたのがミソなんだ。だから障害福祉年金と同じ性格=併給を調整してもいい、という結論につながるんだよ。今の年金にも一人一年金の原則があるでしょ?その考え方のご先祖さまがこの判例だから、セットで押さえてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない」という審査基準(立法裁量論)を確立した判決です。この定式はその後の塩見訴訟・学生無年金障害者訴訟でもそのまま引用されており、社会保険各法の合憲性が問われたときの共通の物差しになります。併給調整の可否も立法裁量である点をセットで押さえましょう。
- ▶審査基準のキーフレーズは「著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない」です。塩見訴訟・学生無年金障害者訴訟もこの定式を引用しています。
- ▶児童扶養手当は児童手当(養育に伴う支出の保障)ではなく、母子福祉年金を補完する受給者本人への所得保障であり、障害福祉年金と基本的に同一の性格を持つと位置づけられました。
- ▶併給調整を行うかどうか、給付額をいくらにするかは立法政策上の裁量事項です。給付額が低いことだけを理由に、当然に憲法25条違反になるわけではないとされています。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない」
- 「障害福祉年金と基本的に同一の性格を有するもの、と見るのがむしろ自然である」
- 「公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは(中略)立法府の裁量の範囲に属する事柄」
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