安衛法の基本と関係者の責務
労働安全衛生法は、もともと労働基準法の一部でした。高度経済成長期に労働災害が急増したことを受け、昭和47年に独立した法律として切り出されたという成り立ちを知っておくと、この科目全体の位置づけが見えてきます。
この節では、目的条文・「労働災害」と「事業者」という2つの基本用語・そして誰がどんな責務を負うのかを押さえます。選択式で目的条文がそのまま穴埋めになることがあるので、キーワードは正確に覚えましょう。
簡単にいうと
安衛法の1条は選択式の定番です。「労働基準法と相まって」で始まるところが、この法律の出自を物語っています。
労働安全衛生法は、昭和47年に労働基準法から分離独立してできた法律です。高度経済成長期に産業が急速に発展し、労働災害が深刻化したことがその背景にあります。
目的を定めた第1条は、次のとおりです。
【条文】労働安全衛生法第1条
この法律は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
この条文には、覚えるべきキーワードが4つ詰まっています。
・危害防止基準の確立
・責任体制の明確化
・自主的活動の促進
・快適な職場環境の形成の促進
目的が「労働者の安全と健康の確保」だけで終わっていない点に注意してください。「快適な職場環境の形成を促進すること」まで含まれています。ケガをさせないという最低ラインだけでなく、気持ちよく働ける職場をつくるところまでが、この法律の狙いです。
具体例
労基法が「1日8時間まで」のように労働条件の最低ラインを定めるのに対し、安衛法は「高さ2メートル以上の作業床の端には手すりを設けなさい」といった現場の安全基準を定めます。同じ現場を、労働条件の側面と安全衛生の側面から2つの法律が支えているイメージです。
試験のポイント
簡単にいうと
工場が燃えて設備が全焼しても、それだけでは安衛法上の労働災害にはなりません。線引きは「人が傷ついたかどうか」です。
安衛法でいう「労働災害」とは、労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいいます。
ここで押さえるべきは、対象が労働者の生命・身体に対する被害、つまり人的損害に限られているという点です。設備が壊れた、製品がダメになったといった物的損害は、どれだけ金額が大きくても安衛法上の労働災害には含まれません。
原因の側は広く取られています。
・建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等によるもの
・作業行動その他業務に起因するもの
つまり「機械に巻き込まれた」だけでなく、「重い荷物を運ぶ作業で腰を痛めた」のように作業行動そのものが原因の場合も労働災害です。
具体例
食品加工工場でボイラーが破裂したとします。従業員のけいすけさんが火傷を負えば労働災害ですが、深夜で誰もおらず建物と設備だけが壊れたのであれば、安衛法上の労働災害には当たりません。ただし後述の「事故報告」は、けが人がいなくても提出が必要です。
簡単にいうと
安衛法の義務主体は、課長でも部長でもありません。会社そのものです。ここが労基法と決定的に違うところ。
安衛法における「事業者」とは、事業を行う者で、労働者を使用するものをいいます。具体的には、個人事業であればその事業主個人、会社その他の法人であれば法人そのものを指します。
労基法の「使用者」と比べてみると違いがはっきりします。労基法の使用者には、事業主だけでなく、事業の経営担当者や、労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者が含まれます。つまり部下の労務管理を責任をもって行う社員は、課長であっても使用者になり得ます。
これに対して安衛法の事業者は、事業経営の利益が帰属する主体そのものに絞り込まれています。安全衛生の責任を誰が負うのかをはっきりさせ、設備投資や体制整備といった判断ができる立場の者に義務を課すためです。
なお「労働者」の定義は労基法の労働者と同じです。ここは違いがありません。
具体例
製造ラインの安全カバーが外れたまま稼働していた場合、安衛法上の責任を問われるのはその会社(法人)です。現場の課長が個人的に義務を負うわけではありません。一方、労基法上の割増賃金の不払いであれば、その課長も「使用者」として責任を問われることがあります。
簡単にいうと
「法律を守っていればいい」では足りない、というのが安衛法の立場です。
事業者には、大きく2つの責務が課されています。
1つ目は、単に労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない、というものです。法令に定められた基準は守って当たり前の出発点であり、そこから先の環境改善まで求められています。
2つ目は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない、というものです。
どちらも「〜するようにしなければならない」という書き方をしている点に注目してください。これは努力義務を表す表現です。個別の条文で「〜しなければならない」と定められた具体的な措置とは、義務の強さが違います。
具体例
建設会社が法定どおり手すりを設置したうえで、さらに夏場の熱中症対策として現場に空調服と休憩用テントを用意する。この上乗せ部分が、3条1項が想定している「最低基準を超えた確保」の姿です。
試験のポイント
簡単にいうと
危ない機械を作った人、無理な納期を出した人、そして働く本人。安衛法はそれぞれに宿題を出しています。
労働災害は、現場の事業者だけの努力では防ぎきれません。そこで安衛法は、事業者の周りにいる関係者にも責務を課しています。
・設計者・製造者・輸入者等の責務
機械、器具その他の設備を設計し、製造し、若しくは輸入する者、原材料を製造し、若しくは輸入する者、又は建設物を建設し、若しくは設計する者は、これらの物が使用されることによる労働災害の発生の防止に資するように努めなければなりません。危険な製品を世に出さないという、川上での歯止めです。
・注文者の責務
建設工事の注文者など仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なう恐れのある条件を付さないように配慮しなければなりません。「明日までに」「もっと安く」という無理な発注が現場の安全を削る、という現実に対応した規定です。
・労働者の責務
労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければなりません。保護具を着ける、決められた手順を守るといった協力が求められます。
試験では「原材料を製造し、又は輸入する者にも労働災害防止に資するよう努めることを求めている」という記述が出題され、これは正しいものとして扱われました。設計者だけでなく原材料の製造者・輸入者も対象に入っている点を確認しておきましょう。
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試験のポイント
試験のポイント
具体例
業務用スライサーを設計するメーカーが刃の露出部にカバーを標準装備する。これが設計者の責務です。そのスライサーを納入する飲食チェーンの本部が「開店に間に合わせるため安全点検を省いてよい」と指示すれば、注文者の配慮義務に反することになります。
試験のポイント
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