健康保険のしくみと2つの保険者
健康保険法は、会社で働く人とその家族の「病気・けが・出産・死亡」を支える医療保険の法律です。病院の窓口で3割だけ払えば済むのも、病気で休んだときに傷病手当金が出るのも、すべてこの法律が根拠になっています。
この節では、健康保険が何をどこまで守る制度なのかを、目的条文と基本的理念からつかみます。あわせて、保険料とお金がどう流れているのか、保険者が2種類あるのはなぜかまで見ておくと、このあとの給付の話が一気に読みやすくなります。
簡単にいうと
会社員とその家族の「業務外」の病気・けが・出産・死亡。これが健康保険の守備範囲です。
健康保険は、会社などに雇われて働く人(被保険者)と、その人に養われている家族(被扶養者)のための医療保険です。健康保険法1条は、労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とすると定めています。
ポイントは「業務災害以外」という限定です。仕事中や通勤途中のけがは労災保険が面倒をみるので、健康保険はそこには手を出しません。逆にいえば、休日に自宅の階段から落ちてけがをした、家族が虫垂炎で入院した、というような場面はすべて健康保険の出番です。
給付の中身も医療だけではありません。窓口負担を7割減らす療養の給付のような現物の給付に加えて、働けない間の生活費を補う傷病手当金や、出産のときの出産育児一時金・出産手当金といった現金の給付まで用意されています。
具体例
陶器工房で働く30代の職人が、休日に自宅で包丁を落として足を切り、病院で6針縫いました。仕事とは無関係のけがなので、これは健康保険で治療を受けます。もし同じけがを工房での作業中に負っていたら、健康保険ではなく労災保険の療養補償給付になります。
試験のポイント
簡単にいうと
健康保険は医療保険制度の土台。だからこそ「常に検討を加えなさい」と条文に書かれています。
健康保険法2条は、健康保険制度の基本的理念を定めた条文です。選択式で狙われやすい部分なので、キーワードを正確に押さえておきます。
【条文】健康保険法2条
健康保険制度については、これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づき、医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ、実施されなければならない。
ここで押さえるキーワードは4つです。
・医療保険制度の基本をなすもの
・その在り方に関して常に検討
・運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化
・国民が受ける医療の質の向上
日本の公的医療保険には、健康保険のほかに国民健康保険、船員保険、各種共済があります。その中で健康保険が「基本をなすもの」と位置づけられている点が、この条文の出発点です。
簡単にいうと
窓口で払う3割の裏側で、残りの7割がどう動いているかを追いかけます。
健康保険は、被保険者・事業主・保険者・医療機関・審査支払機関の5者でお金と医療が循環する仕組みです。順番に追うと次のようになります。
・被保険者の給与から保険料が天引きされ、事業主が自分の負担分(原則2分の1)を足して保険者に納付する
・被保険者が病院に行くと、病院は医療を提供し、被保険者は一部負担金(原則3割)だけ窓口で支払う
・病院は残りの費用を診療報酬として、社会保険診療報酬支払基金又は国民健康保険団体連合会に請求する
・審査支払機関が請求内容を審査したうえで保険者に請求し、保険者が支払い、そのお金が病院に届く
・国庫からは保険者に対して国庫負担・国庫補助が入る
つまり患者は3割しか払っていませんが、病院はきちんと10割を受け取っています。差額の7割を、保険料と国庫のお金でまかなっているわけです。
具体例
医療費が10,000円かかった場合、窓口で払うのは3,000円です。残りの7,000円は、病院が支払基金を通じて保険者に請求し、保険者が支払います。患者本人が7,000円を立て替える必要はありません。
簡単にいうと
運営者が1つではないところが健康保険の面白さであり、試験のねらい目です。
健康保険を運営する主体を保険者といいます。健康保険では、この保険者が2種類存在します。
・全国健康保険協会(協会けんぽ)… 平成20年9月まで政府が運営していた政府管掌健康保険を引き継いだ非公務員型の公法人。本部は東京都にあり、各都道府県に支部が置かれています。中小企業の多くがここに加入しています。
・健康保険組合 … 大企業が単独で、あるいは同業の企業が集まって設立する法人。従業員数千人規模の会社が単独で持っていたり、同一業種の企業で作る産業別の組合があったりします。
この2者は、予算の手続、事業状況の報告期限、準備金の積立額、保険料率の決め方、付加給付の可否など、あらゆる場面で扱いが異なります。健康保険の学習は「協会だとこう、組合だとこう」を並べて覚える作業だと言い換えてもよいくらいです。
なお、協会が運営する健康保険であっても、資格の確認・標準報酬の決定・保険料の徴収といった業務は厚生労働大臣が行う点も、あわせて押さえておきます。
具体例
従業員40人の印刷会社は協会けんぽに加入し、保険料率も事業所のある都道府県ごとの率が適用されます。一方、従業員3,000人の電機メーカーは自前の健康保険組合を設立し、規約で独自の付加給付を用意している、といった違いが生まれます。
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健康保険法2条は理念規定なので、この条文そのものから具体的な給付が生まれるわけではありません。ただし、高齢化で医療費が増えたときに窓口負担や保険料率を見直す根拠は、この「費用の負担の適正化」という理念に置かれています。
試験のポイント
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