費用・不服申立て・雑則
労災保険の最後は、お金の出どころと、決定に納得できないときの手段、そして期限の話です。地味に見えますが、不服申立てのルートと時効の年数は毎年のように問われる定番論点です。
とくに時効の2年と5年の振り分けは、確実に得点したいところ。ここまで学んできた給付の名前が全部出てくるので、総復習にもなります。
簡単にいうと
労災保険に入ってくるお金は4種類。すでに学んだものが3つ含まれています。
保険者である政府から見て、労災保険に入ってくるお金は次の4種類です。
・事業主から特別に徴収される費用
・通勤災害による療養給付の受給者から徴収される一部負担金
・保険料
・国庫補助
1つ目は費用徴収の節で、2つ目は通勤災害の給付の節で学びました。3つ目の保険料は労働保険徴収法という別の科目で詳しく扱います。ここで新しく学ぶのは4つ目の国庫補助です。
【条文】労働者災害補償保険法第32条
国庫は、予算の範囲内において、労働者災害補償保険事業に要する費用の一部を補助することができる。
押さえるべき点は2つです。
・予算の範囲内であること
・費用の一部を補助することが「できる」という任意規定であること
「補助する」という義務ではありません。この語尾が問われます。
国庫がお金を出すというのは、要するに税金を使うということです。民間の保険とは違い、保険料だけで財政を保つのは難しいため、税金による下支えが用意されています。
試験では、国庫は労災保険事業に要する費用の一部を補助することができる、という記述が正しいものとして出題されています(法32条)。
具体例
労災保険の財源は事業主が納める保険料が中心ですが、それだけで足りない部分について、予算の範囲内で国の一般会計から補助が行われることがあります。
試験のポイント
簡単にいうと
いきなり裁判では時間もお金もかかりすぎます。その手前に置かれた仕組みです。
行政処分に不服がある者は、通常は裁判所に提訴することになります。しかし、訴訟手続は複雑で、高額の費用と長い期間を要します。これでは迅速な救済に結びつきません。
そこで用意されているのが不服申立ての制度です。行政の内部で、より簡易な手続によって争えるようにするものです。
通常、不服申立ては行政不服審査法に基づいて行われます。ところが、労災保険の保険給付に関する決定に対する不服申立ては大量に発生する傾向があり、一般的な手続では事件処理が遅延し、やはり迅速な救済が困難になってしまいます。
そこで労災保険では、専門の機関を置いて処理することにしました。それが次の2つです。
・労働者災害補償保険審査官
・労働保険審査会
この2つの機関により、簡易迅速な手続で処理されます。
名前が長いので略されがちですが、審査官が第一段階、審査会が第二段階です。段階が上がるにつれて組織の名前も大きくなる、と覚えると取り違えません。
具体例
簡単にいうと
審査請求→再審査請求の2段階です。期限の数字とセットで覚えます。
保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができます。その決定にも不服がある場合には、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができます。
期限は次のとおりです。
・審査請求 … 原処分があったことを知った日の翌日から起算して3月以内
・再審査請求 … 決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2月以内
方式にも違いがあります。審査請求は文書又は口頭ですることができますが、再審査請求は文書によります。
裁判との関係も重要です。保険給付に関する決定についての処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定を経た後でなければ提起することができません。これを審査請求前置といいます。
ただし、再審査請求の裁決まで待つ必要はありません。審査官の決定を経ていれば、再審査請求をするか、直接訴えを提起するかを選ぶことができます。
試験では『保険給付に関する決定についての審査請求に係る労働者災害補償保険審査官の決定に対して不服のある者は、再審査請求をした日から3か月を経過しても裁決がないときであっても、再審査請求に対する労働保険審査会の裁決を経ずに、処分の取消しの訴えを提起することはできない』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。労働保険審査会の裁決を経ずに訴えを提起することができます(法40条)。
簡単にいうと
同じ労災の話でも、費用徴収の処分は別ルートです。ここが混ざりやすいところ。
保険給付に関する決定以外の処分については、ルートが変わります。たとえば、事業主からの費用徴収に関する処分や、不正受給者からの費用徴収に関する処分に不服がある場合です。
これらについては、行政不服審査法の規定に基づき、処分庁の最上級行政庁である厚生労働大臣に対して審査請求をするか、処分取消しの訴えを提起するかを選択できます。
保険給付に関する処分との違いを整理しましょう。
・保険給付に関する処分 … 労働者災害補償保険審査官への審査請求が必要(審査請求前置)
・それ以外の処分 … 厚生労働大臣への審査請求か訴訟かを自由に選択できる
審査請求の期限は、こちらも原処分があったことを知った日の翌日から起算して3月以内です。方式は文書によります。
2つのルートを分ける基準は「保険給付に関する決定かどうか」です。給付をもらう側の話なら審査官、費用を取られる側の話なら厚生労働大臣、と結びつけておくと判断しやすくなります。
具体例
簡単にいうと
重い給付ほど長い、と覚えると整理できます。傷病補償年金の扱いも要注意です。
【条文】労働者災害補償保険法第42条
療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付、複数事業労働者療養給付、複数事業労働者休業給付、複数事業労働者葬祭給付、複数事業労働者介護給付及び二次健康診断等給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付、複数事業労働者障害給付及び複数事業労働者遺族給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から5年を経過したときは、時効によって消滅する。
振り分けは次のとおりです。
・2年 … 療養・休業・葬祭・介護・二次健康診断等給付
・5年 … 障害・遺族
覚え方は、障害や死亡という重く長く続く事態に対する給付が5年、それ以外が2年です。5年のほうが2つだけなので、こちらを覚えて残りを2年とするのが効率的です。
もう1つ重要な点があります。傷病補償年金については、政府の職権により支給決定が行われるため、時効の問題は生じないとされています。請求という権利行使の場面がないので、行使できる時から数える時効になじまないのです。傷病補償年金の節で学んだ職権主義が、ここで効いてきます。
なお、通勤災害に関する給付についても同じ振り分けです。名称から補償の2文字が抜けるだけで、年数は変わりません。
簡単にいうと
最後は雑則です。数字が3つ出てくるので、まとめて片付けてしまいましょう。
まず書類の保存義務です。労災保険に係る保険関係が成立し、若しくは成立していた事業の事業主、又は労働保険事務組合若しくは労働保険事務組合であった団体は、労災保険に関する書類を、その完結の日から3年間保存しなければなりません。
労基法の記録の保存が原則5年(当分の間3年)、安衛法の健康診断個人票が5年であったことと比べながら、労災保険は3年と押さえてください。
次に受診命令です。行政庁は、保険給付に関して必要があると認めるときは、保険給付を受け、又は受けようとする者に対し、その指定する医師の診断を受けるべきことを命ずることができます。この対象には、遺族補償年金又は遺族年金の額の算定の基礎となる者も含まれます。障害の状態にあることを理由に遺族に数えられている人などについても、確認が必要になるためです。
そして立入検査です。行政庁は、当該職員に、適用事業の事業場、労働保険事務組合若しくは特別加入者の団体の事務所、労働者派遣法の規定による派遣先の事業場に立ち入り、関係者に質問させ、又は帳簿書類その他の物件を検査させることができます。派遣先の事業場が対象に含まれている点が特徴です。
最後に罰則です。事業主が、行政庁の報告の命令に違反して報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は文書提出命令に違反して文書の提出をせず、若しくは虚偽の記載をした文書を提出した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。
試験では、立入検査をする職員はその身分を示す証明書を携帯し関係者に提示しなければならない、という記述が正しいものとして出題されています(法48条)。ここでいう帳簿書類とは、賃金台帳や労働者名簿など、労災保険法上必要とされる一切の帳簿書類をいいます。
具体例
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休業補償給付が不支給とされた人は、いきなり裁判を起こすのではなく、まず労働者災害補償保険審査官に審査請求をすることになります。
試験のポイント
具体例
不支給決定を知った日の翌日から3月以内に審査請求をし、その決定に納得できなければ、決定書の謄本が送られた日の翌日から2月以内に再審査請求をするか、裁判所に訴えるかを選べます。

不服申立ての2つのルートと期限
試験のポイント
試験のポイント
けがをして治療を受けたのに療養補償給付を請求しないまま2年が過ぎると、その権利は時効で消滅します。一方、障害が残った場合の障害補償給付は5年です。

時効2年と5年の振り分け
試験のポイント
労災の申請について監督署から報告を求められたのに虚偽の内容を提出した会社は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の対象になり得ます。
試験のポイント
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