上乗せ給付と特別加入
労災保険は労働者を守る制度です。ですから、社長や一人親方は本来その枠の外にいます。しかし、実際には労働者と変わらない働き方をしている人が大勢います。
そこで用意されているのが特別加入制度です。対象は3類型。それぞれ加入の入口が違い、加入した後のルールにも独特のものがあります。徴収法でも同じ3類型が出てきますので、ここで固めておくと二度おいしい分野です。
簡単にいうと
労働者ではないけれど、労働者と同じくらい守る必要がある人たちのための制度です。
労災保険の適用対象は、原則として労働者です。しかし、業務の実態や災害の発生状況に照らすと、実質的に労働基準法の適用労働者に準じて保護するのがふさわしい人たちがいます。そうした人にも労災保険の適用を及ぼそうというのが特別加入制度です。
特別加入の対象者は3種類あります。
・中小事業主等
・一人親方等
・海外派遣者
この3類型は、労働保険徴収法の科目でも登場します。保険料の計算の仕方が労働者とは違うためです。
3つに共通するのは、加入するために申請をして政府の承認を受ける必要がある点、そして政府の承認を受けて脱退することができる点です。当然に加入になるわけではありません。
違いは入口の条件にあります。中小事業主等は労働保険事務組合への事務委託が必要、一人親方等は団体への加盟が必要、海外派遣者はどちらも不要です。この違いが、次のテーマから見ていく各類型の特徴になります。
試験では、業務の実態や災害の発生状況等に照らし、実質的に労働基準法適用労働者に準じて保護するにふさわしい者に労災保険の適用を及ぼそうとする趣旨から中小事業主等に特別加入の制度を設けている、という記述が正しいものとして出題されています。
具体例
従業員と一緒に現場で作業している建設会社の社長は、労働者ではありませんが、けがのリスクは従業員と同じです。こうした人が特別加入の対象になります。

特別加入の3類型 ― 中小事業主等・一人親方等・海外派遣者
試験のポイント
簡単にいうと
規模の線引きが業種で3段階に分かれます。安衛法の表とは数字が違うので注意です。
中小事業主等として特別加入することができるのは、次の表に該当する事業の事業主であって、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託しているものです。
・金融業、保険業、不動産業、小売業 … 常時50人以下の労働者を使用する事業主
・卸売業、サービス業 … 常時100人以下の労働者を使用する事業主
・その他の事業 … 常時300人以下の労働者を使用する事業主
50人・100人・300人という3段階の数字を、業種の並びとセットで覚えてください。
加入の前提として、その事業自体が労災保険に加入していることが絶対条件です。従業員のための労災保険関係が成立していないのに、社長だけ入るということはできません。
手続としては、特別加入申請書を、事務処理を委託する労働保険事務組合の主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督署長を経由して、その所在地を管轄する所轄都道府県労働局長に提出することによって行います。
監督署長を経由して労働局長へ、という経路です。承認するのは都道府県労働局長です。残る2つの特別加入についても、おおむね同じ流れになります。
具体例
簡単にいうと
従業員を雇わずに働く人たちです。1人では入れず、団体経由になります。
一人親方等とは、正式には一人親方その他の自営業の者及びその事業に従事する者のことをいい、次のような事業等を労働者を使用しないで行うことを常態とする者を指します。
・自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業(個人タクシーの運転手や個人貨物運送業者など)
・建設の事業
・林業の事業 など
ポイントは「労働者を使用しないで行うことを常態とする」という部分です。人を雇っていれば中小事業主等の側になります。
加入の方法は、中小事業主等の場合とは異なります。一人親方等は、ある団体に加盟して、その団体を通じて労災保険に特別加入します。中小事業主の場合と同様、申請して政府の承認を受けることが必要です。
また、特別加入の承認を受けた団体は、政府の承認を受けて脱退することができます。
団体が窓口になるため、その団体については財務内容や事務処理能力などが細かくチェックされます。中小事業主等では労働保険事務組合がその役割を担っていたのに対し、一人親方等では加入する団体がその役割を果たす、という対応関係で理解しておきましょう。
具体例
簡単にいうと
3つ目は海外へ送り出される人。手続がいちばんシンプルです。
海外派遣者の特別加入者は、次の2パターンです。
・海外の開発途上地域に対する技術協力の実施の事業を行う団体が、当該地域において行われる事業に従事させるために派遣する者
・日本国内で事業を行う事業主が、海外で行われる事業に従事させるために派遣する者
海外の事業が一定の中小事業である場合には、労働者だけでなく、代表者として派遣される者についても特別加入が認められます。現地法人の社長として送り出される人も対象になるということです。
加入のためには、他の2つと同じく申請して政府の承認を受けることが必要です。ただし、労働保険事務組合への事務委託や団体への加盟などは必要ありません。ここが手続上の大きな違いです。もちろん、脱退することもできます。
試験では『海外派遣者について、派遣先の海外の事業が厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業に該当する場合であっても、その事業の代表者は、労災保険の特別加入の対象とならない』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。その事業の代表者についても、実質的には労働者に準じて保護すべき状況にあることから、特別加入の対象とされます(法33条7号)。
具体例
簡単にいうと
賃金という概念がない人たちなので、金額は自分で選びます。通勤の扱いにも例外があります。
一般の労働者の給付基礎日額は平均賃金がベースでしたが、特別加入者にはそもそも賃金という概念がありません。そこで、特別加入者の給付基礎日額は、あらかじめ用意された選択肢の中から本人が希望する額に基づいて決定されます。
選択肢は次のとおりです。
25,000円/24,000円/22,000円/20,000円/18,000円/16,000円/14,000円/12,000円/10,000円/9,000円/8,000円/7,000円/6,000円/5,000円/4,000円/3,500円
最高が25,000円、最低が3,500円です。この2つの数字を押さえてください。高い金額を選べば、その分だけ保険料も高くなります。
もう1つ、通勤災害の適用除外という規定があります。一人親方等の特別加入者のうち、自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業をはじめとする一部のものについては、住居と就業の場所との間の往復の実態が明確でないことから、通勤災害に関しては労災保険を適用しないものとされています。
個人タクシーの運転手を思い浮かべると分かりやすいでしょう。自宅を出た時点から営業が始まっているような働き方では、どこまでが通勤でどこからが業務なのかを区別できません。
試験では、特別加入制度において個人貨物運送業者については通勤災害に関する保険給付は支給されない、という記述が正しいものとして出題されています(法35条1項本文、則46条の22の2)。
簡単にいうと
一般の労働者と違うところが4つあります。理由まで一緒に押さえると忘れません。
特別加入者の保険給付や特別支給金については、一般の労働者と違う点が4つあります。
・休業補償給付(休業給付)
「賃金を受けない日」という賃金喪失の要件がありません。そもそも賃金という概念がないためです。
・通勤災害時の一部負担金
通勤災害により療養給付を受ける場合であっても、一部負担金は徴収されません。
・二次健康診断等給付
対象とはなりません。二次健康診断等給付は安衛法の一般健康診断を受けていることが前提ですが、特別加入者は事業者に健康診断を実施してもらう立場にないからです。
・特別支給金
一般の特別支給金のみが支給され、ボーナス特別支給金は支給されません。特別加入者には賞与の概念がなく、算定基礎日額を観念できないためです。
4つとも、賃金や賞与、事業者による健康管理といった労働者としての前提がないことから導かれる帰結です。理由から逆算できるようにしておくと、細かい選択肢にも対応できます。
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従業員が80人のサービス業の社長は、100人以下という要件を満たすため、労働保険事務組合に事務を委託したうえで特別加入を申請できます。
試験のポイント
1人で軽貨物の配送を請け負っているだいすけさんは、個人貨物運送業者として、その業種の団体に加盟したうえで特別加入することになります。
試験のポイント
試験のポイント
個人タクシーの運転手として特別加入したさぶろうさんは、給付基礎日額を1万円と選ぶことができますが、通勤災害についての給付は受けられません。
試験のポイント
具体例
特別加入している一人親方が休業した場合、休業補償給付は支給されますが、算定基礎日額をもとにした傷病特別年金などのボーナス特別支給金は支給されません。
試験のポイント
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