労災保険のしくみと適用
労災保険法は、社労士試験ではじめて出会う「保険の科目」です。保険給付・保険者・保険料といった言葉がここから一気に増えますが、この科目で慣れておくと、あとの健保・年金がぐっと楽になります。
この節では、そもそもなぜ労災保険という制度があるのか、誰が運営して、どこの役所に手続をするのかという土台を固めます。細かい給付の話に入る前の地図づくりだと思ってください。
簡単にいうと
労災保険は、労基法の災害補償を政府が肩代わりする制度として生まれました。まずはこの出発点から。
労働基準法には、労働者が業務上のけがや病気をしたり、障害が残ったり、亡くなったりしたときに、使用者が本人や遺族に「災害補償」を行わなければならないという定めがあります。補償の責任を負うのは、あくまで使用者です。
ところが、使用者に十分な支払能力がなければ、責任があっても実際にはお金が出てきません。倒産寸前の会社で大きな事故が起これば、被災した労働者は補償を受けられないまま放り出されてしまいます。
そこで登場するのが労災保険です。事業主が保険料を納め、災害が起きたときには政府が保険給付を行います。保険給付が行われるべき場合には、使用者は労基法上の災害補償の責任を免れます。つまり、使用者の補償を政府が肩代わりする形になっています。
さらに労災保険法は、労基法にはない通勤災害に関する保険給付や、二次健康診断等給付まで用意しています。労基法の災害補償を土台にしながら、そこから発展した制度だと押さえてください。
具体例
従業員6人の金属加工の町工場で、プレス機に指を挟まれる事故が起きたとします。会社に補償の体力がなくても、政府から療養補償給付や休業補償給付が出るため、被災した本人は治療と生活の両方を確保できます。
試験のポイント
簡単にいうと
目的条文は長いのですが、真ん中の「あわせて」で前後にスパッと割ると急に読みやすくなります。
【条文】労働者災害補償保険法第1条
労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
読み方のコツは、途中にある「あわせて」を境目にすることです。
・前半 … 迅速かつ公正な保護のために「保険給付」を行う話
・後半 … 社会復帰の促進、遺族の援護、安全衛生の確保という「社会復帰促進等事業」の話
そして条文の締めくくりが「労働者の福祉の増進に寄与すること」です。選択式では、この「迅速かつ公正な保護」「福祉の増進」といった語がそのまま空欄になりやすいところなので、条文の言い回しのまま覚えてしまうのが得策です。
もう1つ、原因として並んでいる3つ、すなわち「業務上の事由」「複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由」「通勤」の並びも押さえておきましょう。この3つがそのまま、業務災害・複数業務要因災害・通勤災害という3つの災害区分に対応します。
具体例
簡単にいうと
労災保険がやっている仕事は、大きく分けるとたった2つ。ここを幹にして枝を伸ばしていきます。
労災保険が行う事業は、「保険給付」と「社会復帰促進等事業」の2つに分かれます。
保険給付は、さらに次のように整理できます。
・業務災害/複数業務要因災害/通勤災害に対する給付 … 傷病に関する給付、障害に関する給付、介護に関する給付、死亡に関する給付
・二次健康診断等給付 … 上の3つとは別枠の、予防のための給付
二次健康診断等給付は、災害が起きた後の補償ではなく、業務上の事由による脳血管疾患や心臓疾患の発生を予防するために設けられた給付です。安衛法の健康診断制度とつながっているところが特徴です。
もう1つの柱である社会復帰促進等事業は、次の3つで構成されます。
・社会復帰促進事業
・被災労働者等援護事業
・安全衛生確保等事業
なお、複数業務要因災害に関する保険給付は令和2年9月から始まった比較的新しい制度です。副業・兼業で複数の事業場で働く人が、1つの事業場だけで働く人に比べて不利にならないようにするための給付で、給付の内容や考え方は業務災害に関する保険給付と同じです。
簡単にいうと
「誰が運営するか」と「どこに請求するか」は別の話です。ここは択一で細かく問われます。
労災保険を運営することを、法律の言葉で「管掌」といいます。労災保険を管掌するのは政府(厚生労働省)です。保険の運営者のことを「保険者」と呼びますので、労災保険の保険者は政府ということになります。
実際の事務は、原則として所轄の都道府県労働局長が行います。ただし、二次健康診断等給付を除く大半の保険給付に関する事務は、所轄労働基準監督署長が行います。被災した労働者が実際に請求書を出しに行く先は、多くの場合この労働基準監督署です。
分担を整理すると次のようになります。
・政府(厚生労働省) … 労働保険制度全体の管理・運営
・都道府県労働局長 … 二次健康診断等給付の支給に関する事務、特別加入の承認に関する事務など
・労働基準監督署長 … 保険給付(二次健康診断等給付を除く)、労災就学等援護費及び特別支給金の支給に関する事務など
「二次健康診断等給付だけは都道府県労働局長」という点が、この分担表で最も狙われます。二次健康診断等給付は他の給付とは性格が違うので、窓口も違うのだと理解しておくと混乱しません。
具体例
簡単にいうと
健保や年金と決定的に違うところ。労災保険には被保険者という言葉が出てきません。
健康保険や厚生年金保険では、加入している人を「被保険者」と呼び、資格取得や資格喪失の届出が制度の中心にあります。ところが労災保険法には、この「被保険者」という概念がありません。
理由は単純で、適用事業に使用されている労働者はすべて労災保険の保護を受けられるからです。誰が加入者かをいちいち特定して管理する必要がないため、被保険者という枠組み自体が不要なのです。
この違いは、保険料の負担にもあらわれます。労災保険の保険料を納めるのは事業主だけで、労働者が負担する部分はありません。健康保険や厚生年金保険が労使折半であるのと対照的です。
条文構成の上でも、保険者と適用事業は「総則」に置かれています。まず制度の器を定め、そのうえで保険給付・社会復帰促進等事業・費用の負担・特別加入・不服申立てと続いていくのが労災保険法の並びです。
具体例
入社初日のアルバイトが初出勤の作業中にけがをしても、資格取得届が出ているかどうかを問わず労災保険の給付の対象になります。被保険者という登録の仕組みがないためです。
試験のポイント
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治療費を出したり休業中の生活費を補ったりするのが前半の「保険給付」、義肢の費用を援助したり被災労働者の子に学費を援助したりするのが後半の「社会復帰促進等事業」にあたります。
試験のポイント
具体例
2社でパート勤務を掛け持ちしているまりこさんが、どちらか一方だけを見れば労災と認められない程度の負荷でも、2社の労働時間を合わせて評価すれば過重といえる場合には、複数業務要因災害としての給付が検討されます。
試験のポイント
工事現場でけがをしたたけしさんが療養補償給付を請求する先は所轄労働基準監督署長ですが、健康診断で異常が見つかって二次健康診断等給付を請求する場合の相手は所轄都道府県労働局長になります。
試験のポイント
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