労働基準法の全体像と労働契約
労働基準法の入口となるのが、1条から7条までに並ぶ基本原則です。
ここでは「労働条件はどうあるべきか」という理念と、差別の禁止、強制労働の禁止といった人権保護のルールを学びます。条文の言い回しがそのまま選択式で問われる頻出ゾーンなので、キーワードを正確に押さえていきましょう。
簡単にいうと
「人間らしく暮らせる条件が最低ライン。決めるときは労使が対等」という、労基法全体の土台になる考え方です。
労働基準法1条1項は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と定めています。憲法25条の生存権を労働の場面で具体化した理念規定です。
続く1条2項がとても重要です。この法律で定める労働条件の基準は「最低のもの」なので、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならず、その向上を図るように努めなければなりません。
つまり労基法の基準はあくまで最低ラインです。これを上回る、労働者に有利な条件を取り決めるのはまったく問題ありません。逆に「法律がこの水準でいいと言っているから」と条件を下げるのは、この条文が明確に禁止しています。
さらに2条は、労働条件は労働者と使用者が対等の立場で決定すべきものと定めます。労使対等で決めた労働協約・就業規則・労働契約は、使用者だけでなく労働者の側も誠実に守る義務があります。
具体例
パン工場を経営するかえでさんが「法律の最低基準どおりまで有給を減らそう」と考えたとします。既にそれを上回る条件で契約している従業員の条件を、最低基準を理由に引き下げることは1条2項の趣旨に反します。一方、法定より手厚い特別休暇を新設するのは何の問題もありません。
試験のポイント
簡単にいうと
国籍・信条・社会的身分。この3つを理由にした差別はアウト、というルールです。「性別」が入っていないのがひっかけポイントです。
労働基準法3条は、労働者の国籍、信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをすることを禁止しています。
3つの事由の意味を正確に押さえましょう。
・国籍 ― 外国人であることなどを理由とする差別の禁止
・信条 ― 宗教的な信仰や政治的な信念のこと
・社会的身分 ― 生まれながらの身分のこと
試験でよく狙われるのは、この3つに「性別」が入っていないことです。性別を理由とする賃金差別は次のテーマの4条が、賃金以外の性差別は男女雇用機会均等法が受け持つ、という役割分担になっています。
また「信条」について、試験では「宗教上の信仰は含まれない」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。信条には宗教的信念も政治的信念も含まれ、宗教を理由とする差別も3条違反です。
関連判例が三菱樹脂事件です。採用試験で学生運動への参加を隠した応募者の本採用拒否が争われ、最高裁は、3条は雇入れ「後」の労働条件についての制限であり、雇入れそのものを制約する規定ではないとしました。誰をどんな条件で雇うかは、原則として企業の自由という判断です。
具体例
簡単にいうと
女性であることを理由にお給料で差をつけるのは労基法違反。ただし守備範囲は賃金だけ、という点が試験の急所です。
労働基準法4条は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをすることを禁止しています。
大事なのは、この条文の守備範囲が「賃金」に限られることです。配置や昇進、教育訓練といった賃金以外の労働条件での性差別は、4条ではなく男女雇用機会均等法が禁止しています。
試験では「4条は賃金以外の労働条件の性差別も禁止している」といった形で守備範囲を広げる誤りの選択肢が作られます。労基法4条=賃金のみ、それ以外=均等法、と整理して覚えましょう。
具体例
同じ経理の仕事をしているのに、女性のあかりさんだけ基本給が低く設定されていれば4条違反です。一方、昇進の機会で差をつけられた場合は、4条ではなく男女雇用機会均等法の問題になります。
簡単にいうと
暴力や脅しで人を働かせるのは論外。だからこの違反には、労基法の中で一番重いペナルティが用意されています。
労働基準法5条は、使用者が暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制することを禁止しています。
この規定に違反した場合の罰則は「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」で、これは労働基準法の中で最も重い罰則です。
試験では「罰金刑のみが科される」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。5条違反=労基法最重罰(法117条)、とセットで覚えてください。
具体例
運送会社の社長が「辞めたら承知しないぞ」と脅してドライバーのけんとさんを退職させず働かせ続けたなら、5条の強制労働にあたり得ます。この場合、社長には労基法で最も重い刑罰が科される可能性があります。
試験のポイント
簡単にいうと
人の就業に割り込んで手数料を抜く、いわゆる「ピンハネ」を禁止するルールです。主語が「使用者」ではないのがポイントです。
労働基準法6条は「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」と定めています。いわゆる賃金のピンハネを禁止した規定です。
キーワードは2つあります。
・「何人も」 ― すべての者という意味です。個人か団体か、公人か私人かを問いません。使用者に限らず、誰がやっても違反になります
・「業として」 ― 営利目的の行為を反復継続する状態を指します。ただし1回だけの行為でも、反復継続する意思があれば「業として」にあたるとみなされます
なお「法律に基いて許される場合」の代表例は、職業安定法の許可を受けた有料職業紹介事業です。許可を得た正規の紹介ビジネスまで禁止する趣旨ではありません。
具体例
町工場のOBのごろうさんが、知人の工場に人を紹介するたびに本人の給料から「世話代」を毎月抜き取っていたとします。使用者でないごろうさんでも「何人も」に含まれ、繰り返す意思があれば1回目から「業として」にあたり、6条違反となり得ます。
簡単にいうと
「選挙に行きたい」「裁判員に選ばれた」と言われたら、会社は断れません。ただし時刻の変更はOK、給料は払わなくてOKです。
労働基準法7条は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使したり、公の職務(国会議員や裁判員としての職務など)を執行するために必要な時間を請求した場合、使用者は拒んではならないと定めています。
ただし、権利の行使や職務の執行に妨げがない限り、使用者は請求された「時刻」を変更することができます。拒否はできないが、時刻の変更はできる。この対比が最頻出ポイントです。
もうひとつ、この時間について労働者は労務を提供していないので、賃金の支払いは使用者の義務ではありません。有給にするか無給にするかは会社の定めに委ねられています。
試験では「時刻を変更することも許されない」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。正しくは、拒否は不可・時刻変更は可能です。
具体例
スーパーで働くまどかさんが裁判員に選ばれ、勤務時間中の出頭時間を請求しました。店長はこれを拒むことはできません。ただし業務に支障がなければ「午後からにしてもらえる?」と時刻を変更することはできますし、その時間分を無給とすることも可能です。
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貿易会社で働く外国籍のリナさんに、国籍を理由に日本人社員より低い賃金テーブルを適用すれば3条違反です。一方、同社が採用面接で応募者の思想を理由に採用を見送っても、雇入れ前の話なので3条違反にはならない、というのが三菱樹脂事件の考え方です。

差別禁止の役割分担マップ
試験のポイント
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