大日本印刷事件
最高裁第二小法廷・1979年7月20日・最二小判昭54.7.20

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:47「内定をもらったら、もう会社と契約は成立しているの?」——採用内定の法的性質を初めて正面から示した最高裁判決です。内定は単なる約束ではなく「解約権留保付の労働契約」であり、取消しには解雇に準じた厳しい制約がかかることを明らかにしました。
事案の概要
総合印刷業の会社が大卒予定者を募集し、学生は大学の推薦を得て応募、試験に合格して7月頃に文書で採用内定通知を受け取りました。ところが翌年2月頃、会社は突然、理由を記載しない取消通知書で内定の取消しを伝えます。その中心的な理由は、本人が「グルーミー(陰気)な印象」だというものでした。学生は取消しに合理的理由がなく無効だとして提訴しました。
- 募集会社が大卒予定者向けに求人を出しました(=申込みの誘引)
- 応募学生が大学推薦を得て応募し、試験に合格しました(=労働契約の申込み)
- 7月頃会社から文書で採用内定の通知がありました(=承諾)。学生は誓約書を提出しました
- 翌年2月頃会社が理由を示さず採用内定の取消しを通知しました(実質的理由は「陰気な印象」)
- 最高裁始期付・解約権留保付労働契約の成立を認め、取消しを解約権の濫用として無効と判断しました
争点
採用内定によって、企業と内定者の間にはどのような法律関係が成立するのでしょうか。また、企業はどのような理由があれば採用内定を取り消せるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
企業が大学の新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。
したがって、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するにあたっては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある。
(中略)Y社からの募集(申込みの誘引)に対し、Xが応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対するY社からの採用内定通知は、申込みに対する承諾であって、Xの誓約書の提出とあいまって、これにより、XとY社との間に、Xの就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間、誓約書記載の項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのが相当である。
(中略)採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。
(中略)したがって、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。
結論
採用内定の実態は多様なので法的性質を一律には決められず、当該企業の当該年度の事実関係に即して判断します。本件では、募集=申込みの誘引、応募=労働契約の申込み、内定通知=承諾と構成され、誓約書の提出とあいまって「就労の始期を卒業直後とする解約権留保付労働契約」が成立していました。「陰気な印象」を理由とする取消しは社会通念上相当と認められず、解約権の濫用として無効です。
関連法令の解説
労働契約法16条(解雇)
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。本判決の内定取消しの判断基準(客観的合理性+社会通念上の相当性)は、解雇権濫用法理と同じ枠組みです。内定取消しは法的には「留保された解約権の行使」=解雇に準じるものとして扱われる、という理解が要点になります。
民法の契約成立プロセス(申込みの誘引・申込み・承諾)
求人募集は「申込みの誘引」にすぎず、それ自体では契約になりません。学生の応募が「労働契約の申込み」、企業の内定通知が「承諾」にあたり、この時点で契約が成立します。つまり内定通知を出した瞬間に労働契約は成立しており、あとは就労の始期が来るのを待つだけ、という構成です。
身近な例え
部屋を借りるときの「入居申込み→大家さんのOK」に似ています。鍵をもらって住み始めるのは来月でも、OKが出た時点で契約は成立しています。だから大家さんが「やっぱりなんとなく雰囲気が気に入らない」と後から一方的に断ることはできません。内定も同じで、働き始めるのが先でも契約はもう成立しているのです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
内定って「まだ約束の段階でしょ?」と思いがちだけど、実は違うんだ。募集は「申込みの誘引」、応募が「申込み」、内定通知が「承諾」。この時点でもう労働契約は成立してるの。ただし普通の契約とちょっと違って、「入社までに問題が起きたら解約できる権利」を会社が留保している状態——これが解約権留保付労働契約だよ。だから内定取消しは実質的に解雇と同じ扱いで、①内定当時には知りようがなかった事実で、かつ②客観的に合理的で社会通念上相当、この2つを満たさないとダメ。「陰気な印象だから」なんて理由が通らないのは当然だよね。R5の選択式で出たばかりだから、判旨の言い回しはしっかり覚えておいてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
①採用内定の法的性質は一義的に論断できず、当該企業・当該年度の事実関係に即して検討します。②成立するのは「始期付・解約権留保付労働契約」です。③取消事由は「内定当時知ることができず、知ることも期待できない事実」で、かつ「客観的に合理的・社会通念上相当」と認められるものに限られます。R5選択式で出題された最重要判例です。
- ▶R5選択式で出題済みです。「実態は多様」「一義的に論断することは困難」「当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して」が穴埋めの定番フレーズです。
- ▶「採用内定の実態は企業間で類似しているから一律に解約権留保付労働契約が成立する」とする記述は誤りです(H30-3Aの出題趣旨)。事実関係に即した個別判断が原則です。
- ▶取消事由の要件は2段階です。まず「内定当時知ることができず、知ることも期待できない事実」であること、その上で「客観的合理性・社会通念上の相当性」があることです。片方だけの記述はひっかけです。
- ▶内定者の地位は「試用期間中の者の地位と基本的に異ならない」とされました。就労しているかどうかの違いはありますが、法的保護のレベルは同等です。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難」
- 「当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある」
- 「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」
出題実績
- H25-一般1C
- H30-一般3ア
- R5選-一般A・B
独学でも合格をつかみ取れる!
動画・テキスト・過去問・図解まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
全10科目の解説動画が見放題!連続再生・科目別・ブックマーク再生でスキマ時間に効率よく学べます。プレミアム限定
択一式・選択式の年度別/科目別演習が無制限!何度も解きなおせます。マイページで苦手管理もばっちり。プレミアム限定
節ごとの解説動画とテキストPDFで、通勤中もオフラインで復習できる。図解つきでイメージが残る。プレミアム限定
科目別テキストPDFダウンロード可能!ダウンロード後は半永久的に利用可能で、印刷して好きな使い方で学べます。プレミアム限定
テキストのブックマーク管理で苦手分野・何度も確認したい部分を徹底管理可能!プレミアム限定
学習記録・成績管理で自分の進捗を可視化。どの科目に集中すべきか一目でわかる。プレミアム限定
プレミアムプラン
¥7,800/ 購入日から1年間有効(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
同じ科目の判例
山梨県民信用組合事件
就業規則に定められた賃金・退職金に関する労働条件を労働者に不利益に変更する場合、労働者が同意書に署名押印するなど変更を受け入れる旨の行為をしていれば、それだけで有効な同意があったと判断してよいのでしょうか。
朝日火災海上保険(高田)事件
定年年齢の引下げ・退職金の減額という労働条件の不利益変更を定めた労働協約について、労組法17条の一般的拘束力(拡張適用)により、組合員資格のない未組織労働者にもその効力が及ぶのでしょうか。
日立メディコ事件
雇用継続への期待から解雇法理が類推される有期契約の臨時員の雇止めについて、その効力の判断基準は、期間の定めのない契約を締結している正社員(本工)の解雇の場合と同じか、それとも合理的な差異があるか、という点です。