古河電気工業・原子燃料工業事件
最高裁第二小法廷・1985年4月5日・最二小判昭60.4.5

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:13在籍出向中の労働者を出向元に呼び戻す「復帰命令」には、原則として本人の同意が不要であることを示した最高裁判決です。出向を命じるときとは逆に、復帰は当初の雇用契約への回帰にすぎないという理屈で、出向法理の全体像を理解する上で欠かせない判例です。
事案の概要
電機メーカーが他社と共同で、両社の核燃料部門を物的・人的施設ごと引き継がせる合弁会社を新設し、操業に支障が出ないよう自社の労働者を在籍出向させました。出向した従業員の一人は、出向元の在職中から病気等による欠勤・遅刻が多く、出向後もその状況が続きました。出向先は他社との合弁会社であるため、このまま出向させておくのは相手方との関係で問題だと出向元は考え、復職を命じましたが、本人は「すでに出向先の社員だ」として応じませんでした。出向元は懲戒解雇に踏み切り、本人が解雇無効を主張して提訴しました。
- 合弁設立核燃料部門を引き継ぐ合弁会社を新設し、従業員を在籍出向させました
- 勤務不良出向した従業員は、出向元在職中から続く欠勤・遅刻が出向後も続きました
- 復帰命令合弁相手との関係を考慮して出向元が復職を命じましたが、本人は拒否しました
- 懲戒解雇復帰命令に従わないため、出向元が懲戒解雇しました
- 最高裁特段の事由のない限り、復帰命令に本人の同意は不要と判断しました
争点
在籍出向中の労働者に対し、出向元が出向先の同意を得て出向関係を解消し、出向元への復帰を命ずる場合、労働者本人の同意を得る必要があるか、という点です。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者が使用者(出向元)との間の雇用契約に基づく従業員たる身分を保有しながら第三者(出向先)の指揮監督の下に労務を提供するという形態の出向(いわゆる在籍出向)が命じられた場合において、その後出向元が、出向先の同意を得た上、右出向関係を解消して労働者に対し復帰を命ずるについては、特段の事由のない限り、当該労働者の同意を得る必要はないものと解すべきである。
けだし、右の場合における復帰命令は、指揮監督の主体を出向先から出向元へ変更するものではあるが、労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するということは、もともと出向元との当初の雇用契約において合意されていた事柄であって、在籍出向においては、出向元へ復帰させないことを予定して出向が命じられ、労働者がこれに同意した結果、将来労働者が再び出向元の指揮監督の下に労務を提供することはない旨の合意が成立したものとみられるなどの特段の事由がない限り、労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するという当初の雇用契約における合意自体には何らの変容を及ぼさず、右合意の存在を前提とした上で、一時的に出向先の指揮監督の下に労務を提供する関係となっていたにすぎないものというべきであるからである。
結論
在籍出向の解消による出向元への復帰命令は、出向先の同意を得た上であれば、特段の事由のない限り労働者本人の同意を得る必要はありません。復帰は出向元の指揮監督下での労務提供というもともとの雇用契約上の合意に戻るだけであり、在籍出向は一時的に出向先の指揮監督下に入っていたにすぎないからです。
関連法令の解説
労働契約法14条(出向)
出向命令の権利濫用を規制する規定です。本判例が扱ったのは出向の「解消」(復帰)の場面で、同条が直接規律する場面ではありませんが、在籍出向が出向元との雇用契約を維持したまま一時的に出向先の指揮監督下に入る関係だという本判決の理解は、出向をめぐる法律関係全体の前提として重要です。出向を命じる場面(同意の要否のハードルが高い)と復帰させる場面(原則同意不要)の対比で整理しましょう。
身近な例え
図書館の本の貸出に似ています。本(労働者の労務提供先)を友人に貸しても、持ち主は変わりません。貸すときは「貸していい?」と確認が要るけれど、返してもらうのは元の状態に戻るだけなので、本に「戻っていい?」と聞く必要はない、というイメージです。ただし「もう返さなくていい」と約束して譲ったなら話は別、というのが特段の事由に当たります。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
在籍出向って、出向元との雇用契約はそのままで、一時的に出向先の指揮監督の下で働いてるだけの状態なんだ。だから出向元に「戻っておいで」って復帰を命じるのは、もともとの雇用契約の合意に戻るだけだから、特段の事由がない限り本人の同意は要らないよ。例外は「もう出向元には戻さない」って予定で出向して、そういう合意が成立したとみられる場合ね。出向を命じるとき(新日本製鐵事件)は詳細な利益配慮規定が要るのに、復帰は原則フリーパス——この非対称を押さえておくと混乱しないよ。あと復帰命令は「出向先の同意」を得てから、って前提も忘れないでね!
◎ 選択式で狙われるポイント
出向命令(新日本製鐵事件)とは逆方向の「復帰」の場面です。出向を命じるときは利益配慮の詳細規定などが要求されるのに対し、復帰は元の契約への回帰だから原則同意不要、という非対称の構造を押さえましょう。例外となる特段の事由は「復帰させないことを予定した出向で、再び出向元の指揮監督下で働くことはない旨の合意が成立したとみられる」ような場合です。復帰命令の前提として「出向先の同意」を得ている点にも注意してください。
- ▶出向命令には利益配慮の詳細規定等が要求される(新日本製鐵事件)のに対し、復帰命令は原則として同意不要です。方向によって扱いが違う点が最大のひっかけどころです。
- ▶同意不要の理由づけは、復帰が指揮監督の主体を出向先から出向元へ戻すだけで、出向元の指揮監督下での労務提供は当初の雇用契約の合意そのものだから、というものです。「指揮監督」という語は空欄補充で問われやすいので注意しましょう。
- ▶例外の「特段の事由」とは、復帰させないことを予定した出向で、再び出向元の指揮監督下で労務提供することはない旨の合意が成立したとみられる場合です。また、復帰命令は「出向先の同意」を得た上で行うことが前提となります。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「特段の事由のない限り、当該労働者の同意を得る必要はない」
- 「もともと出向元との当初の雇用契約において合意されていた事柄」
- 「一時的に出向先の指揮監督の下に労務を提供する関係となっていたにすぎない」
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