社労士になる子ちゃん
労務管理その他の労働に関する一般常識重要度B親会社のセクハラ防止措置

イビデン事件

最高裁第一小法廷・2018年2月15日・最一小判平30.2.15

イビデン事件の当事者関係図
イビデン事件の当事者関係図
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なる子ちゃんの判例解説動画

プレミアム4:39

グループ共通のコンプライアンス相談窓口を設けた親会社が、子会社従業員へのセクハラ・ストーカー被害の相談にどこまで対応義務を負うかが争われた事件です。親会社が信義則上の義務を負う場合があるという一般論を示しつつ、本件の具体的事情の下では義務違反を否定しました。

事案の概要

親会社はグループ会社共通のコンプライアンス相談窓口を設置していました。子会社の契約社員だった女性は、交際のもつれから別の子会社の従業員によるストーカー行為を受けて退職しました。退職後もその従業員が自宅付近に車を停めるなどの行為を続けたため、元同僚が彼女のために親会社の相談窓口へ申出をしました。親会社は関係会社への調査は行いましたが本人への事実確認をしなかったため、彼女が均等法11条のセクハラ防止措置義務違反を主張して提訴しました。

  1. 被害子会社の契約社員が、別の子会社の従業員からストーカー行為を受けました(行為①)
  2. 退職被害者が勤務先の子会社を退職しました
  3. 継続退職後も、自宅付近に車を停めるなどの行為が続きました(行為②)
  4. 申出元同僚が被害者のために親会社の相談窓口へ行為②を申し出て、親会社は関係者の聞き取り調査を実施しました
  5. 最高裁親会社が信義則上の義務を負う場合があるとしつつ、本件では義務違反を否定しました

争点

グループ会社共通のコンプライアンス相談窓口を設けている親会社は、子会社の従業員から法令違反行為(セクハラ等)の相談の申出があった場合に、その相談内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負うか、という点です。

判旨

判決文からの引用(原文のまま)

Y社は、本件当時、法令遵守体制の一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける相談窓口制度を設け、上記の者に対し、相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。

(中略)本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば、Y社は、相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ、上記申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。

(中略)Y社は、本件相談窓口において、Xの元同僚からXのためとして本件行為②に関する相談の申出(本件申出)を受け、発注会社および勤務先会社に依頼して従業員Aその他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどした。

(中略)しかも、本件申出の当時、Xは、既に従業員Aと同じ職場では就労しておらず、本件行為②が行われてから8カ月以上経過していた。

したがって、Y社において本件申出の際に求められたXに対する事実確認等の対応をしなかったことをもって、Y社のXに対する損害賠償責任を生じさせることとなる相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務違反があったものとすることはできない。

結論

グループ会社の事業場内で就労する者が法令違反行為の被害を相談窓口に申し出た場合、申出の具体的状況によっては、親会社は整備された体制の仕組みの内容や相談内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負うことがあります。ただし本件では、被害者本人が窓口に申し出ていない行為があること、親会社は申出に対し聞き取り調査を実施済みであること、申出時点で被害者は退職済みで行為から8カ月以上経過していたことから、義務違反は認められませんでした。

関連法令の解説

男女雇用機会均等法11条(セクシュアルハラスメント防止措置)

事業主は、職場での性的な言動への労働者の対応により労働条件で不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されたりすることのないよう、労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。本件は、この措置義務を背景に、雇用関係のない親会社にまで対応義務が及ぶかを信義則で処理した事案です。

身近な例え

マンションの管理会社が「困りごと相談ダイヤル」を全棟向けに開設したとします。住民が実際に相談すれば、状況によっては誠実に対応する義務が生じ得ます。ただ、退去から時間がたった元住民の件で、しかも管理会社が一通りの調査を済ませていたなら、それ以上の対応をしなくても義務違反とまではいえない——「窓口を作った以上の責任」の範囲を線引きした判例です。

なる子ちゃん

なる子ちゃんのざっくりまとめ

この判例のポイントは「直接の雇い主じゃない親会社」の責任だよ。親会社がグループ共通の相談窓口を作って周知してた場合、被害を受けた人が窓口に申出をしたら、その具体的状況によっては、親会社も相談内容に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負うことがある——これが一般論。でも本件では、本人が最初の被害を窓口に申し出てなかったし、親会社は申出を受けて聞き取り調査もしてたし、申出の時点で本人は退職済みで行為から8カ月以上たってた。だから結論としては義務違反なし。「義務を負う場合がある」って一般論と「本件では違反なし」って結論を混ぜた出題が定番のひっかけだから、二段構えで覚えてね!

選択式で狙われるポイント

一般論(親会社が信義則上の義務を「負う場合がある」)と本件の結論(義務違反なし)の二段構えが最大のポイントです。義務は一律に生じるのではなく申出の具体的状況次第という限定付きである点、均等法11条のセクハラ防止措置義務(相談体制の整備等)が背景にある点をセットで押さえましょう。

  • 親会社の義務は「負う場合がある」という限定付きです。「相談窓口を設けた親会社は常に対応義務を負う」とあれば誤りです。
  • 本件で義務違反が否定された事情は3つあります。被害者本人が行為①を窓口に申し出ていないこと、親会社は行為②の申出に聞き取り調査を実施済みであること、申出時点で被害者は退職済みで行為②から8カ月以上経過していたことです。
  • 均等法11条は、セクハラにより労働者の就業環境が害されないよう、相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を事業主に義務付ける規定です。確認問題でも条文どおりの出題があり、答えは○になります。

穴埋めで問われるキーフレーズ

  • 上記申出の具体的状況いかんによっては(中略)適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される
  • 体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて
  • 信義則上の義務違反があったものとすることはできない
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