INAXメンテナンス事件
最高裁第三小法廷・2011年4月12日・最三小判平23.4.12

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:59「業務委託契約だから労働者ではない」という会社の主張を最高裁が退け、団体交渉に応じる義務を認めた判決です。労働組合法上の労働者性を判断する要素を整理した判例として、朝日放送事件(労組法上の使用者)と並んで労働組合法分野の中心に置かれます。
事案の概要
親会社が製造したトイレ・浴室・洗面台・台所などの住宅設備機器の修理補修等を主な事業とする会社が、「カスタマーエンジニア(CE)」と呼ばれる約590名の受託者と業務委託契約を結んでいました。自社従業員のうち修理補修業務に従事する可能性がある者はごく一部で、業務の大部分はCEが担っていました。会社はライセンス制度・ランキング制度でCEを管理し、担当地域を割り振り、業務日や休日も調整のうえ指定していました。顧客への請求金額は会社が全国一律で決め、報酬はそれに級ごとの率を乗じて支払われていました。CEは会社の制服を着用し名刺を携行し、各種マニュアルに基づく業務遂行を求められていました。CEらが加入した労働組合が労働条件の変更等を議題に団体交渉を申し入れたところ、会社は、CEは独立した個人事業主で労組法上の労働者に当たらないとして拒否しました。労働委員会が不当労働行為と認定して団交応諾等を命じ、中央労働委員会も再審査申立てを棄却したため、会社が命令の取消しを求めて出訴しました。
- 団交申入れCEが加入した労働組合が、労働条件の変更等を議題に団体交渉を申し入れました
- 拒否会社は、CEは独立した個人事業主で労組法上の労働者に当たらないとして団交を拒否しました
- 救済命令府労委が不当労働行為と認定して団交応諾等を命じ、中労委も再審査申立てを棄却しました
- 原審CEは外注先であり労組法上の労働者に当たらないとして、命令を取り消しました
- 最高裁諸事情を総合考慮してCEの労働者性を認め、団交拒否を労組法7条2号の不当労働行為としました
争点
会社と業務委託契約を結んで住宅設備機器の修理補修業務に従事する受託者は、労働組合法上の「労働者」に当たるか。当たるとすれば、会社が団体交渉を拒否したことは不当労働行為になるか。この2点が争われました。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
CEは,被上告人の上記事業の遂行に不可欠な労働力として,その恒常的な確保のために被上告人の組織に組み入れられていたものとみるのが相当である。
また,CEと被上告人との間の業務委託契約の内容は,被上告人の定めた「業務委託に関する覚書」によって規律されており,個別の修理補修等の依頼内容をCEの側で変更する余地がなかったことも明らかであるから,被上告人がCEとの間の契約内容を一方的に決定していたものというべきである。
さらに,CEの報酬は,(中略)労務の提供の対価としての性質を有するものということができる。
(中略)CEは,基本的に被上告人による個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。しかも,(中略)CEは,被上告人の指定する業務遂行方法に従い,その指揮監督の下に労務の提供を行っており,かつ,その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。
(中略)以上の諸事情を総合考慮すれば,CEは,被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。
結論
①事業の遂行に不可欠な労働力として組織に組み入れられていたこと、②会社が契約内容を一方的に決定していたこと、③報酬が労務の提供の対価としての性質を持つこと、④基本的に個別の依頼に応ずべき関係にあったこと、⑤会社の指定する業務遂行方法に従い指揮監督の下に労務を提供し、場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたこと——これらを総合考慮すれば、受託者は労働組合法上の労働者に当たります。労働者に当たらないことを理由とする団交拒否は、労組法7条2号の不当労働行為を構成します。
関連法令の解説
労働組合法3条(労働者の定義)
「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」と定めます。労基法9条の「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と比べると「使用される」という要件がなく、その分だけ範囲が広くなります。団体交渉による保護を及ぼすべき者を広くとらえる趣旨です。
労働組合法7条2号(団体交渉の拒否)
使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為とする規定です。本判決は、CEが労組法上の労働者に当たる以上、労働者でないことを理由とする団交拒否は正当な理由に当たらず、不当労働行為を構成すると判断しました。
労働組合法27条以下(労働委員会による救済)
不当労働行為を受けた労働者や労働組合は、労働委員会に救済を申し立てることができます。都道府県労働委員会の命令に不服があれば中央労働委員会への再審査申立てができ、命令の取消しは行政訴訟で争います。本件もこの流れをたどりました。
身近な例え
お店の看板を掲げ、制服を着て、決められた地域を担当し、本部から来た注文をほぼ断らずにこなす——見た目はもう「そのお店の人」ですよね。契約書の表紙に「業務委託」と書いてあっても、実態がそうなら交渉相手として扱いなさい、というのがこの判例です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
契約書に「業務委託」って書いてあれば労働者じゃない——そんな単純な話じゃないよ、っていうのがこの判例。労組法上の労働者かどうかは、5つの要素を総合考慮して決めるんだ。①会社の事業に不可欠な労働力として組織に組み入れられてるか、②契約内容を会社が一方的に決めてるか、③報酬が労務の対価といえるか、④基本的に依頼に応ずべき関係にあるか、⑤指揮監督の下で働き、場所的・時間的な拘束を受けてるか。この5つね。そしてすごく大事なのが、労組法上の労働者は労基法上の労働者より広いってこと。藤沢労基署長事件の大工さんは労災では労働者じゃなかったけど、こっちのCEさんは労組法では労働者。同じ「労働者」でも法律ごとにモノサシが違うんだって、ここでしっかり整理しておこう!
◎ 選択式で狙われるポイント
労組法上の労働者性の判断要素は、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤指揮監督下の労務提供・場所的時間的拘束——の5点セットです。契約の名称が「業務委託」でも実態で判断します。労基法上の労働者(藤沢労基署長事件など)より広く認められる点が最大の対比ポイントです。
- ▶労組法上の労働者性の判断要素は、事業組織への組入れ/契約内容の一方的決定/報酬の労務対価性/業務の依頼に応ずべき関係/指揮監督下の労務提供と場所的・時間的拘束です。総合考慮であって、どれか一つで決まるわけではありません。
- ▶承諾を拒否しても債務不履行責任を問われなかったとしても、実際の運用で承諾拒否の割合が1%弱にとどまるなどの事情があれば、「基本的に依頼に応ずべき関係」と評価されます。
- ▶労組法上の労働者は労基法上の労働者より広い概念です。同じような業務委託でも、労災保険では労働者と認められない者(藤沢労基署長事件)が、労組法上は労働者と認められることがあります。
- ▶団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為です。議題が労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項で、かつ使用者が決定できるものであることが前提になります。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「事業の遂行に不可欠な労働力として,その恒常的な確保のために被上告人の組織に組み入れられていた」
- 「被上告人がCEとの間の契約内容を一方的に決定していた」
- 「労務の提供の対価としての性質を有する」
- 「基本的に被上告人による個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあった」
- 「場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていた」
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