片山組事件
最高裁第一小法廷・1998年4月9日・最一小判平10.4.9

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:07病気で現場監督業務ができなくなった建設会社の社員が、事務作業ならできると申し出たのに自宅治療を命じられ、賃金を支払われなかった事件です。職種無限定の契約なら、配置可能性のある他業務での労務提供の申出があれば賃金請求できるとした、労働契約分野の重要判例です。
事案の概要
建設会社に長年勤め、本社工事部で建築工事現場の現場監督業務に従事していた社員が、バセドウ病と診断されました。会社に病気を申し出ないまま現場監督業務を続けた後、次の現場までの臨時的な業務として本社内で図面作成等の事務作業をしていましたが、次の現場監督業務を命じられた際に、疾病のため現場作業には従事できないと申し出ました。会社は現場監督業務に従事できず健康・安全面でも問題があると判断して自宅治療命令を発しました。社員は事務作業なら可能とする主治医の診断書を提出しましたが、会社は命令を続けてその間の賃金を支払わなかったため、不就労期間の賃金支払いを求めて提訴しました。
- 発症21年以上現場監督を務めてきた社員がバセドウ病と診断されました
- 申出次の現場監督業務を命じられた際、疾病のため現場作業には従事できないと申し出ました
- 自宅治療命令会社が自宅治療を命じ、事務作業が可能とする診断書を提出しても命令を継続しました
- 提訴不就労期間の賃金支払いを求めて提訴しました
- 最高裁配置可能性のある他業務での労務提供の申出があれば債務の本旨に従った提供があるとし、原審を否定しました
争点
職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した労働者が、病気のため現に命じられた特定の業務には従事できないものの、他の業務なら労務提供できると申し出ている場合、債務の本旨に従った履行の提供があったとして賃金を請求できるでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情および難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。
そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲に同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。
(中略)Xは、Y社に雇用されて以来21年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されていない。
(中略)本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである。
そうすると、右事実から直ちにXが債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、Xの能力、経験、地位、Y社の規模、業種、Y社における労働者の配置・異動の実情および難易等に照らしてXが配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。
結論
職種無限定の労働契約では、命じられた特定の業務が十全にできなくても、労働者の能力・経験・地位、企業の規模・業種、配置・異動の実情と難易などに照らして配置される現実的可能性がある他の業務で労務提供でき、かつその提供を申し出ているなら、債務の本旨に従った履行の提供があり、賃金請求権が認められます。現場監督ができないことだけを理由に労務提供なしと断定した原審の判断は誤りとされました。
関連法令の解説
民法536条2項(債権者の責めに帰すべき事由による履行不能)
債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付(賃金)の支払いを拒めないとする規定です。労働者が債務の本旨に従った労務提供をしているのに使用者が受領を拒めば、労働者は働いていなくても賃金を請求できます。本判例は、その前提となる「債務の本旨に従った履行の提供」の判断基準を、職種無限定の契約について具体化しました。
身近な例え
ファミレスのホール係が足をけがして接客に立てなくなったけれど、「レジや電話予約の受付ならできます」と申し出ている場面を想像してください。お店に座ってできる仕事が現実にあるなら、「ホールに立てないなら今日は帰って。給料もなし」とは言えない。契約で「ホール係専属」と決めていたわけではないなら、できる仕事で働く用意がある人には賃金を払うべき、という考え方です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
「命じられた仕事ができない=働く意思なし」じゃないよ、っていう判例だよ。ポイントは契約で職種が限定されてたかどうか。職種無限定の契約なら、今命じられてる業務(現場監督)が病気でできなくても、①本人の能力・経験・地位、②会社の規模・業種、③配置・異動の実情や難易度に照らして、配置される現実的可能性のある他の業務(事務作業とか)で働けて、しかもその提供を申し出てるなら、債務の本旨に従った履行の提供あり=賃金請求できるんだ。理由は、同じ病気の制約でも、たまたま担当してた仕事の違いで給料がもらえたりもらえなかったりするのは不合理だから。従業員130人くらいの会社でも他の業務を探すべきとされた点も実務的に大事だよ。「配置される現実的可能性」ってフレーズはそのまま出るから覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
分かれ目は「職種・業務内容を特定した契約かどうか」です。職種無限定なら、①能力・経験・地位、②企業の規模・業種、③配置・異動の実情および難易——に照らした「配置される現実的可能性」のある他業務での労務提供と、その申出があれば足ります。「現場監督ができない=労務提供が一切ない」ではない点がひっかけの定番です。
- ▶判断基準の要素列挙(能力・経験・地位/企業の規模・業種/配置・異動の実情および難易)と「配置される現実的可能性」というフレーズが出題の核です。H26-一般1Cは判旨をなぞる記述で正しい(○)とされました。
- ▶要件は「他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ている」ことです。申出まで必要な点を落とさないようにしましょう。
- ▶理由付けは、同じ身体的制約でも、たまたま命じられていた業務の違いで賃金請求権の有無が左右されるのは不合理だから、という点にあります。
- ▶職種や業務内容が限定された契約の場合はこの枠組みがそのまま及びません。「職種無限定」という前提条件を見落とさないようにしましょう。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合」
- 「能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情および難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性」
- 「なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当」
出題実績
- H26-一般1C
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