川義事件
最高裁第三小法廷・1984年4月10日・最三小判昭59.4.10

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:22宿直中の新入社員が侵入者に殺害された事件で、使用者が労働契約上の付随義務として当然に安全配慮義務を負うことを、民間企業の労働者について初めて明らかにした最高裁判決です。労働契約法5条の源流となった安全配慮義務のリーディングケースです。
事案の概要
Y社に入社したばかりの従業員Aが一人で宿直勤務をしていたところ、Y社の元従業員が社屋に入り込んできました。Aが冷淡に応対して退去を求めたことに元従業員は腹を立て、さらに自分の商品窃取の企てがAに知られたと考えてAを殺害しました。社屋には高価な商品が開放的に陳列され、盗難や不審電話も実際に起きていたのに、会社はのぞき窓・インターホン・防犯ベル等の設備も、宿直員の増員や安全教育もしていませんでした。Aの両親が、会社の安全配慮義務違反によりAが殺害されたとして損害賠償を請求しました。
- 宿直入社間もない従業員Aが一人で24時間の宿直勤務に就きました
- 侵入商品窃取を企てた元従業員が社屋に入り込みました
- 殺害退去を求めたAに腹を立て、企ての露見を知った元従業員がAを殺害しました
- 提訴Aの両親が会社の安全配慮義務違反を主張して損害賠償を請求しました
- 最高裁労働契約上の付随義務としての安全配慮義務を認め、会社の義務違反を肯定しました
争点
使用者は、労働契約に特段の根拠規定がなくても、労働契約上の付随的義務として当然に、労働者の生命・身体等を危険から保護するよう配慮する安全配慮義務を負うのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用しまたは使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。
)を負っているものと解するのが相当である。
もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである(中略)Y社の本件社屋には、昼夜高価な商品が多数かつ開放的に陳列、保管されていて、休日または夜間には盗賊が侵入するおそれがあったのみならず、当時、Y社では現に商品の紛失事故や盗難が発生したり、不審な電話がしばしばかかってきていたというのである。
しかも侵入した盗賊が宿直員に発見されたような場合には宿直員に危害を加えることも十分予見することができたにもかかわらず、Y社では、盗賊侵入防止のためののぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の物的設備や侵入した盗賊から危害を免れるために役立つ防犯ベル等の物的設備を施さず、また、盗難等の危険を考慮して休日または夜間の宿直員を新入社員一人としないで適宜増員するとか宿直員に対し十分な安全教育を施すなどの措置を講じていなかったというのであるから、Y社には、Aに対する前記の安全配慮義務の不履行があったものといわなければならない。
結論
労働契約は労務提供と報酬支払を基本とする双務有償契約ですが、使用者の義務は報酬支払にとどまりません。労働者が労務提供のために使う場所・設備・器具、または使用者の指示のもとで労務を提供する過程において、労働者の生命・身体等を危険から保護するよう配慮する安全配慮義務を、契約に明文がなくても当然に負います。その具体的内容は職種・労務内容・労務提供場所など個別の状況によって決まります。
関連法令の解説
労働契約法5条(労働者の安全への配慮)
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。本判決をはじめとする判例法理で確立した安全配慮義務を、平成19年制定の労働契約法が明文化したものです。判例(源流)と条文(現在)をセットで覚えると効率的です。
身近な例え
夜の店番をアルバイトの新人に一人で任せるオーナーを想像してください。レジに現金があって過去に泥棒も入りかけているのに、鍵も防犯ブザーも用意せず、対処法も教えず「よろしくね」だけでは、給料を払っていても雇い主の責任を果たしたことになりませんよね。働く場所を決めて人を配置する以上、その場所を安全にしておくところまでが雇い主の仕事、という話です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
安全配慮義務っていえばこの判例!ってくらいの基本判例だよ。労働契約は労務の提供と報酬の支払いが基本の双務有償契約だけど、使用者の義務は給料を払って終わりじゃない。労働者は使用者が指定した場所で、使用者が用意した設備を使って働くんだから、その過程で労働者の生命・身体を危険から守るよう配慮する義務=安全配慮義務を、契約に書いてなくても当然に負うんだ。しかも義務の中身は職種や場所しだいで変わる。本件だと防犯設備をつける、宿直を新人一人にしない、安全教育をする、とかね。民間労働者について最高裁が初めて安全配慮義務を認めた判例で、いまの労働契約法5条のルーツだから、条文とセットで覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
民間企業の労働者について最高裁が安全配慮義務を初めて認めた判例で、後の労働契約法5条の基礎となりました。①明文の定めがなくても労働契約に当然付随する義務であること、②義務の具体的内容は状況によって異なること、③「双務有償契約」「生命および身体」「安全配慮義務」が穴埋めの定番であることを押さえましょう。
- ▶判旨の空欄補充は「雇傭契約は…その基本内容とする[双務有償契約]」「労働者の[生命および身体]等を危険から保護するよう配慮すべき義務([安全配慮義務])」の3か所が定番です。
- ▶安全配慮義務は契約書等に明文の定めがなくても、労働契約に当然に付随する義務として使用者が負います。「特約がある場合に限る」とする肢は誤りです。
- ▶義務の具体的内容は固定ではなく、職種・労務内容・労務提供場所など個別の状況に応じて決まります。本件では防犯の物的設備の整備、宿直員の増員、安全教育などが義務の内容とされました。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「双務有償契約」
- 「報酬支払義務にとどまらず」
- 「労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」
- 「安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等(中略)によって異なる」
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