丸島水門事件
最高裁第三小法廷・1975年4月25日・最三小判昭50.4.25

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:54組合の激しい争議行為に対し、会社がロックアウトで就労を拒否して期間中の賃金を支払わなかった事件です。最高裁は、明文の規定がない使用者の争議行為についても、衡平の原則に基づき「対抗防衛手段として相当」と認められる限りで正当性を認め、その場合は賃金支払義務を免れるとしました。ロックアウトの正当性判断の基本判例です。
事案の概要
水門の制作や請負工事を業とする会社に対し、労働組合が数回にわたり賃上げを要求しましたが拒否されたため、実力行使の闘争宣言を通告しました。組合は会社を誹謗するビラ貼付、事務所内のデモ行進、拡声器での誹謗放送などを行い、怠業の深刻化から出張拒否・一斉休暇という部分ストにも発展しました。会社の作業能率は著しく低下し正常な業務遂行も困難となったため、会社はロックアウトを通告して組合員らの就労を拒否し、期間中の賃金を支払いませんでした。組合員らが未払賃金の支払いを求めて提訴しました。
- 賃上げ要求組合が数回の賃上げ要求を拒否され、実力行使の闘争宣言を通告しました
- 争議激化誹謗ビラ・デモ行進・誹謗放送に加え、怠業から出張拒否・一斉休暇の部分ストに発展しました
- ロックアウト業務遂行が困難となった会社がロックアウトを通告し、就労を拒否しました
- 提訴組合員らがロックアウト期間中の未払賃金の支払いを請求しました
- 最高裁対抗防衛手段として相当なロックアウト期間中は賃金支払義務を免れると判断しました
争点
使用者はロックアウト(作業所閉鎖)を正当な争議行為として行うことができるのでしょうか。また、ロックアウト期間中、使用者は対象労働者への賃金支払義務を免れるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
「争議権を認めた法の趣旨が争議行為の一般市民法による制約からの解放にあり、労働者の争議権について特に明文化した理由が専らこれによる労使対等の促進と確保の必要に出たもの(中略)窮極的には公平の原則に立脚するものであるとすれば、力関係において優位に立つ使用者に対して、一般的に労働者に対すると同様な意味において争議権を認めるべき理由はなく、また、その必要もないけれども、そうであるからといって、使用者に対し一切争議権を否定し、使用者は労働争議に際し一般市民法による制約の下においてすることのできる対抗措置をとりうるにすぎないとすることは相当でなく、個々の具体的な労働争議の場において、労働者側の争議行為によりかえって労使間の勢力の均衡が破れ、使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には、衡平の原則に照らし、使用者側においてこのような圧力を阻止し、労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められるかぎりにおいては、使用者の争議行為も正当なものとして是認されると解すべきである。
(中略)労働者の提供する労務の受領を集団的に拒否するいわゆるロックアウト(作業所閉鎖)は、使用者の争議行為の一態様として行われるものであるから、(中略)個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべく、このような相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務をまぬかれるものといわなければならない。」
結論
使用者に労働者と同様の争議権は認められませんが、労働者側の争議行為で勢力の均衡が破れ使用者が著しく不利な圧力を受ける場合には、衡平の原則に照らし、均衡回復のための対抗防衛手段として相当性が認められる限り、使用者の争議行為(ロックアウト)も正当と是認されます。相当性が認められる場合、使用者はロックアウト期間中の対象労働者に対する賃金支払義務を免れます。
関連法令の解説
憲法28条(労働基本権)
団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)を保障するのは労働者に対してであり、使用者は対象ではありません。本判決は、争議権保障の趣旨が労使対等の促進・確保、究極的には公平の原則にあることから出発し、労働者側の争議行為でかえって均衡が崩れた場合に限って、使用者の対抗防衛的な争議行為を正当と認めるという論理を採りました。
身近な例え
綱引きで、もともと力の強いチームにはハンデをつけて対等にしているのに、相手チームが想定外の作戦で一方的に引きずり回してきたら、ハンデ側にも体勢を立て直す手段を認めよう、という発想です。ただし認められるのはあくまで「立て直し」のためであって、先に仕掛ける攻撃は認められません。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
ロックアウトっていうのは、会社側が「もう工場を閉めます!」って労務の受領を集団的に拒否する、使用者側の争議行為だよ。憲法28条の争議権はあくまで労働者のものだから、会社に同じ意味の争議権はないの。でもこの判例は、組合側の激しい争議行為でかえって力関係が逆転して、会社が著しく不利な圧力を受けるときは、衡平の原則から、勢力の均衡を回復する「対抗防衛手段」として相当な範囲でロックアウトも正当って認めたんだ。そして相当性が認められれば、その期間中の賃金は払わなくてOK。キーワードは「衡平の見地」「対抗防衛手段」「相当性」の3つ!攻めのロックアウトじゃなくて守りのロックアウトだけが正当化される、って方向性を間違えないでね!
◎ 選択式で狙われるポイント
①憲法・労組法に使用者の争議権の明文規定はありませんが、判例は衡平の原則から防御的ロックアウトを認めました。②正当性の基準は「労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段としての相当性」で、交渉態度・経過・争議行為の態様・打撃の程度等の具体的諸事情から判断します。③相当性が認められれば期間中の賃金支払義務を免れます。この3点が重要です。先制攻撃型ではなく対抗防衛の場合に限られる点がひっかけどころです。
- ▶憲法28条や労組法が保障するのは労働者の争議権であり、使用者の争議権を定めた明文規定はありません。判例は衡平の原則を根拠に、限定付きで使用者の争議行為を認めました。
- ▶正当性の判断基準は「労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段としての相当性」です。交渉態度・経過、組合側の争議行為の態様、使用者側の受ける打撃の程度等の具体的諸事情で個別に判断します(R2-一般4E)。
- ▶相当性が認められれば、ロックアウト期間中の対象労働者への賃金支払義務を免れます。「ロックアウトをしても賃金支払義務は免れない」とする肢は誤りです。逆に、防衛的でない攻撃的ロックアウトまで常に正当とする肢も誤りです。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められるかぎりにおいては、使用者の争議行為も正当なものとして是認される」
- 「衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうか」
- 「ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務をまぬかれる」
出題実績
- R2-一般4E
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