長澤運輸事件
最高裁第二小法廷・2018年6月1日・最二小判平30.6.1

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:22定年後に嘱託社員として再雇用されたドライバーの賃金格差が争われた事件です。「定年退職後の再雇用であること」が労働契約法20条(当時)の「その他の事情」として考慮されること、不合理性は賃金総額ではなく賃金項目ごとの趣旨を個別に考慮して判断することを示しました。ハマキョウレックス事件と同日の判決です。
事案の概要
セメント等の輸送会社でバラセメントタンク車の乗務員として無期契約で働いていた人たちが、定年退職後に嘱託社員として有期契約で再雇用されました。業務内容も責任の程度も正社員時代と同一で、配転条項も正社員と同様だったのに、基本給は昇給なしの固定、精勤手当・超勤手当などは不支給となり、年間賃金は定年前の79%程度になる想定でした。この相違が不合理な格差だとして提訴されました。
- 定年無期契約の正社員として勤務した後、定年退職を迎えました
- 再雇用嘱託社員として有期契約で再雇用されました。仕事は定年前と同一でした
- 格差基本給固定・諸手当不支給で年間賃金は定年前の79%程度になりました
- 提訴労働条件の相違が不合理な格差だと主張して提訴しました
- 最高裁定年後再雇用を「その他の事情」とし、項目ごとの個別判断で精勤手当・超勤手当以外は不合理でないと判断しました
争点
定年退職後に有期契約で再雇用された嘱託社員と無期契約の正社員との賃金の相違について、不合理性の判断は賃金総額の比較で足りるのでしょうか。また「定年退職後の再雇用であること」は判断でどう扱われるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務内容および変更範囲により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用および人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容および変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。
また、労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる。
(中略)有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は、労働者の職務内容および変更範囲ならびにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである。
(中略)有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条(当時)にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。
(中略)労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合、個々の賃金項目に係る賃金は、通常、賃金項目ごとに、その趣旨を異にするものであるということができる。
(中略)有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
結論
賃金に関する労働条件は職務内容・変更範囲だけで一義的に決まるものではなく、不合理性判断の考慮事情も職務内容関連に限定されません。定年退職後の再雇用であることは労働契約法20条(当時)の「その他の事情」に当たります。そして賃金が複数項目からなる場合は、総額の比較のみではなく賃金項目ごとの趣旨を個別に考慮して判断します。本件では精勤手当・超勤手当以外の相違は不合理でないとされました。
関連法令の解説
労働契約法20条(当時)の「その他の事情」
不合理性判断の考慮要素は「職務の内容」「職務の内容および配置の変更の範囲」「その他の事情」の3つです。本判決は、この「その他の事情」を職務内容関連の事情に限定する理由はないとし、定年退職後の再雇用という事情をここで考慮しました。定年制の下での正社員の賃金体系は長期雇用を前提とする一方、再雇用の有期契約は通常長期雇用を予定しない、という違いが判断の基礎になります。
身近な例え
レストランのコース料理を「合計金額が近いからOK」と評価するのではなく、前菜・メイン・デザートそれぞれの中身を見て妥当かどうか確かめるのに似ています。しかも「常連向けの定食」と「卒業生向けの特別メニュー」では、そもそも値付けの前提が違う——定年後再雇用という事情は、その前提の違いとして考慮されるわけです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
ハマキョウレックス事件と同じ日に出た、定年後再雇用バージョンの判例だよ。キモは2つ。①「定年退職後の再雇用だ」ってこと自体が、20条(当時)の「その他の事情」として考慮される。だから仕事が定年前と全く同じでも、ある程度の賃金ダウンは不合理じゃないとされ得るんだ。②賃金の不合理性は、総額をざっくり比べるんじゃなくて、基本給・手当・賞与みたいな項目ごとに、その項目の趣旨を個別に見て判断する。本件で不合理とされたのは精勤手当と超勤手当の関係だけ。ハマキョウレックスとの結論の違いを対比で覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
①定年後再雇用は「その他の事情」として考慮されます。②不合理性は総額比較ではなく賃金項目ごとに趣旨を個別考慮します。③本件で不合理とされたのは精勤手当・超勤手当関係のみです。この3点が重要です。同日のハマキョウレックス事件(職務同一・多くの手当が不合理)との結論の違いが対比で狙われます。
- ▶「定年退職後の再雇用であること」は20条(当時)の「その他の事情」に当たります。考慮事情は職務内容・変更範囲に関連する事情に限定されません。
- ▶賃金項目ごとに趣旨が異なるため、不合理性は総額比較のみでは判断しません。「賃金総額で比較すれば足りる」とあれば誤りです。
- ▶職務の内容・変更の範囲が正社員と同一でも、定年後再雇用という事情により多くの項目の相違が不合理でないとされました。ハマキョウレックス事件との結論の違いに注意しましょう。
- ▶賃金の在り方は基本的に団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きい、という判示も穴埋め候補です。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「職務内容および変更範囲により一義的に定まるものではなく」
- 「雇用および人事に関する経営判断の観点」
- 「定年退職後に再雇用された者であることは(中略)「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる」
- 「賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」
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