ネスレ日本事件
最高裁第二小法廷・2006年10月6日・最二小判平18.10.6

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:37職場での暴行事件から7年以上経ってから行われた諭旨退職処分を、権利の濫用として無効とした最高裁判決です。「懲戒事由に該当する事実があっても、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でなければ無効」という一般基準は、そのまま労働契約法15条に明文化されました。
事案の概要
従業員らが、欠勤を有給休暇に振り替える申請を管理職の上司に認められなかったことなどをきっかけに、上司へ暴行する事件を起こしました。上司は警察・検察庁に被害届や告訴状を出しており、会社は捜査の結果を待って処分を検討することにしましたが、約6年後に不起訴処分となりました。会社は事件から7年以上経ってから従業員らに諭旨退職処分を通告し、期限までに退職願が出されなかったため就業規則所定の懲戒事由に当たるとして懲戒解雇処分としました。従業員らは処分は権利濫用で無効だと主張して提訴しました。
- 暴行事件有休振替の不承認などをきっかけに、従業員らが職場で上司に暴行しました
- 捜査待ち上司が被害届・告訴状を提出し、会社は捜査結果を待って処分を検討する方針をとりました
- 不起訴約6年後、検察が不起訴処分と決定しました
- 諭旨退職事件から7年以上経過後に諭旨退職処分を通告し、退職願が出されず懲戒解雇となりました
- 最高裁長期留保に合理的理由がなく、不起訴後の重い処分は一貫性を欠くとして無効と判断しました
争点
就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合でも、懲戒処分が権利の濫用として無効になることがあるのでしょうか。また、事件から7年以上経過した後に行われた諭旨退職処分(実質は懲戒解雇に等しいもの)は有効なのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
(中略)本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずともY社においてXらに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。
しかも、使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、上記の捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、Y社がXらに対し実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。
(中略)本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、(中略)処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない。
そうすると、本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効というべきであり、本件諭旨退職処分による懲戒解雇はその効力を生じないというべきである。
結論
懲戒事由に該当する事実が存在しても、具体的事情の下で客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と是認できないときは、懲戒処分は権利の濫用として無効になります。本件では目撃者がいて捜査結果を待たずに処分できたのに7年以上懲戒権の行使を留保する合理的理由がなく、不起訴となった後に実質懲戒解雇に等しい重い処分をするのは対応の一貫性を欠くため、無効とされました。
関連法令の解説
労働契約法15条(懲戒)
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」という規定です。本判決の示した「客観的に合理的な理由+社会通念上の相当性」の枠組みがそのまま条文化されており、判例と条文の対応関係が問われます。
身近な例え
子どもがいたずらをしたのに、親が7年間何も言わず、しかも警察沙汰にもならないと分かった後になって突然「あのときのことで家から出て行きなさい」と言うようなものです。叱るなら事実が分かった時点で叱るべきで、時間が経てば経つほど重い罰の必要性は薄れていく、という感覚が法律の世界でも通用することを示した判例です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
懲戒事由に当たる事実があっても、それだけで懲戒処分が有効になるわけじゃないよ。具体的事情の下で「客観的に合理的な理由」を欠いて「社会通念上相当」と是認できないときは、権利の濫用で無効——これが大原則で、労契法15条の元になった枠組みなんだ。この事件では、目撃者がいたから捜査結果を待たなくても処分できたのに7年以上も放置してた点と、不起訴になったのに実質懲戒解雇レベルの諭旨退職をした点(対応の一貫性を欠く)が決め手になって無効とされたの。「時間が経ちすぎた重い処分はアウトになり得る」って感覚で覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「客観的に合理的な理由+社会通念上の相当性」という懲戒権濫用の一般基準を示した判例で、労働契約法15条の明文の元になった枠組みです。当てはめでは①長期間の懲戒権留保に合理的理由がないこと、②不起訴後に重い処分をするのは一貫性を欠くこと、の2点が決め手になりました。処分までの時間の経過が処分の効力を左右することを示した点が特徴です。
- ▶H29-一般1Dで本判例の趣旨(目撃者がいて捜査結果を待たず処分可能だった事情の下では、7年以上経過後の諭旨退職処分は権利濫用で無効)が出題されました。
- ▶一般基準の空欄補充は「企業秩序維持」の観点、「権利の濫用」として無効、の部分が狙われます。懲戒権は企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能である、という位置づけもセットで押さえましょう。
- ▶「懲戒事由に該当する事実が存在すれば懲戒処分は有効」とあれば誤りです。該当事実があっても、客観的合理性と社会通念上の相当性を欠けば権利濫用で無効になります。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になる」
- 「長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い」
- 「その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない」
出題実績
- H29-一般1D
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