社労士になる子ちゃん
労務管理その他の労働に関する一般常識重要度A退職勧奨の限界と違法性

下関商業高校事件

最高裁第一小法廷・1980年7月10日・最一小判昭55.7.10

下関商業高校事件の当事者関係図
下関商業高校事件の当事者関係図
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なる子ちゃんの判例解説動画

プレミアム4:38

「辞めてくれませんか」はどこまで言っていいのでしょうか。市立高校の教員2名に対し、断られてもなお短期間に何度も長時間の説得を繰り返した市教育委員会の退職勧奨が、社会通念上の限度を超えて違法とされた判例です。退職勧奨と退職強要の境目を示す定番教材です。

事案の概要

市立高校に勤務する2名の教員が、県教育委員会の定めた退職勧奨年齢に達したことから、年度末ごとに校長らから退職を勧奨されていました。2名は応じない意思を表明し、退職に応じた場合の優遇措置も打ち切られていましたが、市教育委員会の担当者は「退職するまで勧奨を続ける」と繰り返し述べ、短期間に多数回、長時間にわたって説得を続けました。さらに、退職しない限り所属組合が求めていた宿直廃止や欠員補充の要求にも応じないという態度を示しました。2名は、勧奨行為が違法だとして損害賠償を求めました。

  1. 勧奨開始退職勧奨年齢に達した2名に対し、年度末ごとに退職を勧奨しました
  2. 拒否の表明2名が勧奨に応じない意思を明確に表明し、優遇措置も打ち切られました
  3. 執拗な勧奨「退職するまで続ける」と述べ、短期間に多数回・長時間の説得を反復しました
  4. 不利益の示唆退職しない限り組合の宿直廃止・欠員補充の要求に応じないとの態度を示しました
  5. 最高裁退職勧奨行為を違法とした原審の判断を是認し、上告を棄却しました

争点

退職勧奨はどこまで許されるのでしょうか。勧奨に応じない意思を明確にしている者に対し、繰り返し長時間にわたって退職を促す行為は違法となるのでしょうか。

判旨

判決文からの引用(原文のまま)

地方公務員である市立高等学校の教員が退職勧奨に応じないことを表明し、優遇措置も打ち切られているのにかかわらず、市教育委員会の担当者が、退職するまで勧奨を続ける旨繰り返し述べて短期間内に多数回、長時間にわたり執拗に退職を勧奨し、かつ、退職しない限り所属組合の宿直廃止、欠員補充の要求にも応じないとの態度を示すなど、原判示の事実関係のもとにおいては、右退職の勧奨行為は違法である。(反対意見がある。)

結論

退職勧奨は、労働者に自発的な退職の意思形成を促す事実行為にすぎず、応じるかどうかは本人の自由です。応じない意思を明確に表明している者に対し、短期間に多数回・長時間にわたって執拗に勧奨を繰り返し、さらに勧奨に応じないことを組合要求への対応と結びつけるような態度を示した場合には、社会通念上許される限度を超えるものとして違法となり、損害賠償の対象になります。

関連法令の解説

国家賠償法1条1項

国または公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うにつき故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が賠償責任を負うと定めます。本件は市立高校の教員に対する市教育委員会の行為が問題になったため、民法709条ではなくこの条文が適用されました。

民法709条(不法行為)

故意または過失によって他人の権利・法律上保護される利益を侵害した者は損害賠償責任を負います。民間企業での行き過ぎた退職勧奨は、この条文により慰謝料等の損害賠償の対象になります。退職の意思表示自体が無効になるかどうか(民法96条の強迫等)とは別の問題です。

労働契約法16条(解雇)

解雇は客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は無効です。退職勧奨は使用者の一方的な意思表示ではなく合意退職の申込み・誘引にすぎないため、この条文の直接の適用場面ではありません。だからこそ使用者は勧奨という形をとりたがるのですが、態様が行き過ぎれば別途違法になる、というのが本判例です。

身近な例え

友達に「一緒に部活を辞めよう」と誘うのは自由です。でも、はっきり断られたあとも毎日何度も長時間つかまえて説得し、「辞めないなら部の備品の要望も通さない」とほのめかしたら、それはもう誘いではなく圧力。誘うこと自体ではなく、やり方が線を越えたかどうかが問われます。

なる子ちゃん

なる子ちゃんのざっくりまとめ

退職勧奨って要するに「辞めてもらえませんか」ってお願いだから、それ自体は違法じゃないんだ。断るのも自由。でもこの事件では、2人がはっきり断ってるのに「退職するまで勧奨を続ける」って言いながら短期間に何度も長時間しつこく説得して、しかも「辞めないなら組合の要求にも応じない」って不利益までちらつかせた。ここまでくると社会通念上の限度を超えて違法、損害賠償の対象になるよ、っていう判断なんだ。試験で気をつけたいのは、違法になっても効果は「解雇無効」じゃなくて「不法行為による損害賠償」だってこと。解雇と退職勧奨は別ルートだから、そこを混ぜないでね!

選択式で狙われるポイント

退職勧奨は解雇と違って「お願い」であり、それ自体は違法ではありません。違法になるのは態様が行き過ぎたときで、判断材料は①応じない意思を表明しているか、②回数・時間・期間、③断りにくくする不利益の示唆(本件では宿直廃止・欠員補充要求への非対応)です。なお最高裁の判決本文は原審の認定判断を是認して上告を棄却したにとどまり、独自の一般法理は述べていないため、判旨は公式の裁判要旨によっています(藤崎萬里・本山亨両裁判官の反対意見があります)。

  • 退職勧奨そのものは違法ではありません。労働者に自発的な退職の意思形成を促す事実行為であり、応じるか断るかは本人の自由です。違法になるのは、態様が社会通念上の限度を超えた場合に限られます。
  • 違法性の判断材料は、応じない意思の表明があったかどうか、勧奨の回数・時間・期間、そして退職しないことに不利益を結びつける言動の有無です。回数が多いというだけでは決まらず、総合判断になります。
  • 退職勧奨は解雇ではないので、解雇権濫用法理(労働契約法16条)そのものは適用されません。違法とされた場合の法的効果は、不法行為(本件は公務員に対する行為なので国家賠償)に基づく損害賠償である点に注意しましょう。
  • 本件では最高裁に反対意見がありましたが、退職勧奨は目的が合理的で、対象者の選定が公平であり、説得の手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り正当な業務行為として行いうる、という枠組み自体は多数意見・反対意見に共通していました。

穴埋めで問われるキーフレーズ

  • 退職勧奨に応じないことを表明し、優遇措置も打ち切られているのにかかわらず
  • 退職するまで勧奨を続ける旨繰り返し述べて短期間内に多数回、長時間にわたり執拗に退職を勧奨し
  • 右退職の勧奨行為は違法である
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