東芝労働組合小向支部事件
最高裁第二小法廷・2007年2月2日・最二小判平19.2.2

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:35「組合を脱退しない」という約束はどこまで有効なのでしょうか——組合員の脱退の自由が原則であり、組合の統制権は脱退の自由があって初めて正当化されることを明言した最高裁判決です。脱退の効力自体を否定する合意は公序良俗違反で無効とされました。
事案の概要
Xはかつて所属していたY労働組合の対応に不満を抱き、別のA労働組合に加入してYへの脱退を申し出ましたが、受理が保留された経緯がありました。その後、労働委員会での和解・覚書作成の際、会社・X・A労組の三者間で「XはY労組に復帰するがA労組の籍も残す」「会社がXを不当に扱うなど特段の事情があればA労組はXが組合員であると主張できる」という付随合意が成立しました。Xは後に再びY労組からの脱退を申し出て、会社に組合費のチェック・オフの中止を求めましたが応じられなかったため、自分はY労組の組合員ではないとして、チェック・オフされた金額の返還を求めて提訴しました。
- 不満・脱退申出XがY労組の対応に不満を抱き、A労組に加入してY労組へ脱退を申し出ましたが保留されました
- 付随合意労働委員会の和解の際、Y労組に復帰しつつA労組の籍も残す旨の三者合意が成立しました
- 再度の脱退申出Xが再びY労組からの脱退を申し出て、会社にチェック・オフの中止を求めました
- 提訴会社が応じなかったため、Xがチェック・オフされた金額の返還を求めて提訴しました
- 最高裁脱退の効力を生じさせない合意部分は公序良俗に反し無効と判断しました
争点
労働組合から脱退する権利をおよそ行使しない旨の合意は有効なのでしょうか。また、脱退の自由が認められていない状況の下で、労働組合の組合員に対する統制権の保持は法律上認められるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
一般に、労働組合の組合員は、脱退の自由、すなわち、その意思により組合員としての地位を離れる自由を有するものと解される。
そうすると、事実関係によれば、本件付随合意は、上記の脱退の自由を制限し、XがY組合から脱退する権利をおよそ行使しないことを、会社に対して約したものであることとなる。
本件付随合意は、Xと会社との間で成立したものであるから、その効力は、原則として、Xと合意の相手方である会社との間において発生するものであり、Xが本件付随合意に違反してY組合から脱退する権利を行使しても、会社との間で債務不履行の責任等の問題を生ずるにとどまる。
(中略)また、労働組合は、組合員に対する統制権の保持を法律上認められ、組合員はこれに服し、組合の決定した活動に加わり、組合費を納付するなどの義務を免れない立場に置かれるものであるが、それは、組合からの脱退の自由を前提として初めて容認されることである。
そうすると、本件付随合意のうち、Y組合から脱退する権利をおよそ行使しないことをXに義務付けて、脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は、脱退の自由という重要な権利を奪い、組合の統制への永続的な服従を強いるものであるから、公序良俗に反し、無効であるというべきである。
結論
組合員には脱退の自由(意思により組合員としての地位を離れる自由)が認められます。組合の統制権は、この脱退の自由を前提として初めて容認されます。脱退しない旨の合意は会社との間の合意にすぎず、違反しても会社との債務不履行の問題を生じ得るにとどまるうえ、脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は、脱退の自由という重要な権利を奪い組合統制への永続的な服従を強いるものとして公序良俗に反し無効です。
関連法令の解説
労働組合法7条(不当労働行為)
使用者が、労働者が組合員であること等を理由に不利益取扱いをすることや、組合に加入しないこと・組合から脱退することを雇用条件とすること(黄犬契約)を禁止する規定です。本件では会社が労働者の組合所属に関与する合意の効力が問題となっており、関連条文として整理されています。
民法90条(公序良俗)
公の秩序または善良の風俗に反する法律行為を無効とする規定です。本判決は、脱退の効力そのものを生じさせない合意部分について、脱退の自由という重要な権利を奪い組合統制への永続的な服従を強いるものだとして、この規定により無効としました。
身近な例え
会員制のクラブに入るとき「一生退会しません」という誓約書を書かされたようなものです。クラブがルールを守らせる力を持てるのは、嫌なら辞められるからこそ。出口をふさいだままルールへの服従だけ求める契約は、社会のルールとして認められない、ということです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
この判例のキモは「統制権と脱退の自由はセット」ってことだよ。組合が組合員に活動参加や組合費納付を義務づけられる(統制権)のは、嫌なら脱退できる自由があるからこそ正当化されるんだ。だから「脱退する権利をおよそ行使しない」と約束させて脱退の効力自体を認めない部分は、公序良俗違反で無効。もうひとつ、脱退しない合意はXと会社の間のものだから、破っても会社への債務不履行の問題が生じ得るだけで、脱退そのものは有効という「効力の相対性」も覚えておいてね。H24に判旨そのままの正しい肢で出てるよ!
◎ 選択式で狙われるポイント
「統制権は脱退の自由を前提として初めて容認される」というフレーズがそのまま正誤判定の素材になります(H24-一般2C・正しい肢)。脱退制限合意の効力は①相手方(会社)との間の債務不履行の問題にとどまること、②脱退の効力自体を否定する部分は公序良俗違反で無効であること、という二段構えで押さえてください。
- ▶「労働組合は組合員に対する統制権の保持を法律上認められるが、それは組合からの脱退の自由を前提として初めて容認される」——この判旨がH24-一般2Cで正しい肢としてそのまま出題されました。
- ▶脱退しない旨の合意はXと会社の間の合意なので、効力は原則その当事者間にのみ生じます。合意に違反して脱退しても、会社との債務不履行の問題が生じ得るにとどまります(脱退自体は有効です)。
- ▶脱退する権利をおよそ行使させず、脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は公序良俗(民法90条)違反で無効です。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「脱退の自由、すなわち、その意思により組合員としての地位を離れる自由を有する」
- 「組合からの脱退の自由を前提として初めて容認される」
- 「脱退の自由という重要な権利を奪い、組合の統制への永続的な服従を強いるものであるから、公序良俗に反し、無効」
出題実績
- H24-一般2C
独学でも合格をつかみ取れる!
動画・テキスト・過去問・図解まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
全10科目の解説動画が見放題!連続再生・科目別・ブックマーク再生でスキマ時間に効率よく学べます。プレミアム限定
択一式・選択式の年度別/科目別演習が無制限!何度も解きなおせます。マイページで苦手管理もばっちり。プレミアム限定
節ごとの解説動画とテキストPDFで、通勤中もオフラインで復習できる。図解つきでイメージが残る。プレミアム限定
科目別テキストPDFダウンロード可能!ダウンロード後は半永久的に利用可能で、印刷して好きな使い方で学べます。プレミアム限定
テキストのブックマーク管理で苦手分野・何度も確認したい部分を徹底管理可能!プレミアム限定
学習記録・成績管理で自分の進捗を可視化。どの科目に集中すべきか一目でわかる。プレミアム限定
プレミアムプラン
¥7,800/ 購入日から1年間有効(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
同じ科目の判例
山梨県民信用組合事件
就業規則に定められた賃金・退職金に関する労働条件を労働者に不利益に変更する場合、労働者が同意書に署名押印するなど変更を受け入れる旨の行為をしていれば、それだけで有効な同意があったと判断してよいのでしょうか。
朝日火災海上保険(高田)事件
定年年齢の引下げ・退職金の減額という労働条件の不利益変更を定めた労働協約について、労組法17条の一般的拘束力(拡張適用)により、組合員資格のない未組織労働者にもその効力が及ぶのでしょうか。
日立メディコ事件
雇用継続への期待から解雇法理が類推される有期契約の臨時員の雇止めについて、その効力の判断基準は、期間の定めのない契約を締結している正社員(本工)の解雇の場合と同じか、それとも合理的な差異があるか、という点です。