労働保険事務組合とその他の規定
小さな会社が労働保険の手続を自力でこなすのは大変です。そこで、事業主の団体が中小事業主に代わって事務を処理する仕組みが用意されています。それが労働保険事務組合です。
社労士の実務とも深く関わる分野です。委託できる事業主の範囲、委託できる事務の範囲、そして納付責任の3つが柱になります。
簡単にいうと
まず定義と認可基準です。30以上・2年以上という数字を押さえます。
労働保険事務組合とは、事業主の団体又はその連合団体が、その構成員である事業主等の委託を受けて労働保険事務を処理するために厚生労働大臣の認可を受けた場合に、その認可を受けたその団体又は連合団体の呼称です。
「呼称」という言い方に注目してください。新しく法人を作るのではなく、既存の事業主の団体が認可を受けると労働保険事務組合と呼ばれるようになる、という構造です。商工会や事業協同組合などが認可を受けているケースが多くなっています。
厚生労働大臣の認可基準(抜粋)は次のとおりです。
・代表者の定めがあることのほか、団体等の事業内容、構成員の範囲、その他団体等の組織、運営方法等が定款等において明確に定められ、団体性が明確であること
・労働保険事務の委託を予定している事業主が30以上あること
・団体等は団体等として本来の事業目的をもって活動し、その運営実績が2年以上あること
数字は2つです。委託を予定している事業主が30以上、運営実績が2年以上。
3つ目の要件に「本来の事業目的をもって活動し」とあるとおり、労働保険事務の代行だけを目的に作られた団体は認可されません。実体のある団体であることが求められます。
零細企業をはじめ労働保険事務手続きがきっちりできていないところは未だに多く、これらの未手続事業に労働保険の適用を進めるにあたって、労働保険事務組合の果たす役割は大きいものがあります。
具体例
地域の商工会が認可を受けて労働保険事務組合になり、会員である小規模事業者の年度更新をまとめて処理する、というのが典型です。
試験のポイント
簡単にいうと
3つの手続と3つの期限です。書類名も問われます。
労働保険事務組合に関する手続を3つ確認します。
認可申請
労働保険事務組合の認可を受けようとする事業主の団体等は、労働保険事務組合認可申請書を、その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければなりません。
変更の届出
労働保険事務組合は、申請書や一定の添付書類に変更を生じた場合には、その変更があった日の翌日から起算して14日以内に、その旨を記載した届書をその主たる事務所の所轄都道府県労働局長に提出しなければなりません。
業務の廃止
労働保険事務組合は、業務を廃止しようとするときは、60日前までに、労働保険事務組合業務廃止届により厚生労働大臣(都道府県労働局長に権限委任)に届け出なければなりません。
期限を整理しましょう。
・変更 … 変更があった日の翌日から起算して14日以内(事後)
・業務の廃止 … 60日前まで(事前)
簡単にいうと
中小事業主だけが委託できます。3つの数字は特別加入と同じです。
労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託できる事業主は、その使用する労働者数が次の人数以下であるものです。
・原則 … 常時300人以下
・金融業、保険業、不動産業又は小売業を主たる事業とする事業主 … 常時50人以下
・卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主 … 常時100人以下
300人・50人・100人という3つの数字は、労災保険法で学んだ中小事業主等の特別加入の規模要件と同じです。まとめて覚えられます。
業種のくくり方に注意してください。50人のグループに「保険業」が入っています。特別加入では「金融業・保険業・不動産業・小売業」でしたから、こちらも同じです。
試験では、金融業を主たる事業とする事業主であり常時使用する労働者が50人を超える場合、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託することはできない、という記述が正しいものとして出題されています(法33条1項、則62条2項)。
「50人以下」が委託できる範囲ですから、「50人を超える」と委託できません。この境目の表現も問われます。
中小事業主に限られているのは、この制度が事務処理能力の乏しい小規模事業者を支援するためのものだからです。大企業は自力で処理できるという前提です。
簡単にいうと
「保険料まわりは委託できる、給付まわりはできない」で整理します。
委託できる労働保険事務
・労働保険料・徴収金の申告・納付
・雇用保険の被保険者に関する届出等
・保険関係成立届、労災保険又は雇用保険の任意加入申請書、雇用保険の事業所設置届等の提出
・労災保険の特別加入の申請等
・その他労働保険についての申請、届出及び報告等
委託できない労働保険事務
・印紙保険料に関する事務手続及びその代行
・労災保険の保険給付及び社会復帰促進等事業として行われる特別支給金に関する請求書等に係る事務手続及びその代行
・雇用保険の保険給付に関する請求書等に係る事務手続及びその代行
・雇用保険二事業に係る事務手続及びその代行
簡単にいうと
事務組合はどこまで責任を負うのか。ここが最後の山場です。
労働保険事務組合に関する法的効果を2つ確認します。
通知等の相手方
政府は、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託した事業主に対してすべき労働保険関係法令の規定による労働保険料の納入の告知その他の通知及び還付金の還付については、これを労働保険事務組合に対してすることができます。この場合において、労働保険事務組合に対してした通知及び還付は、当該事業主に対してしたものとみなされます。
労働保険料その他の徴収金の納付責任
労働保険事務の処理の委託に基づき、事業主が労働保険料その他の徴収金の納付のため金銭を労働保険事務組合に交付したときは、その金額の限度で、労働保険事務組合は政府に対して当該徴収金の納付の責任を負います。
「その金額の限度で」という限定が重要です。事業主から預かった金額の範囲でしか責任を負いません。当然ながら、労働保険事務組合は委託事業主から金銭の交付を受けていない労働保険料その他の徴収金については、納付の責任を負うものではありません。
お金を預かったのに納めなかったなら組合の責任、そもそも預かっていないなら事業主の責任、という切り分けです。
ただし例外があります。試験では『労働保険料の納付義務者である委託事業主に係る督促状を労働保険事務組合が受けたが、当該労働保険事務組合が当該委託事業主に対して督促があった旨の通知をしないため、当該委託事業主が督促状の指定期限までに納付できず、延滞金を徴収される場合、当該委託事業主のみが延滞金の納付の責任を負う』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。
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廃止だけが事前の届出です。委託している事業主が困らないよう、余裕をもって知らせる必要があるからです。
書類名にも注意してください。試験では『労働保険事務組合が、労働保険事務の処理に係る業務を廃止しようとするときは、60日前までに、労働保険事務等処理委託解除届を当該労働保険事務組合の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出することによって行わなければならない』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。正しくは「労働保険事務組合業務廃止届」です(法33条3項、則66条、則76条3号)。
労働保険事務等処理委託解除届は、個々の事業主との委託関係を解除するときの書類で、組合そのものの業務を廃止するときの書類ではありません。
具体例
事務組合が代表者を変更したら14日以内に届け出ます。組合そのものをやめるなら、やめる60日前までに届け出ます。
試験のポイント
なお、労働保険事務組合に委託していると、いくつかの場面で有利な扱いを受けられます。
・概算保険料の延納 … 金額の要件を満たさなくても延納できる
・延納の納期限 … 継続事業の第2期・第3期が11月14日・翌年2月14日に延びる
・保険関係成立届の提出先 … 一元適用事業でも所轄公共職業安定所長になる
具体例
従業員40人の不動産会社は委託できますが、60人になると委託できなくなります。同じ60人でもサービス業なら委託できます。
試験のポイント
給付が委託できないのは、給付の請求が労働者本人や遺族の権利行使であって、事業主の事務ではないからです。事業主が代行できない以上、その事業主から委託を受けた事務組合も代行できません。
印紙保険料が委託できないのは、日々手帳に印紙を貼るという性質上、事務組合がまとめて処理できないからです。
雇用保険二事業が委託できないのは、助成金の申請が個々の事業主の事情に応じた判断を要するためです。
注目したいのは、労災保険の特別加入の申請が「委託できる」側に入っている点です。特別加入は保険料に直結する手続なので、委託の対象になります。中小事業主等が特別加入するには労働保険事務組合への委託が前提でしたから、当然といえば当然です。
具体例
事務組合は年度更新の申告・納付や雇用保険の資格取得届を代行できますが、従業員がけがをしたときの療養補償給付の請求は代行できません。
試験のポイント
この場合、労働保険事務組合が延滞金の納付の責任を負います(法35条2項)。政府が追徴金又は延滞金を徴収する場合において、その徴収について労働保険事務組合の責めに帰すべき理由があるときは、その限度で、労働保険事務組合が政府に対して当該徴収金の納付の責めに任ずるものとされているからです。
督促状を受け取りながら事業主に伝えなかったのは組合の落ち度ですから、その結果生じた延滞金は組合が負担するということです。
具体例
事業主から100万円を預かった事務組合が納付を怠れば、その100万円について組合が責任を負います。預かっていない分は事業主の責任です。
試験のポイント
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