保険給付の通則
交通事故のように、加害者がいる事故で健康保険を使うことがあります。そのとき、被害者が加害者からも賠償を受けたら二重取りになってしまいます。それを防ぐのが損害賠償との調整です。
この節では、代位取得と免責という2つの調整のほか、法人の役員に対する特例、不正利得の徴収、受給権の保護、そして健康保険組合だけに認められる付加給付を扱います。給付の通則にあたる、細かいが確実に出る分野です。
簡単にいうと
先に保険が払えば請求権を引き継ぎ、先に賠償を受けたら保険は払いません。
給付事由が第三者の行為によって生じた場合、保険者と加害者の間で費用の付け替えが起こります。どちらが先に支払ったかで扱いが分かれます。
第一に代位取得です。保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、保険給付を受ける権利を有する者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得します。保険者が肩代わりした分だけ、被害者に代わって加害者に請求できるようになるということです。
第二に免責です。保険給付を受ける権利を有する者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者はその価額の限度において保険給付を行う責めを免れます。すでに賠償で穴が埋まった分については、保険から出す必要がないという理屈です。
どちらも「価額の限度において」という点が共通しています。全部が動くのではなく、金額の重なった範囲だけが調整されます。
この調整を働かせるため、被保険者は第三者の行為による傷病届を遅滞なく提出することとされています。
具体例
追突事故でけがをして健康保険で治療を受けた場合、保険者が支払った7割相当の額について、保険者が加害者に請求できます。逆に、先に加害者から治療費全額の賠償を受けていれば、その範囲で健康保険からは給付されません。
試験のポイント
簡単にいうと
業務上のけがは対象外。ただし5人未満の会社の役員だけは健康保険が守ります。
健康保険は業務災害以外を対象とするので、業務に起因する疾病等は原則として給付されません。ところが法人の役員には労災保険が適用されないため、業務中のけがについてどこからも給付を受けられないという事態が起こりえます。そこで置かれたのが次の特例です。
【条文】健康保険法53条の2(一部省略)
被保険者又はその被扶養者が法人の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、一定の者を含む)であるときは、当該被保険者又はその被扶養者のその法人の役員としての業務(被保険者の数が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務であって厚生労働省令で定めるものを除く)に起因する疾病、負傷又は死亡に関して保険給付は、行わない。
かっこ書きの除外が肝です。趣旨をひとことで言えば、業務に起因する保険給付はしないのが原則だけれど、被保険者5人未満の零細企業の役員については健康保険が守る、ということになります。
押さえる数字は「被保険者の数が5人未満」です。
具体例
被保険者3人の設計事務所の取締役が、業務中に転んで骨折した場合、健康保険から療養の給付を受けられます。被保険者が20人いる会社の取締役であれば、同じけがでも健康保険からは給付されません。
簡単にいうと
不正に受け取った側だけでなく、手を貸した側にも責任が及びます。
不正に給付が行われたときの回収について、3つの規定があります。
第一に受給者からの徴収です。偽りその他不正の行為によって保険給付を受けた者があるときは、保険者は、その者からその給付の価額の全部又は一部を徴収することができます。
第二に共同行為者からの徴収です。事業主が虚偽の報告若しくは証明をし、保険医療機関において診療に従事する保険医若しくは主治の医師が保険者に提出されるべき診断書に虚偽の記載をしたため不正受給が行われたものであるときは、保険者は、当該事業主、保険医又は主治の医師に対し、返還の連帯責任を負わせることができます。
第三に医療機関等への加算です。保険者は、偽りその他不正の行為によって療養の給付等に関する費用の支払を受けた保険医療機関若しくは保険薬局又は指定訪問看護事業者に対し、支払った額を返還させるほか、その返還させる額に100分の40を乗じて得た額を支払わせることができます。
この加算の対象になるのは保険医療機関だけではありません。保険薬局及び指定訪問看護事業者も対象です。
具体例
架空の診療を請求して100万円を受け取った医療機関は、100万円の返還に加えて40万円の支払いを求められることがあります。虚偽の証明をした事業主には、返還の連帯責任が及びます。
簡単にいうと
給付は差し押さえられず、税金もかからず、組合なら上乗せもできます。
給付の通則として、最後に3つを押さえます。
第一に受給権の保護です。保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができません。試験では「健康保険法上、必要と認める場合には譲渡や担保に供したり差し押さえることができる」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。例外はありません。
第二に租税その他の公課の禁止です。租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することができません。つまり保険給付は非課税です。傷病手当金や出産手当金に所得税がかからないのは、この規定によります。
第三に健康保険組合による付加給付です。保険者が健康保険組合である場合においては、法定給付と併せて、規約で定めるところにより、保険給付としてその他の給付(付加給付)を行うことができます。
全国健康保険協会については、付加給付を行うことはできません。試験では、協会が規約で定めるところにより付加給付を行うことができるとする誤りの選択肢が出題されたことがあります。そもそも協会に規約という制度がない点からも判断できます。
具体例
ある健康保険組合が「自己負担が月2万円を超えたら組合が補填する」という付加給付を規約に定めることは可能です。協会けんぽに同じ上乗せを求めることはできません。
動画・テキスト・過去問・図解まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
試験のポイント
試験のポイント
試験のポイント
プレミアムプラン
¥7,800/ 購入日から1年間有効(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。