何が労災になるか
労災保険の給付を受けるには、その災害が「業務災害」または「通勤災害」だと認定されなければなりません。労災保険の科目でいちばん出題が集中するのが、この認定の話です。
この節では業務災害の判断の型を身につけます。使う道具は業務遂行性と業務起因性という2つの言葉だけです。この2つを順番に当てはめる練習をしておくと、休憩時間中・出張中といった典型論点をその場で解けるようになります。
簡単にいうと
業務災害かどうかは、必ず2段階で判定します。順番を逆にすると答えが合わなくなります。
災害が業務災害と判断されるためには、まず業務遂行性があることが前提になります。そのうえでさらに、業務起因性が認められなければなりません。
・業務遂行性 … 労働者が労働契約等に基づいて事業主の支配下にある状態をいいます。「いま会社の管理のもとにいるか」という場所と立場の話です。
・業務起因性 … 負傷や疾病が業務に起因して生じたこと、つまり業務と傷病等との間に一定の因果関係が存在することをいいます。「そのけがは仕事のせいで起きたのか」という原因の話です。
判定は必ず業務遂行性から始めます。事業主の支配下にすらいないのであれば、その先の因果関係を検討するまでもないからです。業務遂行性が認められて初めて、業務起因性の検討に進みます。
この2段階を分けておく実益は、休憩時間中の災害のように「業務遂行性はあるが業務起因性がない」というパターンを説明できるところにあります。片方だけで結論を出そうとすると必ず詰まりますので、必ず2段構えで考えてください。
具体例
工場の生産ラインで作業中に工具が落下して足をけがしたケースでは、事業主の支配下にあり(業務遂行性)、作業に伴う危険が現実化しています(業務起因性)。したがって業務災害です。

業務遂行性→業務起因性の2段階判定と、3つの典型場面
試験のポイント
簡単にいうと
手を止めていた瞬間の事故はどうなるのか。ここは原則として労災になります。
作業中にトイレへ行ったり、水を飲みに行ったりする行為を生理的行為といいます。また、風で飛ばされた帽子を思わず拾おうとするような行為を反射的行為といいます。
これらは業務そのものではありません。しかし、働いている以上どうしても生じる行為であり、業務に付随する行為として扱われます。したがって、その最中に災害に巻き込まれた場合には、原則として業務災害と認められます。
ポイントは、作業の手を止めていたという一点だけで業務起因性を否定しないことです。仕事をするうえで当然に伴う行為であれば、その間も事業主の支配下から抜け出したことにはなりません。
もっとも、私的な行為に及んでいた場合は別です。たとえば持ち場を離れて私用の電話に長く興じていたような場合には、業務との結びつきが切れてしまうので、同じ「作業の中断」でも扱いが変わってきます。
具体例
包装作業をしていたあきこさんが、作業場内のトイレへ向かう途中で床の水たまりに滑って転倒した場合、生理的行為の最中の災害として業務災害と認められます。
試験のポイント
簡単にいうと
2段階で考える意味がいちばんよく出るのがここ。「支配下にはいる、でも原因は私的」という形です。
休憩時間を事業場の施設内で過ごしているとき、労働者は事業主の支配下にあります。その意味では業務遂行性が認められます。
しかし、労基法の休憩の3原則の1つに自由利用の原則があるとおり、休憩時間中の行動は原則として労働者の自由です。つまり、その間の個々の行為それ自体は私的行為とされます。
そうすると、休憩時間中の災害は、それが事業場施設またはその管理に起因することが証明されない限り、一般的には私的行為に起因するものと推定され、業務起因性は認められないことになります。
裏を返せば、施設の欠陥や管理の不備が原因であれば業務災害になります。試験では、休憩時間中に作業場内の道路に面した柵にもたれて休んでいたところ、運転を誤った自動車が柵に激突して挟まれ骨折したという事案が出題され、業務上の負傷と認められています。事業場施設である柵に起因していることが決め手です(昭25.6.8基災収1252号)。
具体例
昼休みに社員食堂で同僚とキャッチボールをしていて足をひねった場合は私的行為として扱われますが、老朽化した階段の手すりが外れて転落した場合は施設の管理に起因するものとして業務災害となり得ます。
簡単にいうと
出張は、家を出た時点からもう仕事。だから通勤災害ではなく業務災害になります。
出張は、原則としてその過程全般が事業主の支配下にあると考えられています。移動も宿泊も含めて、出張という一連の行為が業務命令に基づいているからです。
この考え方から、直行直帰の出張、つまり通常の勤務地にまったく寄らずに行う出張では、住居と出張先との往復は通勤ではなく業務行為となります。
したがって、その往復行為中に災害が起きた場合、業務災害として取り扱われ、通勤災害としては取り扱いません。同じ「家から移動していた最中の事故」でも、通常の出勤なら通勤災害、直行直帰の出張なら業務災害と結論が分かれます。
どちらに転んでも給付は受けられますが、給付の名称や一部負担金の有無が変わります。業務災害なら「補償」の付いた名称で一部負担金もありませんが、通勤災害なら「補償」が付かず一部負担金が生じ得ます。区別する実益はここにあります。
具体例
自宅から直接、取引先のある隣県へ向かっていたしんじさんが駅の階段で転落した場合、直行の出張であれば業務災害として扱われます。同じ駅で通常の出勤途中に転落したのであれば通勤災害です。
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