障害と死亡に対する給付
労働者が業務上の事由で亡くなったときに、残された家族の生活を支えるのが遺族補償給付です。労災保険の中でもっとも出題が多い分野のひとつで、順位表・年齢要件・失権事由と、覚えることが集中しています。
そして労災保険にしかない「転給」という考え方もここで登場します。年金の受給権が次の順位の人へ移っていくという、他の制度にはない仕組みです。
簡単にいうと
似た言葉が2つ出てきます。「資格がある人」と「実際に受け取る人」を区別するところから始めます。
遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金の2つがあります。関係としては、遺族補償年金を受けることのできる遺族がいない場合等に遺族補償一時金が支給される、という補完の関係です。
まず遺族補償年金です。これを受けることができる遺族を受給資格者といいます。受給資格者となるのは、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者です。
受給資格者が同時に複数いる場合には、その中で最も順位の高い者だけが遺族補償年金の受給権者となります。全員に分けて支給されるのではなく、最先順位者に一本化されるということです。
そして、受給権者が死亡するなどして失権した場合には、次の順位の者が受給権者となります。これを転給といいます。転給は労災保険特有の概念です。
公的年金の遺族給付では、受給権者が失権すればそれで終わりで、次の人に権利が移ることはありません。労災保険だけが、順位を繰り下げながら遺族の生活を支え続ける設計になっています。ここは他科目との対比でよく問われます。
具体例
妻が受給権者となっていたケースで、その妻が再婚して失権した場合、次の順位にあたる要件を満たす子が新たに受給権者となります。
試験のポイント
簡単にいうと
この表は避けて通れません。「妻には条件がない」を起点に覚えていきましょう。
遺族補償年金の受給資格者の順位と、労働者の死亡の当時に満たしているべき要件は次のとおりです。
・第1順位 配偶者
妻については年齢要件も障害要件も不要です。夫については、60歳以上であるか、又は一定の障害の状態にあることが必要です。
・第2順位 子
18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、又は一定の障害の状態にあること。
・第3順位 父母
60歳以上であるか、又は一定の障害の状態にあること。
・第4順位 孫
子と同じ要件です。
・第5順位 祖父母
父母と同じ要件です。
簡単にいうと
額は人数で決まります。1人のときだけ例外があるので、そこに注意です。
遺族補償年金の額は、遺族の数に応じて次のとおりです。
・1人 … 給付基礎日額の153日分
ただし、その1人が55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻である場合は175日分
・2人 … 給付基礎日額の201日分
・3人 … 給付基礎日額の223日分
・4人以上 … 給付基礎日額の245日分
ここでいう遺族とは、受給権者本人と、その受給権者と生計を同じくしている受給資格者を合わせた数です。単に親族が何人いるかではありません。
そして重要なのが、若年支給停止対象者はこの遺族の数に含まれないという点です。55歳以上60歳未満の夫や父母などがいても、人数のカウントには入らないことになります。
1人の場合の153日分と175日分の使い分けも押さえておきましょう。175日分になるのは、55歳以上の妻または一定の障害の状態にある妻の場合に限られます。夫にはこの上乗せがありません。
簡単にいうと
権利を失うのが失権、そもそもの資格を失うのが失格。事由は共通です。
遺族補償年金を受ける権利は、その受給権者が所定の事由に該当した場合に消滅します。これを失権といいます。また、受給権者以外の受給資格者が同じ事由に該当した場合、その者は受給資格者でなくなります。これを失格といいます。
事由は次の6つです。
・死亡したとき
・婚姻(届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む)をしたとき
・直系血族又は直系姻族以外の者の養子(事実上の養子を含む)となったとき
・離縁によって、死亡した労働者との親族関係が終了したとき
・子、孫又は兄弟姉妹について、18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき(労働者の死亡の当時から一定の障害の状態にあるときを除く)
・一定の障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹について、その障害の状態に該当しなくなったとき(年齢要件を別途満たしている場合を除く)
3つ目の養子縁組については、細かい条件が付いています。試験では『遺族補償年金を受ける権利は、その権利を有する遺族が、直系血族又は直系姻族である者の養子となったときは、消滅する』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。消滅するのは直系血族又は直系姻族「以外の者」の養子となったときであって、祖父母の養子になるような場合には消滅しません(法16条の4第1項3号)。
簡単にいうと
障害補償年金と同じく、遺族補償年金にも前借りの仕組みがあります。
遺族補償年金にも前払一時金の制度があります。障害補償年金前払一時金と同じ発想で、当面必要になるまとまった資金を先に受け取ることができます。
支給を受けた場合、その額に年金の累計が追いつくまでの間、遺族補償年金の支給が停止される点も同じです。
ここで押さえておきたい特徴が1つあります。若年支給停止対象者、つまり55歳以上60歳未満の夫、父母、祖父母又は兄弟姉妹であっても、遺族補償年金前払一時金を請求することができるという点です。
年金そのものは60歳に達する月まで支給停止なのに、前払一時金は請求できる。一見すると矛盾しているようですが、葬儀費用や当座の生活費といった直近の必要に応えるための制度なので、支給停止とは切り離されています。ここは狙われやすいポイントです。
具体例
56歳の夫が受給権者となったケースでは、年金の支給は60歳に達する月までありませんが、遺族補償年金前払一時金は請求できます。
試験のポイント
簡単にいうと
年金を受けられる遺族がいないときの受け皿です。順位の並びが年金とは違います。
遺族補償一時金は、次のいずれかの場合に支給されます。
・遺族補償年金を受けることができる遺族がいない場合
・遺族補償年金の受給権者が失権し、なおかつ受給資格者がすべて失格した場合
趣旨は、労働基準法における遺族補償の額、すなわち平均賃金の1,000日分を保障することにあります。
額の計算は次の式になります。
給付基礎日額の1,000日分 −(すでに支給された遺族補償年金の額 + 遺族補償年金前払一時金の額)
たとえば、これまでに複数の受給権者へ合計700日分が支給されていたのであれば、差額の300日分が遺族補償一時金として支給されます。
受給資格者と受給権者の順位は次のとおりです。
・第1順位から第5順位 … 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた 配偶者・子・父母・孫・祖父母
・第6順位から第10順位 … 生計を維持していなかった 子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹
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18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、60歳以上であるか、又は一定の障害の状態にあること。
・第7順位から第10順位 夫、父母、祖父母、兄弟姉妹
いずれも55歳以上60歳未満であること。
覚え方は、条件がまったくないのは妻だけ、という一点を軸にすることです。そこから、若い世代(子・孫)は18歳年度末まで、上の世代(父母・祖父母)は60歳以上、兄弟姉妹は両方あり、と広げていきます。
第7順位から第10順位に置かれた55歳以上60歳未満の夫、父母、祖父母、兄弟姉妹は、若年支給停止対象者と呼ばれます。仮に最先順位者として受給権者になった場合であっても、60歳に達する月までの間は遺族補償年金が支給停止されます。受給権はあるのに支払われない、という状態です。
具体例
亡くなった労働者に57歳の夫と、要件を満たす子がいない場合、夫は受給権者になれますが60歳に達する月までは支給が停止されます。
試験のポイント
受給権者である58歳の妻が1人だけという場合の年金は給付基礎日額の175日分ですが、50歳の妻1人であれば153日分です。
試験のポイント
祖父母や叔父ではなく、無関係の第三者の家に入ることで生計の基盤が変わる、という発想だと理解しておくとよいでしょう。
具体例
受給権者だった妻が事実婚を始めた場合には失権となり、次順位の要件を満たす子へ転給されます。一方、子が祖父の養子になっても、直系血族の養子なので失権しません。
試験のポイント
特徴が2つあります。配偶者は生計維持関係の有無にかかわらず第1位であること、そして兄弟姉妹は生計維持関係の有無にかかわらず最下位であることです。
この並びは、障害補償年金差額一時金の順位(生計同一の6人が先、生計非同一の6人が後という12順位)とは違います。似ているようで別物なので、それぞれ分けて覚えてください。なお、過去に遺族補償年金を受給していて失権した者でも、この遺族補償一時金を受けることはできます。
具体例
遺族が生計を維持していなかった弟だけという場合でも、遺族補償一時金の受給権者になり得ます。ただし順位は最下位です。
試験のポイント
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