保険給付に共通するルール
ここからは、個々の給付ではなく給付に共通するルールを扱います。通則とは共通規則という意味です。
この分野の内容は、健康保険や年金でもほとんど同じ形で登場します。つまり、ここで丁寧に理解しておくと後の科目で何度も回収できるということです。労災保険の中でも投資効率の高いところです。
簡単にいうと
月単位で動くのが年金です。始まりが翌月、終わりが当月というズレを覚えます。
年金タイプの保険給付は、月を単位として行われます。
支給期間は、支給事由の生じた月の翌月から始まり、その権利が消滅した月で終わります。始まりだけが翌月にずれ、終わりはその月まで含まれるという非対称な形になっています。
支給停止についても同じ考え方です。年金タイプの保険給付は、その支給を停止すべき事由が生じた場合には、支給停止事由の生じた月の翌月から、支給停止事由が消滅した月まで支給が停止されます。
停止のほうも、始まりが翌月、終わりが当月です。停止が終わるのは事由が消滅した月の翌月からで、そこから支給が再開されます。
試験では『年金たる保険給付の支給は、支給すべき事由が生じた月から始められ、支給を受ける権利が消滅した月で終了する』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。正しくは、支給すべき事由が生じた月の翌月から始まります(法9条1項)。ここは「翌月」の2文字を抜いたひっかけが定番です。
具体例
4月に支給事由が生じて10月に権利が消滅した場合、支給されるのは5月分から10月分までの6か月分です。
試験のポイント
簡単にいうと
実際にお金が振り込まれるタイミングです。数字が単純なので確実に押さえましょう。
年金タイプの保険給付は、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月の年6回に分けて支給されます。
つまり偶数月です。2か月分をまとめて支払う形になります。公的年金と同じサイクルなので、こちらもセットで覚えておくと効率的です。
支給期間が月単位で決まり、実際の支払いが2か月ごとにまとめて行われる、という二段構えになっていることを意識してください。5月分と6月分は6月に、7月分と8月分は8月に、という具合です。
年金と一時金の違いも整理しておきましょう。一時金は一度きりの支払いですから、支払期月という考え方はありません。この支払期月のルールは、あくまで年金タイプの保険給付に適用されるものです。
具体例
遺族補償年金を受けている人には、2月・4月・6月・8月・10月・12月の6回に分けて支払われます。
試験のポイント
簡単にいうと
行方不明のまま何年も待たせないための特別ルールです。数字の役割を取り違えないように。
民法には、失踪して生死が不明の場合に7年経ったら死亡したものとみなすという失踪宣告の規定があります。しかし、これでは遺族への保険給付があまりに遅れてしまいます。
そこで労災保険法は、船舶又は航空機の事故に際して現にそれらに乗っていた労働者について、特別の推定規定を置いています。事故から3か月経っても生死がわからない場合には、その事故の日に死亡したものと推定するというものです。
注意したいのは、2つの日付の役割です。
・3か月 … 生死がわからない状態が続く期間
・死亡したと推定される日 … 船舶や航空機が沈没・墜落・行方不明となった日そのもの
試験では、航空機の事故で生死が3か月間わからない場合の死亡推定の時期を『航空機が墜落し、滅失し、又は行方不明となった日から3か月後』とする誤りの選択肢が出題されたことがあります。正しくは、その航空機が墜落し、滅失し、又は行方不明となった日に死亡したものと推定されます(法10条)。3か月後ではありません。
この推定が適用されるのは、遺族補償給付、葬祭料、遺族給付及び葬祭給付の支給に関する規定の適用についてです。
具体例
簡単にいうと
支給されるはずだったお金が宙に浮かないようにする仕組みです。
保険給付の受給権者が、その保険給付の支給を受けないうちに死亡した場合に、未支給となった保険給付を所定の遺族が受け取れるという制度です。
請求できるのは、死亡した受給権者の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含みます)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、受給権者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもののうちの最先順位者です。
順位は、配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の並びです。ここでも配偶者が先頭に来ます。
なお、遺族補償年金についてはそもそも転給の制度がありますので、転給後の受給権者がそのまま未支給の遺族補償年金の請求権者となります。
試験では、遺族補償年金を受ける権利を有する者が死亡し、その者が死亡前に請求していなかったときは、他の遺族が自己の名でその遺族補償年金を請求できるという記述が正しいものとして出題されています(法11条1項・2項)。自己の名で請求する、という点がポイントです。相続として受け取るのではありません。
さらに、未支給の保険給付の請求権者がその未支給の保険給付を受けないうちに死亡した場合には、その死亡した請求権者の相続人が請求権者となります(昭41.1.31基発73号)。
具体例
簡単にいうと
誤って払ってしまったお金を返してもらうのではなく、後の給付と相殺します。
支給を停止すべきだったのに誤って支払ってしまう、いわゆる過誤払が生じることがあります。本来なら返還してもらって改めて支給すべきですが、それでは事務が煩雑になります。そこで、後に支給する分と相殺する調整が行われます。方法は2つあります。
・内払
過誤払された保険給付と、調整の対象となる後の保険給付の受給権者が同じである場合の処理です。たとえば、傷病補償年金を受けていた人の傷病が治って障害補償年金を受けるはずだったのに、誤って傷病補償年金が支給された場合、その支給は障害補償年金の内払とみなされます。
・充当
年金タイプの保険給付を受けていた受給権者が死亡すれば当然に受給権は消滅しますが、それにもかかわらず過誤払が行われ、かつその者の遺族に死亡に関する保険給付が支給される場合には、過誤払分に充当されます。
2つの違いは受給権者が同じかどうかです。同じなら内払、違うなら充当と覚えてください。
試験では、受給権者の死亡後に過誤払が行われた場合について『当該保険給付の支払金の金額を当該過誤払による返還金に係る債権の金額に充当することはできない』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。この場合、債務の弁済をすべき者に支払うべき保険給付の支払金の金額を、過誤払による返還金に係る債権の金額に充当することができます(法12条の2)。
具体例
簡単にいうと
せっかくの給付が他人に渡ったり、税金で目減りしたりしないようにするルールです。
保険給付を受ける権利は、それを受けている労働者が会社を退職しても失われることはありません。労災保険の給付は、その職場にいることを条件に支給されるものではないからです。
さらに、受給権は次のとおり保護されています。
・受給権を他人に譲り渡すことはできません
・受給権を担保にお金を借りることはできません
・受給権は差押えの対象になりません
譲渡・担保・差押えの3つがそろって禁止されている、と覚えてください。被災した本人や遺族の生活を守るための給付なので、他人に流れてしまわないよう手当てされています。
もう1つ、保険給付はすべて非課税です。休業補償給付や傷病補償年金は所得を補うための給付ですが、これらに所得税がかかることはありません。
なお、後で学ぶ特別支給金には、この譲渡・担保・差押えの禁止規定がありません。保険給付と特別支給金の違いとしてよく問われるところなので、あわせて意識しておきましょう。
具体例
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1月10日に漁船が行方不明となり、4月に入っても乗組員の生死が判明しない場合、死亡日は4月ではなく1月10日と推定されます。
試験のポイント
休業補償給付を請求しないまま亡くなった人がいた場合、同居していた配偶者が自分の名前でその未支給分を請求できます。
試験のポイント
亡くなった受給権者に翌月分の年金が誤って振り込まれた場合、その後に遺族へ支給される遺族補償年金から差し引く形で処理されます。
試験のポイント
会社を辞めた後も障害補償年金は受け取り続けられますし、借金の返済のために差し押さえられることもありません。
試験のポイント
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