保険給付に共通するルール
労災保険は被災労働者を守る制度ですが、何があっても無条件に給付するわけではありません。本人の落ち度があるとき、届出をしないとき、そして事業主が義務を果たしていないとき。この3つの場面で、給付や費用の扱いが変わります。
キーワードは「故意」と「重大な過失」です。この2語がどちらの側に出てくるかで結論が変わるので、主語に注意しながら読んでください。
簡単にいうと
労働者が「わざと」やった場合です。ここは例外なく打ち切られます。
労働者が故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡、又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、保険給付は行われません。
語尾に注目してください。「行わない」と言い切っています。行政に判断の余地がないため、これを絶対制限といいます。故意というキーワードが労働者について出てきたら、保険給付は絶対的に制限されると押さえてください。
ここでいう故意とは、自分の行為が一定の結果を生ずべきことを認識し、かつその結果が生ずることを認容することをいいます。単なる不注意とは区別されます。
試験では、業務遂行中の災害であっても労働者が故意に自らの負傷を生じさせたときは政府は保険給付を行わない、という記述が正しいものとして出題されています(法12条の2の2第1項)。
ただし例外的な扱いもあります。被災労働者が結果の発生を認容していても、業務との因果関係が認められる事故については、この絶対制限の規定は適用されません(昭40.7.31基発901号)。業務上の強い心理的負荷によって正常な判断ができない状態に至った場合などが想定されています。
具体例
業務中にわざと自分の指を機械に入れて負傷したというケースでは、業務遂行中であっても保険給付は行われません。
試験のポイント
簡単にいうと
こちらは「行わないことができる」。つまり全部止めることも、一部だけ止めることもできます。
労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失等により、負傷、疾病、障害若しくは死亡、又はこれらの原因となった事故を生じさせたときは、政府は保険給付の全部又は一部を行わないことができます。
語尾が「行わないことができる」となっている点が絶対制限との違いです。行わないこともできるし、反対に行うこともできる、という意味です。これを裁量制限といいます。
整理すると次のようになります。
・故意 … 保険給付は行われない(絶対制限)
・故意の犯罪行為、重大な過失 … 全部又は一部を行わないことができる(裁量制限)
「故意」と「故意の犯罪行為」は言葉が似ていますが、結論が違います。故意そのものはケガをすること自体をわざと引き起こす場合、故意の犯罪行為は違法な行為をわざと行った結果としてケガをする場合です。後者は本人がケガを望んでいたわけではないので、裁量の余地が残されています。
選択肢の語尾が「行わない」なのか「行わないことができる」なのかを確認する、というのが解き方のコツです。
具体例
簡単にいうと
支給制限と混同しやすいところ。こちらは事情がなくなればさかのぼって支払われます。
保険給付を受ける権利を有する者が、正当な理由がなく、保険給付に関する届出や報告をしなかったり、行政側の出頭等の命令に従わなかったときは、政府はその者に対する保険給付の支払を一時差し止めることができます。
一時差止めとは、保険給付の支払を受給権者に対して一時的に行わないことをいいます。
支給制限との決定的な違いは、その後どうなるかです。支給制限は給付そのものが行われなくなりますが、一時差止めは差止めの事由がなくなれば、差し止められた当時にさかのぼって保険給付が行われます。
つまり、権利が消えるわけではなく、支払いのタイミングが後ろにずれるだけです。届出をきちんとさせるための促しの手段だと理解しておくとよいでしょう。
要件に「正当な理由がなく」が付いている点にも注意してください。入院中で届出ができなかったといった事情があれば、一時差止めの対象にはなりません。
具体例
求められた報告書を理由なく出さないまま放置していると年金の支払が止まりますが、後から提出すれば止まっていた期間の分もまとめて支払われます。
簡単にいうと
今度は事業主側の話です。義務を果たしていない会社には、後から請求が行きます。
労災保険への加入を怠ったり、保険料を滞納したり、事業主としての基本的な責任を果たしていない事業主に対しては、支給された保険給付の費用を徴収する制度があります。制裁としての性格を持つ規定です。
対象となる事故と徴収される額は次のとおりです。
・事業主が故意により保険関係成立届を提出していない期間中に生じた事故
→ 保険給付の支払の都度、原則としてその全額
・事業主が重大な過失により保険関係成立届を提出していない期間中に生じた事故
→ 保険給付の支払の都度、その額の40%相当額
・事業主が一般保険料を納付しない期間中に生じた事故
→ 保険給付の支払の都度、保険給付の額に滞納率(上限40%)を乗じて得た額
・事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故
→ 保険給付の支払の都度、その額の30%相当額
簡単にいうと
同じ未提出でも、指導を受けたかどうかで扱いが変わります。ここは数字で決まります。
保険関係成立届の未提出について、故意とされるか重大な過失とされるかは、行政の指導を受けたかどうかを軸に判定されます。
・故意の認定基準
事業主が保険関係成立届の提出等について行政機関からの指導等を受けたにもかかわらず、10日以内にその提出を行っていないこと。
・重大な過失の認定基準
保険関係成立届の提出等について行政機関からの指導等を受けていない事業主であって、保険関係成立日から1年を経過してもなおその提出を行っていないこと。
言われたのに10日以内に出さなければ故意、言われていなくても1年放置していれば重大な過失、という整理です。指導を受けた場合は明確に認識しているわけですから、より短い期間で厳しく判断されます。
試験では、指導や加入勧奨を受けておらず、保険関係が成立した日から1年を経過してなお保険関係成立届を提出していなかった場合について、原則として重大な過失と認定したうえで費用徴収率を40%とする、という記述が正しいものとして出題されています(平17.9.22基発0922001号)。
具体例
簡単にいうと
うその申請でお金を受け取った場合の話です。会社が加担していれば会社も巻き込まれます。
偽りその他不正の手段によって保険給付を受けた者があるときは、政府はその者から不当利得分を徴収することができます。受け取るべきでなかったお金を返してもらうという、当然の処理です。
そのうえで、もう一段の規定があります。事業主が虚偽の報告又は証明をしたために不正受給につながった場合には、その事業主に連帯責任を負わせることができます。
つまり、政府は不正受給をした本人だけでなく、加担した事業主に対しても徴収金の支払を求めることができるということです。労災の申請には事業主の証明が必要な場面が多いため、その証明が虚偽であれば責任を分担させる仕組みになっています。
前のテーマの事業主からの費用徴収は、手続を怠ったことや災害を起こしたことに対する制裁でした。こちらは不正受給への加担に対する責任です。同じ費用徴収でも根拠が違うので、分けて理解しておきましょう。
具体例
働いていた日を休業したと偽って休業補償給付を受け、会社もそれを承知で証明していた場合、本人と会社が連帯して徴収金を負担することになります。
試験のポイント
動画・テキスト・過去問・図解まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
無免許で社用車を運転して事故を起こしたという場合は、故意の犯罪行為にあたり得るため、給付の全部または一部が行われないことがあります。
試験のポイント
試験のポイント
いずれも一定の金銭給付に限られます。
数字の並びを整理すると、届出を出していない場合が全額または40%、災害そのものを起こした場合が30%です。手続をまったくしていないほうが重く扱われている点が特徴的です。なお、被災労働者への給付そのものはきちんと行われます。徴収は事業主との関係で行われる別の話です。
具体例
労災保険の加入手続をしないまま営業していた会社で事故が起きた場合、被災した従業員には給付が行われますが、その費用が後から会社に請求されます。
試験のポイント
労働基準監督署から加入手続を促されたにもかかわらず10日を過ぎても届を出さないまま事故が起きれば、故意として給付額の全額が徴収され得ます。
試験のポイント
プレミアムプラン
¥7,800/ 購入日から1年間有効(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。