上乗せ給付と特別加入
労災保険の給付は、休業補償給付なら給付基礎日額の60%というように、失われた収入の全部を埋めるものではありません。そこを補うのが、社会復帰促進等事業の一部として支給される特別支給金です。
特別支給金は保険給付ではありません。この一点を押さえておくと、譲渡や差押えの扱い、費用徴収の有無といった応用論点がすっきり解けるようになります。
簡単にいうと
労災保険のもう1つの柱です。3つの事業の中身を、代表例で覚えます。
社会復帰促進等事業は、次の3つに分かれます。
・社会復帰促進事業
労災病院やリハビリテーション施設の設置・運営、義肢等の支給や外科後処置などが含まれます。被災労働者が社会に戻るための直接の支援です。
・被災労働者等援護事業
特別支給金や労災就学援護費などの支給が含まれます。この節の中心となる特別支給金は、ここに位置しています。
・安全衛生確保等事業
労働災害防止対策の実施のほか、未払賃金の立替払事業が含まれます。災害が起きる前の予防や、労働条件の確保に関わる事業です。
未払賃金の立替払が労災保険の社会復帰促進等事業として行われている点は、意外に感じるかもしれません。労働条件等確保の一環として位置づけられているためです。
試験では、業務災害の防止に関する活動に対する援助が社会復帰促進等事業として行われるという記述が正しいものとして出題されています(法29条1項3号)。
具体例
けがをした人が労災病院でリハビリを受けるのが社会復帰促進事業、その人の子の学費が援助されるのが被災労働者等援護事業にあたります。
試験のポイント
簡単にいうと
特別支給金は2系統。そして、これが付かない保険給付が4つあります。
特別支給金は、保険給付に加算して支給されるものです。したがって、保険事故以外の理由で支給されることはありません。必ず土台となる保険給付があって、その上に乗る形になります。
特別支給金には、一般の特別支給金とボーナス特別支給金の2系統があります。対応関係は次のとおりです。
・休業補償給付(休業給付) … 休業特別支給金のみ
・傷病補償年金(傷病年金) … 傷病特別支給金/傷病特別年金
・障害補償年金(障害年金) … 障害特別支給金/障害特別年金
・障害補償一時金(障害一時金) … 障害特別支給金/障害特別一時金
・遺族補償年金(遺族年金) … 遺族特別支給金/遺族特別年金
・遺族補償一時金(遺族一時金) … 遺族特別支給金/遺族特別一時金
・障害補償年金差額一時金 … 障害特別年金差額一時金のみ
そして、この表を裏返すと重要な結論が出てきます。特別支給金が設けられていない保険給付は次の4つです。
簡単にいうと
休業だけが率、あとは定額の一時金です。この対比で覚えると混乱しません。
一般の特別支給金は4種類あります。
・休業特別支給金
業務上の事由又は通勤による傷病に係る療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から、休業補償給付の受給権者に対し、申請に基づいて支給されます。額は休業1日につき給付基礎日額の100分の20に相当する額です。
休業補償給付の60%と合わせると、通常の給与水準の80%が確保されることになります。
・傷病特別支給金
傷病補償年金の受給権者に対して支給される定額の一時金です。第1級114万円、第2級107万円、第3級100万円です。
・障害特別支給金
傷病が治ったときに、障害補償給付の受給権者に対して支給される定額の一時金です。第1級342万円から第14級8万円まで、等級に応じて定められています。
・遺族特別支給金
労働者が死亡した場合に、遺族補償給付の受給権者である遺族に対して支給される一時金で、額は300万円です。遺族補償年金の若年支給停止の対象者であっても、遺族特別支給金の支給を申請することができます。
簡単にいうと
こちらはボーナスを補うための上乗せ。日数は保険給付とぴったり同じです。
ボーナス特別支給金の最大の特徴は2つあります。1つは算定基礎日額を用いること、もう1つは日数がベースとなる保険給付と完全に一致することです。
まず算定基礎日額です。給付基礎日額は平均賃金がベースでしたが、平均賃金には賞与が含まれません。そこで、賞与の分を補うために用意されたのが算定基礎日額です。
算定基礎日額 = 算定基礎年額 ÷ 365
算定基礎年額は原則として過去1年間の賞与総額ですが、上限は150万円とされています。この150万円という数字が問われます。
次に日数です。たとえば傷病特別年金は、第1級が算定基礎日額の313日分、第2級が277日分、第3級が245日分です。傷病補償年金の日数とまったく同じです。障害特別年金・障害特別一時金も、障害補償年金・障害補償一時金と同じ日数になります。遺族特別年金も遺族補償年金と同様に、遺族1人で153日分(55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻は175日分)、2人で201日分、3人で223日分、4人以上で245日分です。遺族特別一時金は、算定基礎日額の1,000日分から遺族特別年金の額を差し引いた額になります。
つまり、覚え直す日数はありません。保険給付で覚えた日数をそのまま使い、給付基礎日額を算定基礎日額に置き換えるだけです。
試験では『傷病特別年金及び障害特別年金のいずれにおいても、第1級の額は給付基礎日額の313日分である』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。日数は正しいのですが、用いるのは算定基礎日額です。
簡単にいうと
この違いを覚えると一気に得点源になります。「保険給付にあって特別支給金にないもの」です。
特別支給金は保険給付ではなく、社会復帰促進等事業として支給されるものです。この性格の違いから、保険給付にはある規定が特別支給金には存在しません。
まず、譲渡・担保・差押えです。保険給付を受ける権利は譲り渡すことも担保に供することも差し押さえることもできませんでしたが、特別支給金にはそういった規定がありません。つまり、特別支給金は譲渡・担保・差押えが可能だということになります。
さらに、次の5つについても、保険給付には規定があるのに特別支給金には規定自体が存在しません。
・不正受給者からの費用徴収
・事業主からの費用徴収
・社会保険との併給による減額調整
・第三者行為災害による求償・控除
・民事損害賠償との調整
実務的には、特別支給金が二重取りの調整の外に置かれているということです。第三者行為災害で加害者から賠償を受けても、特別支給金は減らされません。
出題では「特別支給金についても求償が行われる」「特別支給金は差し押さえることができない」といった形で、保険給付のルールを特別支給金に当てはめる誤りの選択肢が作られます。特別支給金は保険給付ではない、という一点から判断してください。
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・介護補償給付(介護給付)
・葬祭料(葬祭給付)
・二次健康診断等給付
いずれも実費や実費に近い性格の給付です。所得の補填ではないので、上乗せをする必要がないと整理できます。
また、特別支給金は保険給付と違って申請に基づいて支給されます。請求ではなく申請という言葉が使われる点も、細かいですが押さえておきましょう。
具体例
療養補償給付で治療を受けても上乗せの特別支給金はありませんが、休業補償給付を受ければ休業特別支給金が加算されます。

特別支給金の一覧 ― どの保険給付に何が乗るか
試験のポイント
共通するのは、休業特別支給金だけが給付基礎日額を用いた率であり、残る3つは定額の一時金だという点です。
試験では『休業特別支給金の額は、1日につき算定基礎日額の100分の20に相当する額とされる』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。休業特別支給金で用いるのは給付基礎日額です。算定基礎日額を用いるのはボーナス特別支給金のほうです(特別支給金支給規則3条)。
具体例
給付基礎日額が1万円の人が全休した日には、休業補償給付6,000円に休業特別支給金2,000円が加算され、合計8,000円が支給されます。
試験のポイント
具体例
年間の賞与が200万円だった人でも、算定基礎年額は上限の150万円までとされ、算定基礎日額は150万円÷365で計算されます。
試験のポイント
具体例
第三者行為災害で加害者から損害賠償を受けた場合、労災保険の保険給付は控除されますが、休業特別支給金は控除の対象になりません。
試験のポイント
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