何が労災になるか
通勤の途中でけがをしても、労基法の災害補償の対象にはなりません。仕事そのものではないからです。それでも保護する必要があるということで、労災保険法が独自に用意したのが通勤災害に関する保険給付です。
この節では「そもそも通勤とは何か」を条文からきちんと組み立てます。通勤の定義は、就業に関し・3つの移動・合理的な経路及び方法という3つの部品でできています。
簡単にいうと
通勤の途中で起こる災害には、けがだけでなく病気もあります。まずは範囲から。
通勤災害とは、通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。イメージしやすいのは負傷のほうで、車にひかれる、駅の階段から転落する、歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体に当たるといった、通勤の途中に待ち受けている危険が現実になった場合です。
疾病についても定めがあります。通勤による疾病の範囲は、労働者災害補償保険法施行規則において「通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病」と規定されています。
ここで業務上の疾病と比べてみてください。業務上の疾病は労基則別表第1の2に具体的な疾病名が例示列挙されていました。これに対し、通勤による疾病には具体的な疾病名の例示がありません。この違いが出題ポイントです。
通勤による疾病として考えられる例としては、ダンプカーの転倒等により流出した有害物にさらされたことによる急性中毒などが挙げられます。数としては多くありませんが、条文上きちんと守備範囲に入っています。
具体例
通勤途中の交差点で追突事故に巻き込まれてむち打ちになった場合が典型的な通勤による負傷、その事故で流出した薬品を吸い込んで急性中毒になった場合が通勤による疾病にあたります。
試験のポイント
簡単にいうと
定義条文はそのまま選択式に出ます。分解して部品ごとに覚えるのが近道です。
【条文】労働者災害補償保険法第7条第2項
通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
この条文は4つの部品でできています。
・就業に関し … 業務に就くため、または業務を終えたことにより行われる移動であること
・3つの移動 … 上の一号から三号
・合理的な経路及び方法 … 行き方として無理のないものであること
・業務の性質を有するものを除く … 業務そのものになる移動は通勤から外す
簡単にいうと
通勤は自宅と職場の往復だけではありません。あと2つ、後から追加された形があります。
通勤にあたる移動は3つあります。それぞれ想定されている場面が違います。
・住居と就業の場所との間の往復
もっとも基本の形です。朝の出勤と夕方の退勤がこれにあたります。
・厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
いわゆる事業場間の移動です。労働者が複数の異なる事業主の事業場で働いているときに、その事業場の間を移動する場合を想定しています。掛け持ちで働く人が増えたことに対応した形です。
・往復に先行し、又は後続する住居間の移動
いわゆる単身赴任者の移動です。所定の理由で単身赴任している労働者が、帰省先の住居と赴任先の住居との間を移動する場合を想定しています。厚生労働省令で定める要件に該当するものに限られます。
3つ目は「先行し、又は後続する」という言い回しがポイントです。赴任先から帰省先へ帰る移動(退勤に後続)も、帰省先から赴任先へ戻る移動(出勤に先行)も、どちらも含まれます。
具体例
簡単にいうと
同じ道を歩いていても、目的が仕事と結びついていなければ通勤にはなりません。
「就業に関し」とは、その移動行為が業務に就くため、または業務を終えたことにより行われているという関係性が必要だという意味です。仕事との結びつきを求める要件です。
したがって、次のような場合には就業との関連性が認められません。
・休日に会社の運動施設を利用しに行く場合
・参加が強制ではなく、完全に任意である会社の行事に参加する場合
いずれも会社に向かってはいるのですが、業務に就くための移動ではないため、通勤にあたらないことになります。
一方で、時刻が多少ずれていても就業との関連性は失われません。所定の就業日に所定の就業開始時刻を目処に住居を出て就業の場所へ向かうのであれば、寝過ごしによる遅刻や、ラッシュを避けるための早出のように時刻的に多少の前後があっても、これらの行為は通勤とされます。
遅刻しそうだから通勤ではない、というのは誤りです。判断されているのは時刻の正確さではなく、あくまで仕事と結びついた移動かどうかです。
具体例
簡単にいうと
会社に届け出た道でなければダメ、というわけではありません。ここは誤りの選択肢の定番です。
合理的な経路とは、住居と就業の場所との間を往復する場合に、通常用いられる経路をいいます。そして重要なのは、合理的な経路は1つだけとは限らないということです。
したがって、通勤費の申請のために会社へ届け出ている経路だけが合理的な経路なのではありません。それに代替することが考えられる経路であれば、そちらも合理的な経路として認められます。
試験では『通勤災害における合理的な経路とは、住居等と就業の場所等との間を往復する場合の最短距離の唯一の経路を指す』という誤りの選択肢が出題されたことがあります。合理的な経路は最短のルートに限定されるわけではありません(平18.3.31基発0331042号ほか)。
方法についても同じ考え方です。鉄道、バス、自動車、自転車、徒歩など、通常用いられる交通手段であれば合理的な方法にあたります。ただし、無免許運転や泥酔しての運転のように、およそ通常の方法とはいえないものは合理的な方法とは認められません。
具体例
いつもの電車が止まっていたため、遠回りになる別の路線に振り替えて出勤した場合も合理的な経路です。会社に届け出ている経路と違うという理由だけで通勤から外れることはありません。
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具体例
自宅から工場へ向かう毎朝の移動は一号の通勤ですが、社用車で資材を運びながら現場へ直行する移動は業務の性質を有するため通勤からは外れます。
試験のポイント
午前は印刷会社、午後は学習塾で働くみさきさんが印刷会社から塾へ直接向かう移動は2つ目の形態、週末に単身赴任先から家族の住む自宅へ帰る移動は3つ目の形態にあたります。
試験のポイント
試験のポイント
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