個別の労働契約をめぐるルール
労働条件を変えたい、配置を変えたい、辞めてもらいたい。会社が動こうとする場面のルールがここに集まっています。
共通しているのは「権利の濫用と認められれば無効」という枠組みです。出向命令も、懲戒も、解雇も、条文の構造は同じ形をしています。違うのは何を材料に濫用かどうかを判断するかという点で、そこが問われます。
簡単にいうと
原則は合意が必要。ただし条件を満たせば、合意なしでも変更できます。
労働契約の内容を変更する場合にも、労使間の「合意」が必要です。労働者にとって不利益な内容に変更される場合にも合意が必要なのは言うまでもありません。
ただし、次の条件をすべて満たした場合には、合意なしに不利益変更が認められます。
・変更後の就業規則を労働者に周知させること
・就業規則の変更が、次の❶〜❺に照らして合理的なものであること
❶労働者の受ける不利益の程度
❷労働条件の変更の必要性
❸変更後の就業規則の内容の相当性
❹労働組合等との交渉の状況
❺その他の就業規則の変更に係る事情
5つの要素を並べると、労働者側の事情(❶)、会社側の事情(❷)、変更の中身(❸)、手続の踏み方(❹)という順序になっています。会社が「必要だから」と言うだけでは足りず、労働者がどれだけ損をするか、内容が行き過ぎていないか、労働組合ときちんと話したかまで見られるということです。
周知が独立した要件になっている点にも注意が必要です。内容がいくら合理的でも、変更後の就業規則を知らせていなければ不利益変更は認められません。
具体例
住宅手当を廃止する就業規則の変更でも、経営状況の悪化という必要性があり、代替措置を用意し、労働組合と十分に協議し、変更後の規則を周知していれば、合意なしでも有効となり得ます。
試験のポイント
簡単にいうと
出向と転籍は名前が似ていますが、必要な手続がまるで違います。
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、その出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、その命令は無効となります。
ここでいう「出向」とは、いわゆる在籍出向(出向元に籍を残しての出向)を指します。移籍出向(=転籍)は含まれません。
つまり在籍出向であれば、原則として労働者の個別的同意は不要です。一方、転籍させる場合には労働者の同意が必要だとする判例があります。籍そのものが移る以上、実質的には新しい労働契約を結ぶのと同じだからです。
新日本製鐵事件の最高裁判決は、「事前に関連先への出向があることが就業規則に明記されていること」や「協定によって出向者の労働条件が担保されていること」という事情の下では、使用者は労働者らの個別的同意なしに、従業員としての地位を維持しながら出向先において労務を提供することを命ずる出向命令を発令できると判断しました。
試験では、この事案と同じ事情を並べたうえで「個別的同意を得ることなしに出向命令を発令することができないとするのが最高裁判所の判例である」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。結論は逆で、発令することが「できる」というのが判例です。
条件を整えていれば命じられるが、濫用は許されない。この2段構えが出向のルールになります。
具体例
簡単にいうと
「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」。この2つがそろわなければ無効です。
懲戒については、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、その懲戒が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります。
前提として、懲戒の種類及び程度について就業規則への記載が義務付けられています。就業規則に書いていない処分を科すことはできないということです。
解雇についても物差しは同じです。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります。裏を返せば、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」と認められれば、解雇は有効です。
有期契約労働者については、さらに厳しくなります。その契約期間の満了を待たずに解雇する場合には、よほど「やむを得ない」理由がなければ認められません。期間を定めて雇った以上、その期間は雇い続けるのが筋だという発想です。
労働基準法との関係も押さえておきます。仮に客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるため解雇が認められるケースであっても、労働者の再就職に向けた準備期間を確保するために、労働基準法の解雇予告の規定がかかります。また、労働者が業務中にケガをした等のケースでは、労働基準法の解雇制限によってそもそも解雇が禁止されます。
労働契約法が「その解雇は有効か」を判断し、労働基準法が「有効だとしても手続を踏め・この時期は禁止だ」と重ねてくる、という二段構えになっています。
具体例
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就業規則に関連会社への出向がある旨を明記し、出向中の賃金や退職金の扱いを協定で担保している会社は、本人の個別同意がなくても在籍出向を命じられます。
試験のポイント
遅刻を繰り返す社員をいきなり懲戒解雇にすれば、理由はあっても程度が重すぎるとして社会通念上相当でないと判断され得ます。
試験のポイント
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