労働基準法の全体像と労働契約
労働契約は「結ぶとき」「続いている間」「終わるとき」のそれぞれに労基法のルールがあります。
この節では、契約期間の上限、労働条件の明示、違約金の禁止といった入口のルールから、解雇制限・解雇予告という出口のルールまでを一気に整理します。数字(3年・5年・30日・14日)が多く登場する頻出ゾーンです。
簡単にいうと
うっかり最低基準より低い条件で契約しても、契約ぜんぶが無効になるわけではありません。低い部分だけが直されます。
労働基準法13条は、この法律の基準に達しない労働条件を定める労働契約について「その部分については無効とする」と定めています。無効になるのは基準未満の部分だけで、労働契約全体は有効なままです。
そして無効になった部分は、労基法で定める基準に自動的に置き換わります。つまり基準未満の条件は、最低基準まで自動的に引き上げられるということです。
なお、労働協約に違反する労働契約の部分を無効とするのは労働組合法16条で、こちらは別の条文です。労基法13条との対比で出題されることがあります。
具体例
花屋を営むまなみさんが、アルバイトと「有給休暇なし」という契約を結んでも、その条項だけが無効となり、法定どおりの年休が発生します。契約自体が丸ごと無効になって雇用がなかったことになる、という話ではありません。
試験のポイント
簡単にいうと
「長すぎる契約は人を縛る」という発想から、有期契約には原則3年の上限があります。例外の5年と上限なしをセットで覚えます。
労働契約には、期間の定めのない無期労働契約と、期間の定めのある有期労働契約があります。いわゆる正社員は無期労働契約で、期間に縛られないため労働者はいつでも解約(退職)できます。
有期労働契約の期間には、労働者を長期に拘束しないよう、原則として3年の上限が設けられています。例外は次のとおりです。
・高度の専門的知識等を有する労働者(その知識等を必要とする業務に就く場合に限る)― 上限5年
・満60歳以上の労働者 ― 上限5年
・有期事業(建設現場など)― 上限なし
また、有期契約は本来、期間満了まで双方とも途中解約できませんが、労働者保護の特例として、契約開始から1年を経過した後であれば、労働者はいつでも退職できます。
具体例
橋の建設プロジェクトのために技術者のたくみさんを4年契約で雇うのは、有期事業なので適法です。一方、通常の事務職を4年契約で結ぶことは原則3年の上限を超えるためできません。62歳のよしおさんとの5年契約は例外として有効です。
簡単にいうと
契約を結ぶとき、会社は労働条件をはっきり示す義務があります。「必ず示すもの」と「制度があるなら示すもの」の2種類です。
労働契約の締結時、使用者は労働条件を明示しなければなりません(労働基準法15条)。明示事項は2種類に分かれます。
・絶対的明示事項 ― 必ず明示しなければならないもの。契約期間、有期契約を更新する場合の基準(更新回数等の上限を含む)、就業の場所・従事する業務(変更の範囲を含む)、始業終業時刻や所定労働時間を超える労働の有無、賃金の決定・計算・支払方法と昇給、退職関連など
・相対的明示事項 ― 定めがある場合には必ず明示しなければならないもの。退職手当(退職金)、賞与、安全衛生、表彰・制裁(懲戒)など
退職金は相対的明示事項なので、退職金制度自体がない会社は「制度がない」ことをわざわざ明示する必要はありません。
明示の方法にもルールがあります。絶対的明示事項(昇給を除く)は書面の交付が必要で、労働者が希望すれば電子メールやFAXでも構いません。昇給に関する事項と相対的明示事項は口頭の明示でも認められます。
さらに、明示された労働条件が事実と異なっていた場合、労働者は即時に契約を解除できます。この解除の効力は将来に向かってのみ生じます。試験では「遡及的に消滅し契約がなかったことになる」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。
具体例
簡単にいうと
「辞めたら罰金」も「借金は給料から天引き」も、労働者を会社に縛りつける道具になるので禁止されています。
労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めること、損害賠償額をあらかじめ予定する契約を禁止しています。「辞めたら50万円払え」のような取り決めは、労働者の足止め策になり身分的拘束を生むため、民法では許される違約金の定めも労基法では認められません。
ただし16条が禁止するのは「あらかじめ金額を予定すること」だけです。労働者の行為で実際に会社に損害が生じた場合に、現実の損害について賠償請求すること自体は禁止されていません。試験では「現実に生じた損害の賠償請求を約定することも禁止される」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。
労働基準法17条は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺することを禁止しています。借金のカタに働かせ続ける人身拘束を防ぐ趣旨です。
注意したいのは、17条が禁止するのは使用者側からの相殺だという点です。労働者が使用者の強制によらず、真意から相殺を希望する意思表示をした場合の相殺は禁止されていません。
具体例
エステサロンが研修を受けた従業員のみくさんと「3年以内に退職したら研修費として一律30万円支払う」と約束するのは16条違反です。一方、みくさんが会社の備品を壊してしまい、実際の修理代を賠償請求されること自体は禁止されません。
簡単にいうと
解雇は「会社からの一方的なサヨナラ」。だからこそ、合理的な理由のない解雇は無効というブレーキがかかっています。
労働契約の終了にはいくつかのパターンがあります。
・当事者の意思表示によるもの ― 労使合意の解約(円満退職)、任意退職(労働者からの解除)、解雇
・時の経過によるもの ― 定年退職、契約期間の満了
・当事者の消滅によるもの ― 労働者の死亡、法人の消滅
このうち解雇とは、労働契約を将来に向かって解約する、使用者側の一方的意思表示による契約の解約です。現場で最ももめるのが解雇なので、法律による規制が幾重にもかけられています。
大前提となるのが労働契約法16条の解雇権濫用法理です。解雇する権利自体は使用者にありますが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」とされます。
具体例
居酒屋の店長が「なんとなく気に入らない」という理由でアルバイトのこうきさんを解雇しても、客観的に合理的な理由がないため解雇権の濫用として無効です。解雇が有効になるには、理由の合理性と社会通念上の相当性の両方が必要です。
簡単にいうと
仕事でケガをして休んでいる人と、産前産後で休んでいる人。この2つの期間+その後30日間は、解雇そのものが禁止されます。
労働基準法19条は、次の2つの期間について労働者の解雇を禁止しています。
・業務上の負傷・疾病の療養のために休業する期間とその後30日間
・産前産後休業(産前6週間・多胎妊娠は14週間、産後8週間)の期間とその後30日間
休業明けすぐの解雇も許さないよう、「その後30日間」まで保護が延びている点がポイントです。
この解雇制限期間中でも、例外的に解雇できる場合が2つあります。
・療養開始後3年を経過し、使用者が平均賃金の1,200日分の打切補償を支払う場合 ― 労働基準監督署長の認定は不要
・天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になった場合(単なる経営難は含まない)― 所轄労働基準監督署長の認定が必要
打切補償のパターンは認定不要、天災事変のパターンは認定必要という対比が試験で狙われます。
具体例
簡単にいうと
クビにするなら30日前に言うか、30日分のお金を払うか。この2つは組み合わせもできます。
使用者が労働者を解雇するには、次のいずれかの方法で解雇の予告をしなければなりません(労働基準法20条)。
・少なくとも30日前に予告する
・30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う
・両者の併用(例えば13日前の予告+17日分以上の手当のように、合計30日以上になればよい)
実務・試験の両方で重要な通達が2つあります。
・予告の取消し ― 使用者が行った解雇予告は一方的に取り消せません。労働者が自由な判断で同意した場合のみ取り消せます。労働者が同意しなければ解雇は解雇のままで、自己退職扱いになることはありません
・予告期間中の業務上傷病 ― 予告期間の満了直前に業務上の負傷・疾病で休業した場合、解雇制限(19条)が優先して解雇できなくなりますが、予告の効力は停止されるだけなので、治ゆした日に改めて予告をやり直す必要はありません
予告なしで解雇できる例外は2つで、どちらも労働基準監督署長の認定が必要です。
・天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になった場合
簡単にいうと
辞めるときに「在職証明がほしい」と言われたら、会社は遅滞なく出す義務があります。ただし本人が頼んでいない項目は書けません。
労働者が退職に当たって証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法22条)。記載事項は次の5つです。
・使用期間
・業務の種類
・その事業における地位
・賃金
・退職の事由(解雇の場合はその理由を含む)
重要なのは、この5項目に該当する事項でも、労働者が請求しない事項は記入してはならないことです。本人が望まない情報(例えば解雇されたという事実)が書かれた証明書だと、転職先で不利益に扱われる恐れがあるためです。
試験では「自己都合退職の場合には交付義務がない」という誤りの選択肢が出題されたことがあります。退職の理由を問わず、請求があれば交付義務があります。
具体例
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試験のポイント
試験のポイント
試験のポイント
試験のポイント
配送中の事故で3か月休業したドライバーのしんじさんは、復帰後30日間も含めて解雇できません。一方、会社の倉庫が大地震で全壊し事業継続が不可能になった場合は、監督署長の認定を受ければ解雇制限期間中でも解雇が可能になります。
試験のポイント
さらに、臨時的性質の労働者は、そもそも解雇予告制度の対象外です。ただし一定期間を超えて働き続けると予告が必要になります。
・日々雇い入れられる者 ― 1か月を超えたら必要
・2か月以内の期間を定めて使用される者 ― 当初の契約期間を超えたら必要
・季節的業務に4か月以内の期間で使用される者 ― 当初の契約期間を超えたら必要
・試みの使用期間中の者 ― 14日を超えたら必要
具体例
パン工場が職人のけいたさんを解雇する場合、10日前の予告なら残り20日分以上の解雇予告手当が必要です。また、試用期間10日目のアルバイトを解雇するなら予告は不要ですが、15日目なら30日ルールが適用されます。

解雇予告の3パターン
試験のポイント
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