米極東空軍山田部隊事件
最高裁第二小法廷・1962年7月20日・最二小判昭37.7.20

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:25解雇が無効になったとき、解雇期間中によそで働いて得た収入を会社はどこまで差し引けるのでしょうか。その上限を「平均賃金の4割まで」と初めて示した判例です。裏返せば「6割は必ず残す」という生活保障のラインで、労基法26条の休業手当の趣旨から導かれています。
事案の概要
使用者の責めに帰すべき事由により解雇された労働者が、解雇の無効を主張して解雇期間中の賃金の支払いを求めました。原審は、賃金全額の支払義務を認めたうえで、労働者が解雇期間中に他の職に就いて得た利益は使用者に償還すべきものとし、その額を平均賃金の4割の限度であらかじめ賃金から控除し、残額の支払いを命じました。労働者側は、そもそも控除は許されないとして上告しました。
- 解雇使用者の責めに帰すべき事由により労働者が解雇されました
- 中間収入労働者が解雇期間中に他の職に就いて収入を得ました
- 提訴解雇無効を主張し、解雇期間中の賃金全額の支払いを請求しました
- 原審中間収入を平均賃金の4割の限度で控除し、残額の支払いを命じました
- 最高裁労基法26条の趣旨から控除の限度は平均賃金の4割までとし、原審の判断を是認しました
争点
使用者の責めに帰すべき事由で解雇された労働者が、解雇期間中に他の職に就いて利益を得た場合、使用者は解雇期間中の賃金を支払うにあたってその利益を控除できるのでしょうか。できるとすれば、その限度はどこまでなのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者は、労働日の全労働時間を通じ使用者に対する勤務に服すべき義務を負うものであるから、使用者の責に帰すべき事由によつて解雇された労働者が解雇期間内に他の職について利益を得たときは、右の利益が副業的なものであつて解雇がなくても当然取得しうる等特段の事情がない限り、民法五三六条二項但書に基づき、これを使用者に償還すべきものとするのを相当とする。
ところで、労働基準法二六条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合使用者に対し平均賃金の六割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法一一四条、一二〇条一号参照)のは、労働者の労務給付が使用者の責に帰すべき事由によつて不能となつた場合に使用者の負担において労働者の最低生活を右の限度で保障せんとする趣旨に出たものであるから、右基準法二六条の規定は、労働者が民法五三六条二項にいう「使用者ノ責ニ帰スヘキ事由」によつて解雇された場合にもその適用があるものというべきである。
(中略)使用者が労働者に平均賃金の六割以上の賃金を支払わなければならないということは、右の決済手続を簡便ならしめるため償還利益の額を予め賃金額から控除しうることを前提として、その控除の限度を、特約なき限り平均賃金の四割まではなしうるが、それ以上は許さないとしたもの、と解するのを相当とする。
結論
使用者の責めに帰すべき事由で解雇された労働者が解雇期間中に他の職で得た利益は、副業的なものなど特段の事情がない限り民法536条2項ただし書により使用者に償還すべきものであり、決済の便宜として賃金からあらかじめ控除できます。ただし労基法26条が平均賃金の6割以上の生活保障を求めている趣旨から、控除の限度は特約がない限り平均賃金の4割までにとどめなければなりません。
関連法令の解説
労働基準法26条(休業手当)
使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中の労働者に平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければなりません。違反には罰則(労基法120条1号)があり、付加金(同法114条)の対象にもなります。本判例は、この条文の趣旨を「使用者の負担で労働者の最低生活を6割の限度で保障するもの」と読み、解雇の場合にも及ぼしました。
民法536条2項(債権者の責めに帰すべき事由による履行不能)
債権者(使用者)の責めに帰すべき事由で労務の提供ができなくなったときでも、労働者は反対給付である賃金を請求できます。ただし、ただし書により、自己の債務を免れたことで得た利益は債権者に償還しなければなりません。解雇期間中の中間収入の償還義務は、このただし書が根拠です。
労働基準法24条1項(賃金の全額払)
賃金は全額を支払わなければならないという原則で、使用者による一方的な控除・相殺を制限します。中間収入の控除も本来ならこの原則と衝突しますが、本判例は決済手続を簡便にするための例外として、平均賃金の4割までという上限つきで認めました。
身近な例え
不当にクビにされた人が、裁判中によそでアルバイトをして食いつないだとします。元の会社は「その稼ぎの分は払わなくていいはずだ」と言えますが、生活費として最低6割は必ず渡さなければなりません。差し引けるのは残りの4割の範囲まで、という線引きです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
解雇が無効だったとき、会社は解雇期間中の給料を払わなきゃいけない。でも、その間によそで働いて稼いだお金(中間収入)はどうなるの? この判例は「原則として会社に償還すべきだけど、差し引けるのは平均賃金の4割まで」って上限を引いたんだ。理由は労基法26条の休業手当。使用者の責任で働けなくなったときは平均賃金の6割以上を保障するのがこの条文の趣旨だから、解雇の場面にも及ぼして「6割は必ず残す」としたわけ。この4割・6割の数字、あけぼのタクシー事件でもそのまま使われるから、出発点はここだって覚えておいてね。あと「副業的で解雇がなくても得られたはずの収入」は控除の対象外っていう例外も忘れずに!
◎ 選択式で狙われるポイント
労基法26条(休業手当)を、解雇無効の場合の賃金請求にも適用させて「平均賃金の6割の生活保障」というラインを引いた判例です。控除できるのは平均賃金の4割まで=6割は必ず手元に残る、という数字の出所がここにあります。のちのあけぼのタクシー事件は、この枠を前提に「6割を超える部分から」「支給対象期間と時期的に対応する利益に限る」「4割で控除しきれない分は平均賃金算定の基礎に入らない賃金からも控除可」と精緻化しました。
- ▶労基法26条(休業手当)の規定は、労働者が民法536条2項にいう使用者の責めに帰すべき事由によって「解雇」された場合にも適用があります。休業のときだけの条文ではない点に注意しましょう。
- ▶控除できるのは平均賃金の4割までです。裏返すと平均賃金の6割は必ず労働者の手元に残ります。数字の向きを取り違えないようにしましょう。
- ▶中間収入が「副業的なもので、解雇がなくても当然に得られたはずの利益」であれば、特段の事情として償還の対象になりません。すべての収入が控除対象になるわけではありません。
- ▶本判例が引いた4割・6割の枠を前提に、あけぼのタクシー事件(最一小判昭62.4.2)が控除の方法をさらに詳しく整理しました。両者は対立ではなく積み重ねの関係です。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「右の利益が副業的なものであつて解雇がなくても当然取得しうる等特段の事情がない限り、(中略)これを使用者に償還すべきものとする」
- 「使用者の負担において労働者の最低生活を右の限度で保障せんとする趣旨」
- 「その控除の限度を、特約なき限り平均賃金の四割まではなしうるが、それ以上は許さない」
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