電電公社小倉電話局事件
最高裁第三小法廷・1968年3月12日・最三小判昭43.3.12

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:29退職金債権を他人に譲渡したら、その人は会社に直接請求できるのか——譲渡自体は有効でも、直接払の原則により譲受人からの請求は許されないとした最高裁判決です。「譲渡有効・請求不可」の二段構えが試験の核心です。
事案の概要
ある職員が、相手に加えた暴行の償いとして、退職時に支払われる退職金の債権を被害者に譲渡しました。ところがその後、譲渡は強迫によるものだったとして取り消す旨を勤務先に伝え、退職金を自分で受け取ってしまいました。債権を譲り受けたはずの被害者側が、譲り受けた退職金債権の支払いを勤務先に求めて提訴しました。
- 譲渡職員が暴行の償いとして退職金債権を被害者に譲渡しました
- 取消し主張職員が「譲渡は強迫による」として取消しを勤務先に通知しました
- 受領職員本人が退職金を受け取りました
- 提訴譲受人が退職金債権の支払いを勤務先に請求しました
- 最高裁直接払の原則により譲受人からの請求は許されないと判断しました
争点
労働者が賃金(退職金)債権を第三者に譲渡した場合、譲受人は使用者に対して直接その支払いを請求できるのでしょうか。また、法定の退職手当は労基法上の「賃金」に当たるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
国家公務員等退職手当法(以下「退職手当法」という。)に基づき支給される一般の退職手当は、(中略)その勤続を報償する趣旨で支給されるものであって、必ずしもその経済的性格が給与の後払の趣旨のみを有するものではないと解される。
しかし、退職者に対してこれを支給するかどうか、また、その支給額その他の支給条件はすべて法定されていて国または公社に裁量の余地がなく、退職した国家公務員等に同法8条に定める欠格事由のないかぎり、法定の基準に従って一律に支給しなければならない性質のものである。
これらのことから、その法律上の性質は労働基準法11条にいう「労働の対償」としての賃金に該当し、(中略)労働基準法24条1項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない。
」旨を定めて、使用者たる賃金支払義務者に対し罰則をもってその履行を強制している趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがって、賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当である。
結論
賃金債権の譲渡自体を無効とする根拠はありませんが、賃金の支払前に債権が譲渡された場合でも労基法24条1項の直接払の原則が適用されるため、使用者は労働者本人に直接支払わなければならず、譲受人が自ら使用者に支払いを求めることは許されません。法定の退職手当も、支給条件が法定され裁量の余地なく一律に支給される性質から、労基法11条の「労働の対償」たる賃金に該当します。
関連法令の解説
労働基準法24条1項(直接払の原則)
賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定め、罰則をもって履行を強制しています。直接払の原則は、中間搾取や代理受領による賃金の横取りから労働者を守る趣旨です。本判決は、債権譲渡という民法上有効な処分があっても、この原則が優先して使用者は本人に払わなければならないことを明らかにしました。
労働基準法11条(賃金の定義)
賃金とは、賃金・給料・手当・賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます。本判決は、国家公務員等退職手当法上の退職手当について、勤続の報償という趣旨を持ちつつも、支給の有無・支給額等がすべて法定され裁量の余地なく一律に支給される性質から、「労働の対償」たる賃金に該当すると性質決定しました。
身近な例え
宅配便の受取に似ています。荷物の受取権を友達に譲るメモを書いても、配達員は「ご本人に直接お渡しする決まりです」と本人にしか渡してくれません。譲る約束自体が嘘や無効になるわけではなく、本人が受け取った後で友達に渡すのは自由です。でも配達員(使用者)への直接請求はできない、という仕組みです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
この判例のキモは「譲渡は有効、でも譲受人は会社に請求できない」っていう二段構えだよ。賃金債権の譲渡を禁止する規定はないから譲渡自体は無効じゃない。でも労基法24条1項は罰則付きで「賃金は直接労働者に」って強制してるから、支払前に債権が譲渡されても会社は本人に直接払わなきゃいけなくて、譲受人からの請求は許されないんだ。確定日付ある証書で通知してもダメだよ。もう1つのポイントは退職手当の性質決定。勤続の報償っていう趣旨があっても、支給条件が全部法定されてて裁量の余地なく一律に支給されるから、労基法11条の「労働の対償」=賃金に当たるとされたの。この理屈の流れは穴埋めで狙われるから押さえてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「譲渡は有効、でも譲受人は請求不可」という二段構えが最大のひっかけです。確定日付ある証書で通知しても、譲受人からの請求はできません。退職手当が「勤続の報償」の趣旨を持ちつつも賃金に該当する、という性質決定の流れ(裁量の余地なく法定基準で一律支給→労働の対償)も穴埋めで狙われます。
- ▶H28-3Bは「確定日付ある証書で通知すれば譲受人が請求できる」とする記述で、正答は×です。対抗要件を備えた通知があっても、譲受人からの請求は許されません。
- ▶賃金債権の譲渡自体は無効ではありません(譲渡を禁止する規定がないためです)。「譲渡が無効だから請求できない」ではなく「譲渡は有効だが直接払の原則が優先する」という理屈の順序を正確に押さえましょう。
- ▶判旨の空欄補充も出題実績があります。「裁量の余地」「法律上の性質」「労働の対償」といった語句が穴埋めの定番です。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「その支給額その他の支給条件はすべて法定されていて国または公社に裁量の余地がなく」
- 「その法律上の性質は労働基準法11条にいう「労働の対償」としての賃金に該当し」
- 「賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されない」
出題実績
- H21-労基4C
- H28-労基3B
- R4-労基6エ
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