福島県教組事件
最高裁第一小法廷・1969年12月18日・最一小判昭44.12.18

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:42給料を払いすぎてしまったとき、翌月分から差し引いてよいか——過払賃金の精算のための「調整的相殺」を一定の要件の下で認めた最高裁判決です。相殺3判例(一方的相殺×・合意相殺○・調整的相殺○)の最後のピースで、選択式の出題実績もあります。
事案の概要
毎年6月と12月に勤勉手当(賞与)を支給する学校で、12月支給分について事務処理が間に合わず、9月中の勤務評定反対運動で勤務しなかった時間分の減額がされないまま支給されました。学校は過払い分の返納を求めましたが応じられなかったため、翌年2月と3月の給与から過払い分を減額しました。教員側は、この減額措置は労基法の全額払の原則に違反すると主張して提訴しました。
- 不就労9月の勤務評定反対運動で勤務しなかった時間が生じました
- 過払い12月の勤勉手当が、事務が間に合わず減額されないまま支給されました
- 返納拒否学校が過払い分の返納を求めましたが、応じられませんでした
- 給与減額翌年2月・3月の給与から過払い分を控除しました
- 最高裁調整的相殺は一定の要件の下で全額払の原則に反しないと判断しました
争点
賃金の過払が生じた場合に、その精算・調整のため、後に支払われる賃金から過払い分を控除(調整的相殺)することは、賃金全額払の原則に違反しないのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働基準法24条1項では、賃金は、同項ただし書の場合を除き、その全額を直接労働者に支払わなければならない旨を定めており、(中略)右規定は、一般的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる。
(中略)適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。
この見地からすれば、許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。
結論
賃金全額払の原則は使用者による相殺の禁止を含みますが、適正な賃金額を支払うための手段としての相殺(調整的相殺)は、行使の時期・方法・金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当でなければ、同原則に違反しません。許されるのは、過払の時期と合理的に接着した時期に行われ、あらかじめ予告される、額が多額にわたらないなど、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのない場合です。
関連法令の解説
労働基準法24条1項(全額払の原則とただし書)
賃金はその全額を支払わなければならず、一部控除が許されるのは法令に別段の定めがある場合か、過半数労働組合(ないときは過半数代表者)との書面による労使協定がある場合に限られます。本判決は、賃金計算の過誤・違算等による過払の精算・調整のための相殺は、このただし書に当たらなくても、時期・方法・金額等からみて労働者の経済生活の安定を脅かさない限り許されるとしました。賃金支払事務では締切と支払日の関係で過払が避けがたい、という実情を踏まえた判断です。
身近な例え
お店のレジでお釣りを多く渡してしまったのに気づき、次の来店時に「先日多くお渡しした分」を精算してもらうようなものです。事前にひと言伝えて、すぐの機会に、負担にならない額で精算するなら常識的な調整といえます。でも何年も経ってから突然まとめて差し引いたら、それはもう別の話になってしまいます。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
相殺3部作のラストがこの判例だよ。給料の計算ミスや事務の遅れで過払いが起きるのは避けがたいから、それを精算するための相殺(調整的相殺)は、労使協定がなくても一定の条件付きでOKとされたんだ。条件は3つ。①過払の時期と合理的に接着した時期にやること、②あらかじめ労働者に予告すること、③額が多額にわたらないこと。要は労働者の経済生活の安定を脅かさないことが軸ね。試験の最凶ひっかけは「予告して少額なら、時期が離れててもOK」ってやつで、答えは×。「合理的に接着した時期」は外せない必須要件だよ。日本勧業経済会事件(一方的相殺×)・日新製鋼事件(自由意思の合意相殺○)と3点セットで表にして整理してね!
◎ 選択式で狙われるポイント
調整的相殺の3要件——①過払時期と合理的に接着した時期、②予告、③多額でない——のうち、「合理的に接着した時期」は必須要件であり、予告と少額であることでは代替できない点が最大のひっかけです。賃金と無関係の債権による相殺(日本勧業経済会事件)とは性質が異なる、という位置づけも重要です。
- ▶H29-6Dは「多額でなく予告があれば、合理的に接着した時期でなくても違反しない」とする記述で、正答は×です。「合理的に接着した時期」は必須要件で、他の事情では代替できません。
- ▶H21選択式でも出題実績があります。「合理的に接着した時期」「あらかじめ労働者に予告」「多額にわたらない」「経済生活の安定」といった判旨の語句が、そのまま穴埋め候補です。
- ▶調整的相殺が許される理屈——賃金と無関係の債権による相殺とは趣を異にし、実質的には本来支払われるべき賃金全額を受領した結果になる——まで問われることがあります。労使協定なしの一部控除が原則不可であることとの関係で、位置づけを整理しておきましょう。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺」
- 「労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではない」
- 「過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期」
出題実績
- H21選-労基B
- H27-労基4B
- H29-労基6D
- R3-労基3エ
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