弘前電報電話局事件
最高裁第二小法廷・1987年7月10日・最二小判昭62.7.10

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:03「人が足りないから」と時季変更権を行使する前に、使用者は代わりの人を配置する努力をしたのか——を問うた判例です。勤務割制の職場では、通常の配慮で代替勤務者を配置できるのにそれをしないまま行う時季変更権の行使は違法とされました。時季変更権の限界を示す、選択式出題済みの重要判例です。
事案の概要
六輪番交替服務の勤務体制で電信電話設備の建設・保全等の現場作業に従事する職員が、年休の時季指定をしました。上司は、職員がその日に空港建設反対闘争に参加して違法行為に及ぶおそれがあると考え、あらかじめ代替勤務を申し出ていた別の職員を説得して申出を撤回させたうえで、「本人が出勤しなければ必要最低配置人員を欠く」として時季変更権を行使しました。職員は欠勤扱いとされ賃金が支払われなかったため、その支払等を求めて提訴しました。
- 時季指定勤務割で勤務予定日となっていた日について、職員が年休の時季指定をしました
- 撤回工作上司が、代替勤務を申し出ていた職員を説得して申出を撤回させました
- 時季変更「必要最低配置人員を欠く」として時季変更権を行使しました
- 提訴欠勤扱いで賃金不払いとなったため、職員が支払を求めて提訴しました
- 最高裁配慮を欠いた時季変更権の行使は「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たらないと判断しました
争点
勤務割による勤務体制がとられている事業場で、使用者が代替勤務者を配置する配慮をしないまま「必要配置人員を欠く」として時季変更権を行使した場合、「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるといえるか、という点です。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者の年次休暇の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのではあるが、(中略)同法の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる。
(中略)労基法39条3項(現在は5項)ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たって、代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。
したがって、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。
結論
使用者には、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることが要請されます。勤務割制の事業場では代替勤務者配置の難易が「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの重要な判断要素であり、通常の配慮をすれば代替勤務者の配置が客観的に可能なのに、使用者がその配慮をしないことで代替勤務者が配置されないときは、時季変更権の行使は認められません。
関連法令の解説
労働基準法39条5項ただし書(時季変更権)
労働者の指定した時季に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は他の時季に変更できます。本判決は、この判断の中に「使用者が代替勤務者の配置に通常の配慮をしたか」という視点を組み込みました。単に「その日は人が足りない」だけでは足りず、勤務割の変更などで穴を埋める努力が客観的に可能だったかが問われます。
年休権の実効確保(付加金・刑事罰・時季選択権)
本判決は、年休権が労基法上特に認められた権利で、付加金や刑事罰でその実効が確保されていること、時季の選択権が第一次的に労働者に与えられていることを根拠に、使用者への「状況に応じた配慮」の要請を導きました。使用者の義務は「妨げない」という不作為が基本ですが、そこにとどまらない点がポイントです。
身近な例え
シフト制のアルバイトで「その日は休みたい」と言われた店長を想像してください。他のスタッフに「代わりに入れる?」と一声かければ埋まるシフトなのに、それをせずに——それどころか「代わります」と言っていた人に断らせてまで——「人が足りないからダメ」と言うのは通りません。埋める努力をしていない人手不足は、休みを拒む理由にならないのです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
時季変更権って「事業の正常な運営を妨げる場合」にしか使えないんだけど、この判例はその判断の仕方を示したものだよ。シフト制(勤務割)の職場では、代替勤務者を配置できるかどうかが「重要な判断要素」。使用者が通常の配慮をすれば代わりの人を配置できたはずなのに、その配慮をしないで「人が足りない」って時季変更権を使うのはダメなんだ。この事件、実は上司が「代わりに勤務します」って申し出てた人をわざわざ説得して撤回させてたの。ひどいよね。休暇の使い道(争議参加のおそれ)を理由に配慮をサボるのは、利用目的で年休を拒否するのと同じで許されないよ。H27選択式では「代替勤務者」が空欄で出たから、キーワードとして押さえてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
①使用者の義務は不作為が基本ですが「状況に応じた配慮」まで要請されること、②代替勤務者配置の難易は判断の一要素であり、勤務割制の事業場では「重要な判断要素」になること、③本件は使用者が代替勤務の申出をわざわざ撤回させた事案で、休暇の利用目的を理由に配慮を放棄することは許されないこと——この3点が柱です。H27選択式で「代替勤務者」が穴埋め出題済みです。
- ▶H27選択式では「代替勤務者」が空欄になりました。「代替勤務者配置の難易は判断の一要素、勤務割制の事業場では重要な判断要素」という二段階の位置づけを正確に押さえましょう。
- ▶通常の配慮をすれば代替勤務者の配置が客観的に可能なのに配慮をしない場合、「必要配置人員を欠く」ことを理由に時季変更権を行使することはできません。
- ▶休暇の利用目的を理由に代替配置の配慮をしないことは、利用目的を考慮して年休を与えないのと同じであり許されません。利用目的自由の原則(白石営林署事件)がここでも効いてきます。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請している」
- 「代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となる」
- 「勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素」
- 「使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況」
出題実績
- H20-労基5C
- H27選-労基B
- R5-労基7D
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