神奈川信用農業協同組合事件
最高裁第一小法廷・2007年1月18日・最一小判平19.1.18

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:24「早期退職に手を挙げたのに、会社が承認してくれない。割増退職金はもらえないの?」——承認制の選択定年制では、使用者の承認がない限り割増退職金債権は発生しないことを明らかにした判例です。経営悪化局面での一律不承認も適法とされました。
事案の概要
信用農業協同組合の就業規則には、満60歳の年度末を定年とする定年制に加え、退職時に48歳以上・勤続15年以上の職員が申し出て組合が承認した場合に割増退職金を支給する「選択定年制度」がありました。経営悪化で事業譲渡が避けられなくなった組合は、譲渡前に退職者が急増して事業継続が危うくなるのを防ぐため、既に申出済みの分も含めて今後は承認しない方針をとり、対象職員へ事前に説明しました。申出をしていた職員らが、選択定年制による退職として扱うべきだと主張し、割増退職金の支払いを求めました。
- 制度48歳以上・勤続15年以上の職員が申し出て組合が承認すれば、割増退職金を支給する選択定年制がありました
- 経営悪化経営悪化により、事業譲渡・解散が不可避になりました
- 一律不承認譲渡前の退職者急増を防ぐため、申出済み分も含めて承認しない方針を職員に説明しました
- 提訴申出をしていた職員らが、割増退職金の支払いを求めて提訴しました
- 最高裁承認がなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果は生じないと判断しました
争点
使用者の承認を前提とする選択定年制(早期退職の代償として割増退職金を付与する制度)において、使用者が退職の申出を承認しなかった場合でも、労働者は割増退職金を受け取れるか、という点です。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
本件選択定年制による退職は、従業員がする各個の申出に対し、Y社がそれを承認することによって、雇用契約の終了や割増退職金債権の発生という効果が生ずるものとされており、Y社がその承認をするかどうかに関し、Y社の就業規則およびこれを受けて定められた本件要項において特段の制限は設けられていないことは明らかである。
もともと、本件選択定年制による退職に伴う割増退職金は、従業員の申出とY社の承認とを前提に、早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであるところ、本件選択定年制による退職の申出に対し承認がされなかったとしても、その申出をした従業員は、上記の特別の利益を付与されることこそないものの、本件選択定年制によらない退職を申し出るなどすることは何ら妨げられていないのであり、その退職の自由を制限されるものではない。
したがって、従業員がした本件選択定年制による退職の申出に対してY社が承認をしなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はない。
(中略)Y社が、本件選択定年制による退職の申出に対し、Xらがしたものを含め、すべて承認をしないこととしたのは、経営悪化から事業譲渡および解散が不可避となったとの判断の下に、事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐためであったというのであるから、その理由が不十分であるというべきものではない。
そうすると、本件選択定年制による退職の申出に対する承認がされなかったXらについて、上記退職の効果が生ずるものではないこととなる。
結論
選択定年制による割増退職金は、従業員の申出と使用者の承認の両方を前提に、早期退職の代償として特別の利益を付与するものです。承認がなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はありません。承認されなくても通常の退職は自由にできるので、退職の自由を制限するものでもありません。経営悪化に伴う一律不承認も、理由が不十分とはいえないとされました。
関連法令の解説
退職の自由(期間の定めのない雇用の解約)
期間の定めのない雇用契約では、労働者はいつでも解約(退職)を申し入れることができるのが民法上の原則です。本判決は、選択定年制の承認がなくても通常の退職はまったく妨げられていないことを指摘し、承認制がこの退職の自由を制限するものではない、と位置づけました。
承認制の趣旨(制度設計上の位置づけ)
選択定年制に承認要件を設けた趣旨は、事業上手放せない人材の流出を使用者側で止められるようにする点にあったと解説されています。割増退職金はあくまで「早期退職の代償として与える特別の利益」であり、誰に与えるかの判断権を使用者が留保する設計自体が有効とされたことがポイントです。
身近な例え
早期退職の割増金は、いわば「早く席を空けてくれた人へのお礼の特別ボーナス」です。フリマアプリで「購入希望」を押しただけでは売買が成立せず、出品者の承諾があって初めて取引になるのと同じで、手を挙げただけでは特別ボーナス付きの退職は成立しません。もちろん、承諾されなくても普通に退職する道はいつでも開かれています。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
早期退職の割増退職金って、「申出」と「会社の承認」の両方がそろって初めて発生するんだよ。この事件では、経営悪化で事業譲渡を控えた組合が「今退職者が急に増えたら事業が続けられない」って理由で申出を一律不承認にしたんだけど、最高裁は承認しなかった理由は不十分とはいえないとして、割増退職金の請求を認めなかったの。ポイントは2つ。①承認がなければ「割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はない」——この言い回しはそのまま覚えてね。②承認されなくても普通の退職はいつでもできるから、退職の自由の制限にはならない。「申出だけで割増退職金がもらえる」っていうひっかけには引っかからないでね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「申出+承認」がそろって初めて割増退職金債権が発生します。申出だけで請求権が発生すると誤らせるひっかけに注意しましょう。承認がなくても通常の退職は妨げられないから退職の自由の制限にはならない、という理由付けもセットで覚えておきましょう。
- ▶割増退職金債権の発生には「従業員の申出」と「使用者の承認」の両方が必要です。申出だけで請求権が発生するとする記述は誤りです。
- ▶承認されなかった従業員も、選択定年制によらない通常の退職はいつでも申し出られます。だから承認制でも退職の自由の制限にはならない、という理由付けが穴埋めの狙いどころです(本書の確認問題では「特別の利益」「生ずる余地はない」が空欄になっています)。
- ▶経営悪化から事業譲渡・解散が不可避で、譲渡前の退職者急増による事業継続困難を防ぐという一律不承認の理由は、「不十分であるというべきものではない」とされました。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「従業員の申出とY社の承認とを前提に、早期の退職の代償として特別の利益を付与するもの」
- 「その退職の自由を制限されるものではない」
- 「承認をしなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はない」
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