関西精機事件
最高裁第二小法廷・1956年11月2日・最二小判昭31.11.2

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:16「会社が従業員に損害賠償を請求できるなら、その分を給料から引いてよいのでは?」——この問いに最高裁が初めて明確にノーと答えた判例です。賃金全額払の原則が使用者による一方的相殺の禁止を含むことを示しました。
事案の概要
会社が営業不振で休業した際、未払給料の支払い原資を作るため、ある従業員が代表者の依頼で在庫品の売却や半製品の仕上販売にあたりました。事業再開と同時にこの人は取締役に就任し、会社は休業中の労務に対する「整理手当」を月7000円支払うと約束しましたが、整理手当と給料の一部を払っただけで残額を支払いませんでした。本人が未払分を請求したところ、会社は本人に対する損害賠償債権との相殺を主張し、原審はこれを認めて請求を退けました。
- 休業会社が営業不振で休業し、従業員への給料が未払いになりました
- 整理業務本人が代表者の依頼で在庫品の売却・半製品の仕上販売にあたりました
- 整理手当の約束事業再開時に取締役に就任し、休業中の労務に月7000円の整理手当を約束されました
- 相殺の主張未払分の請求に対し、会社が損害賠償債権との相殺を主張しました
- 最高裁賃金債権に対する損害賠償債権での相殺は許されないとして原判決を破棄・差戻ししました
争点
使用者は、労働者に対して有する損害賠償債権をもって、労働者の賃金債権と相殺することができるでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働基準法二四条一項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し、これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されないと解するのが相当である。
結論
労基法24条1項の全額払の原則により、使用者は労働者に対する損害賠償債権をもって賃金債権と相殺することはできません。本件では、請求された金銭のうち取締役としての報酬部分は賃金にあたりませんが、休業中の労務に対する「整理手当」は賃金にほかならないので、その部分について相殺を有効とした原判決には法律の適用を誤った違法があるとされました。
関連法令の解説
労働基準法24条1項(賃金の全額払)
賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めます。例外は、法令に別段の定めがある場合と、事業場の過半数労働組合(ないときは過半数代表者)との書面による労使協定がある場合の一部控除だけです。本判例は、この全額払の原則が使用者の一方的相殺まで封じることを明らかにしました。
労働基準法11条(賃金の定義)
賃金とは、名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます。本件の「整理手当」は休業中の労務に対する対価なので賃金にあたり、他方で取締役としての報酬は委任契約に基づく役員報酬なので賃金にあたりません。相殺禁止が及ぶ範囲はこの定義で決まります。
民法505条(相殺の要件)
二人が互いに同種の債務を負うとき、双方の債務が弁済期にあれば対当額で相殺できるという民法の一般ルールです。労基法24条1項はこの一般ルールに対する特別な制限として働き、賃金債権を受働債権とする使用者からの相殺を封じます。
身近な例え
貸したお金を返してもらえていない大家さんが、下宿人の財布から勝手に家賃分を抜き取ってはいけないのと同じです。請求できる権利があることと、生活費そのものである給料から勝手に差し引くことは別問題。取り立てたいなら正面から請求する、というのがルールです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
会社が従業員に損害賠償を請求できる立場でも、その債権を持ち出して給料と相殺するのはダメ——それをはっきり書いたのがこの判例だよ。根拠は労基法24条1項の全額払の原則。ちなみにこの事件、もう一つ面白いところがあって、請求されたお金のうち「取締役としての報酬」は賃金じゃないから相殺禁止の対象外、でも休業中の労務に対する「整理手当」は賃金だから対象になる、って切り分けてるんだ。つまり相殺禁止が効くかどうかは、まずそのお金が賃金かどうかから考えるってこと。日本勧業経済会事件(不法行為が原因の債権でもダメ)とセットで押さえてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
全額払の原則から相殺禁止を導いた最初期の最高裁判例です。「賃金にあたるかどうか」で結論が変わるという構造も同時に示しており、取締役報酬(賃金でない)と整理手当(賃金である)を切り分けたうえで、賃金部分については相殺不可としています。一方的相殺を禁じる系譜(本件→日本勧業経済会)と、例外を認める系譜(日新製鋼=合意相殺、福島県教組=調整的相殺)を対比して整理しましょう。
- ▶全額払の原則は、法令や労使協定による控除だけでなく、使用者による一方的相殺も禁じる趣旨を含みます。「相殺は控除ではないから24条の問題にならない」とする記述は誤りです。
- ▶相殺が禁止されるのは相手方の債権が「賃金」である場合です。取締役としての報酬は賃金にあたらないため、この禁止は及びません。賃金該当性(労基法11条)の判断が先に立ちます。
- ▶同じ相殺でも、労働者の自由な意思に基づく合意相殺(日新製鋼事件)や、過払賃金の調整的相殺(福島県教組事件)は例外として許容されます。本判例が禁じているのは使用者の一方的相殺である点を区別しましょう。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「賃金は原則としてその全額を支払わなければならない」
- 「賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されない」
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