此花電報電話局事件
最高裁第一小法廷・1982年3月18日・最一小判昭57.3.18

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:32勤務開始直前に電話で「今日年休を取ります」と言われたら、使用者はもう時季変更権を行使できないのでしょうか——この問いに答えた判例です。指定期間の開始後・経過後でも、事前判断の時間的余裕がなく、客観的な事由があり、遅滞なく行使すれば適法としました。R5選択式で出題された時季変更権のタイミング論点の基本判例です。
事案の概要
ある労働者は勤務開始直前の午前8時40分ごろ、宿直職員経由の電話で理由を告げずに当日1日分の年休を請求し、午前9時からの勤務に就きませんでした。所属長は業務への支障のおそれを認めつつ、事情次第では休暇を認めうると考えて同日午後に事情を聴こうとしましたが、本人が理由を明かさなかったため、その場で年休請求を不承認としました。別の労働者も別の日に同様の直前請求をして不承認とされました。労働者側は、指定した休暇期間の開始後・経過後の時季変更権の行使は無効だと主張して未払賃金を請求しました。
- 直前請求勤務開始20分前に電話で理由を告げず当日の年休を請求しました
- 不就労午前9時からの勤務に就きませんでした
- 事情聴取所属長が同日午後に事情を聴こうとしましたが、本人は理由を明かしませんでした
- 不承認その場で年休請求を不承認としました(=時季変更権行使の意思表示)
- 最高裁事後の行使でも、事由があり遅滞なくされたものとして適法だと判断しました
争点
労働者の指定した休暇期間が開始し、または経過した後に使用者が時季変更権を行使した場合、その行使は適法・有効となりうるでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
年次有給休暇の権利は、労働基準法39条1、2項の要件を充足することにより、法律上当然に労働者に生ずるものであって、その具体的な権利行使にあたっても、年次有給休暇の成立要件として使用者の承認という観念を容れる余地はないものであり、労働者の特定の時季を指定した年次有給休暇の請求に対し、使用者がこれを承認しまたは不承認とする旨の応答をすることは事実上存するところであるが、この場合には、右は、使用者が時季変更権を行使しないとの態度を表明したものまたは時季変更権行使の意思表示をしたものにあたると解するのが相当である。
(中略)労働者の年次有給休暇の請求(時季指定)に対する使用者の時季変更権の行使が、労働者の指定した休暇期間が開始しまたは経過した後にされた場合であっても、労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、それが事前にされなかったことのゆえに直ちに時季変更権の行使が不適法となるものではなく、客観的に右時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅滞なくされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力を認めるのが相当である。
結論
時季変更権の行使は本来休暇開始前にされるべきですが、労働者の時季指定が休暇の始期にきわめて接近してされたため、使用者に事前に判断する時間的余裕がなかったときは、休暇期間の開始後・経過後の行使でも直ちに不適法とはなりません。①客観的に時季変更権を行使しうる事由が存在し、②その行使が遅滞なくされた場合には、適法な時季変更権の行使として効力が認められます。なお使用者の「承認・不承認」の応答は、時季変更権を行使しない態度の表明または行使の意思表示と解されます。
関連法令の解説
労働基準法39条5項ただし書(時季変更権)
時季変更権は、労働者の指定した時季に休暇を与えると事業の正常な運営を妨げる場合に行使できます。条文には行使の期限は書かれていませんが、性質上、休暇開始前に行使するのが原則です。本判決は、労働者側の時季指定が始期にきわめて接近していた場合という条件の下で、事後の行使にも道を開きました。
労働基準法39条1項・2項(年休権の当然発生)
本判決も白石営林署事件を引き継ぎ、年休権は要件充足により法律上当然に発生し、使用者の承認という観念を容れる余地はないことを前提としています。だからこそ、実務上の「不承認」という応答も、法的には時季変更権行使の意思表示と読み替えて処理されるのです。
身近な例え
出発20分前に「今日の会議、欠席します」とだけ言って電話を切られた幹事を想像してください。本来なら事前に「その日は困る」と言うべきでも、考える時間すら与えられなかったのだから、事情がわかった時点ですぐに「やはり出てほしかった、欠席扱いにはできない」と返すことは許される、という理屈です。ポイントは「すぐに」返したかどうかです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
時季変更権っていつまでに行使しなきゃいけないの?って論点だよ。原則は休暇が始まる前。でもこの事件みたいに、勤務開始の直前に電話一本で「今日休みます」って言われたら、使用者には判断する時間的余裕がないよね。そこで最高裁は、①時季指定が始期にきわめて接近していて事前判断の時間的余裕がなかった、②客観的に時季変更権を行使しうる事由がある、③行使が「遅滞なく」された——この場合には、休暇期間が始まった後や過ぎた後の行使でも適法だとしたんだ。R5の選択式では「遅滞なく」が空欄で出たよ。あと、使用者の「不承認」って応答は、法的には時季変更権行使の意思表示と構成される点もセットで覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「休暇期間開始後の時季変更権行使は常に無効」とする肢は誤りです。有効となる要件は「時間的余裕がなかった」「客観的に行使しうる事由」「遅滞なく」の3つのキーワードで整理しましょう。R5選択式では「遅滞なく」が空欄で出題されました。
- ▶R5選択式では判旨の「その行使が[遅滞なく]されたものである場合には」の部分が空欄で出ました。「時間的余裕」「客観的に行使しうる事由」「遅滞なく」の3語はそのまま覚えましょう。
- ▶使用者の「承認・不承認」という応答は年休の成立要件ではなく、時季変更権を行使しない態度の表明または行使の意思表示と法的に構成されます(白石営林署事件の承認不要論の応用です)。
- ▶「休暇期間開始後・経過後の時季変更権行使は常に無効」と断定する肢は誤りです。直前指定で事前判断の余裕がなかった場合という限定付きで有効になりえます。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかった」
- 「客観的に右時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅滞なくされた」
- 「使用者が時季変更権を行使しないとの態度を表明したものまたは時季変更権行使の意思表示をしたもの」
出題実績
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