三菱重工長崎造船所事件
最高裁第一小法廷・2000年3月9日・最一小判平12.3.9

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:47始業前の着替えや資材の受出しの時間は「労働時間」なのか——労基法32条の労働時間の定義を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定式化した、労働時間分野の出発点となる最高裁判決です。過去問での出題回数は判例の中でもトップクラスです。
事案の概要
Y社の就業規則では、更衣を済ませて所定の始業時刻に作業場へ到着し実作業を開始できる状態にすること、所定の終業時刻に実作業を終えることが定められていました。勤怠は、始業時に体操を行う所定の場所にいるか、終業時に作業場にいるかを基準に管理されていました。さらに現場作業者には、材料庫からの資材・消耗品の受出しや粉じん防止の散水を始業時刻前に行うことが義務付けられていました。Xらは、これらの準備等に要した時間も労働時間にあたるとして賃金の支払いを求めて提訴しました。
- 義務付け作業服・保護具の装着、所定更衣所での更衣、始業前の資材受出しや散水が義務付けられていました
- 勤怠管理始業時に体操場所にいるか、終業時に作業場にいるかで勤怠を管理していました
- 提訴Xらが準備行為等の時間も労働時間だとして賃金を請求しました
- 最高裁労働時間=指揮命令下の時間と定義し、更衣・移動・受出し・散水・終業後の脱衣の時間を労働時間と認めました
争点
作業服・保護具の装着や更衣所から作業場までの移動など、実作業前後の準備行為等に要する時間は、労基法32条の「労働時間」に該当するのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
(中略)労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。
(中略)Xらは、Y社から、実作業に当たり、作業服および保護具等の装着を義務付けられ、また、装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていたというのであるから、装着および更衣所等から準備体操場までの移動は、Y社の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。
また、Xらの副資材等の受出しおよび散水も同様である。
さらに、Xらは、実作業の終了後も、更衣所等において作業服および保護具等の脱離等を終えるまでは、いまだY社の指揮命令下に置かれているものと評価することができる。
結論
労基法32条の労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、該当するか否かは客観的に定まります。事業所内での準備行為等を義務付けられ、または余儀なくされたときは、所定労働時間外とされていても、特段の事情のない限り指揮命令下の時間と評価され、社会通念上必要な限度で労働時間に該当します。
関連法令の解説
労働基準法32条(労働時間)
休憩時間を除き1週40時間・1日8時間を超えて労働させてはならないという法定労働時間の規定です。条文自体には「労働時間」の定義がないため、本判決の「使用者の指揮命令下に置かれている時間」という定式が事実上の定義として機能しています。明示の指示だけでなく黙示の指示による業務従事時間や、労働から離れることが保障されていない手待時間も労働時間に含まれます。
身近な例え
部活で「ユニフォームに着替えて、グラウンド整備をしてから練習開始」と顧問に義務付けられていたら、着替えや整備の時間も実質的には部活の時間ですよね。「練習は16時から」と紙に書いてあっても、拘束が15時半から始まっているなら実態は15時半からです。紙の上の定めではなく実態で客観的に判断する、というのがこの判例です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
労働時間の定義はこの判例で決まり!「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」だよ。大事なのは、労働時間かどうかは客観的に決まるってこと。契約や就業規則で「更衣時間は労働時間に含まない」って書いてあっても関係ないんだ。会社から事業所内での準備行為を義務付けられたり余儀なくされたりしたら、所定労働時間外でも原則として労働時間。この事件では、作業服・保護具の装着、更衣所から体操場への移動、資材の受出し、散水、終業後の脱衣まで労働時間って認められたよ。ただし「社会通念上必要と認められる」時間の限度でね。選択式でも択一でも超頻出だから、定義は一言一句レベルで覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「労働時間=指揮命令下に置かれている時間」「該当性は客観的に定まる(契約・就業規則・労働協約の定めでは決まらない)」の2つの規範が最頻出です。更衣・移動・資材受出し・散水・終業後の脱衣まで労働時間と認めた具体的あてはめもそのまま出題されます。
- ▶労働時間の定義は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」です。R6選択式でもこの定式が問われました。該当性は「客観的に」定まり、労働契約・就業規則・労働協約でどう定めても左右されない点が最大の急所です。
- ▶準備行為等が労働時間になるのは「事業所内で行うことを義務付けられ、または余儀なくされた」場合です。所定労働時間外に行うものとされていても結論は同じです。
- ▶労働時間にカウントされるのは「社会通念上必要と認められる」時間の限度です。ダラダラ着替えた時間まで全部入るわけではありません。
- ▶具体的あてはめとしては、装着・更衣所から体操場までの移動・副資材等の受出し・散水・終業後の脱衣がいずれも労働時間とされました(H22-4Bは○)。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」
- 「客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」
- 「義務付けられ、またはこれを余儀なくされたとき」
- 「社会通念上必要と認められるものである限り」
出題実績
- H14-労基4A
- H19-労基5A
- H20-労基4A
- H22-労基4B
- H27-労基6ア
- H28-労基4A
- R6選-労基B
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