三菱重工長崎造船所事件(賃金削減)
最高裁第二小法廷・1981年9月18日・最二小判昭56.9.18

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:53ストライキ期間中に家族手当まで賃金カットの対象にできるかが争われた事件です。最高裁は、削減できる範囲は労働協約や労働慣行に照らして個別に判断するとし、賃金を「生活保障部分」と「労働の対価部分」に機械的に二分する賃金二分論を退けました。ノーワーク・ノーペイの射程を考えるうえでの基本判例です。
事案の概要
会社では従来、社員賃金規則にスト期間中は家族手当を含む賃金を減額する旨の規定を置き、そのとおり運用してきました。その後この規定を賃金規則から削除し、代わりに賃金規則の細部取扱に同様の規定を設けました(その際、従業員の過半数で組織する労働組合の意見を聴取しています)。原告らの所属組合が2カ月にわたりストを行った際、会社がスト期間中の家族手当を減額したため、組合が減額分の支払いを申し入れましたが会社は応じず、組合員らがスト期間中の家族手当の支払いを求めて提訴しました。
- 規定と運用賃金規則にスト期間中の家族手当減額の規定があり、そのとおり運用していました(昭和23年頃〜)
- 規定の移設賃金規則から規定を削除し、細部取扱に同内容を規定しました。過半数組合の意見も聴取しています
- スト実施組合が2カ月にわたるストを実施し、会社がスト期間中の家族手当を減額しました
- 提訴組合員らがスト期間中の家族手当の支払いを請求しました
- 最高裁家族手当の削減は労働慣行として成立しており違法でないと判断しました
争点
ストライキ期間中の家族手当の削減が労働慣行として成立している場合、その削減は許されるのでしょうか。また、賃金を生活保障部分と労働の対価部分に二分し、生活保障部分は削減できないとする考え方(賃金二分論)は採用されるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
「Y社の造船所においては、ストライキの場合における家族手当の削減が昭和23年頃から昭和44年10月までは就業規則(賃金規則)の規定に基づいて実施されており、その取扱いは、同年11月賃金規則から右規定が削除されてからも、細部取扱のうちに定められ、Y社従業員の過半数で組織された労働組合の意見を徴しており、その後も同様の取扱いが引続き異議なく行われてきたというのであるから、ストライキの場合における家族手当の削減は、Y社とXらの所属する労組との間の労働慣行となっていたものと推認することができるというべきである。
(中略)ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否およびその部分と賃金削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定めまたは労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当とし、Y社の造船所においては、昭和44年11月以降も本件家族手当の削減が労働慣行として成立していると判断できることは前述したとおりであるから、いわゆる抽象的一般的賃金二分論を前提とするXらの主張は、その前提を欠き、失当である。
(中略)労働基準法37条2項(現在は5項)が家族手当を割増賃金算定の基礎から除外すべきものと定めたのは、家族手当が労働者の個人的事情に基づいて支給される性格の賃金であって、これを割増賃金の基礎となる賃金に算入させることを原則とすることがかえって不適切な結果を生ずるおそれのあることを配慮したものであり、労働との直接の結びつきが薄いからといって、その故にストライキの場合における家族手当の削減を直ちに違法とする趣旨までを含むものではなく、また、同法24条所定の賃金全額払の原則は、ストライキに伴う賃金削減の当否の判断とは何ら関係がないから、Xらの右主張も採用できない。」
結論
スト期間中に賃金のどの部分を削減できるかは、労働協約等の定めまたは労働慣行の趣旨に照らして個別に判断します。本件では家族手当の削減が労働慣行として成立しており、削減は許されます。賃金を生活保障部分と交換的部分に分ける抽象的一般的賃金二分論は採用されず、労基法37条の割増賃金の基礎からの家族手当除外や24条の全額払原則も削減の当否とは無関係です。
関連法令の解説
労働基準法24条(賃金全額払の原則)
賃金は全額を支払わなければならないとする規定ですが、これは支払うべき賃金を勝手に控除することを禁じるもので、ストで労務が提供されなかった部分についてそもそも賃金債権が発生するかという問題とは場面が異なります。本判決は、全額払原則はスト時の賃金削減の当否と「何ら関係がない」と明言しました。
労働基準法37条(割増賃金・家族手当の除外)
家族手当は割増賃金の算定基礎から除外されます(当時2項、現在5項)。その理由は、家族手当が扶養家族の有無など労働者の個人的事情に基づいて支給される性格の賃金だからです。本判決は、この除外規定からスト時の家族手当削減の違法性を導くことはできない、と切り離しました。
身近な例え
月ぎめの習い事の月謝を考えてみてください。休んだ回数分を月謝から引くかどうか、教材費や施設維持費まで引くかどうかは、その教室の規約やこれまでの取り扱い次第です。「この費目は生活に関わるから絶対に引けない」という世間一般の抽象論ではなく、その教室でどういう約束・慣行になっているかで決まる、というのがこの判例の発想です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
ストで働かなかった分の賃金カット、家族手当まで削れるの?っていう事件だよ。答えは「その会社の協約や労働慣行しだい」。この会社では昔から家族手当も削る運用がずっと異議なく続いてたから、労働慣行として成立していて削減OKとされたの。注意したいのは3つの理屈の切り分け。①「生活保障部分は削れない」っていう賃金二分論は採用されない。②労基法37条が家族手当を割増賃金の基礎から外すのは「個人的事情に基づく賃金」だからで、スト時の削減を違法にする趣旨じゃない。③24条の全額払原則もスト時のカットの当否とは無関係。この3つ、どれも択一のひっかけに使われるから整理しておいてね!なお同じ事件名で労働時間の判例(平12.3.9)もあるから混同注意だよ。
◎ 選択式で狙われるポイント
①削減できる範囲は協約・就業規則・労働慣行に照らした個別判断です。②抽象的一般的賃金二分論は排斥されました。③労基法37条(割増基礎から家族手当除外)は個人的事情に基づく賃金だからであって、スト時の削減を違法とする趣旨ではありません。④24条の全額払原則はスト時の賃金カットの当否と無関係です。この4点を押さえましょう。H30-労基6Dは①③の趣旨を問う正しい肢として出題されました。
- ▶スト期間中に削減できる賃金の範囲は、労働協約等の定めまたは労働慣行の趣旨に照らして個別に判断します。「家族手当は生活保障的だから一律に削減できない」とする賃金二分論を前提にした肢は誤りです。
- ▶労基法37条が家族手当を割増賃金の算定基礎から除外するのは、労働者の個人的事情に基づいて支給される賃金だからです。「労働との結びつきが薄い=スト時に削減すると違法」という論理は成り立ちません(H30-労基6D)。
- ▶労基法24条の全額払の原則は、ストに伴う賃金削減の当否とは無関係です。全額払違反を根拠に削減を違法とする肢はひっかけです。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「当該労働協約等の定めまたは労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当とし」
- 「いわゆる抽象的一般的賃金二分論を前提とするXらの主張は、その前提を欠き、失当である」
- 「賃金全額払の原則は、ストライキに伴う賃金削減の当否の判断とは何ら関係がない」
出題実績
- H30-労基6D
独学でも合格をつかみ取れる!
動画・テキスト・過去問・図解まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
全10科目の解説動画が見放題!連続再生・科目別・ブックマーク再生でスキマ時間に効率よく学べます。プレミアム限定
択一式・選択式の年度別/科目別演習が無制限!何度も解きなおせます。マイページで苦手管理もばっちり。プレミアム限定
節ごとの解説動画とテキストPDFで、通勤中もオフラインで復習できる。図解つきでイメージが残る。プレミアム限定
科目別テキストPDFダウンロード可能!ダウンロード後は半永久的に利用可能で、印刷して好きな使い方で学べます。プレミアム限定
テキストのブックマーク管理で苦手分野・何度も確認したい部分を徹底管理可能!プレミアム限定
学習記録・成績管理で自分の進捗を可視化。どの科目に集中すべきか一目でわかる。プレミアム限定
プレミアムプラン
¥7,800/ 購入日から1年間有効(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
同じ科目の判例
国際自動車事件
歩合給の計算にあたり、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨を賃金規則で定めた場合、通常の労働時間の賃金にあたる部分と労基法37条の割増賃金にあたる部分とを判別できるといえるでしょうか。
専修大学事件
使用者自身の療養補償(労基法75条)ではなく、労災保険法の療養補償給付を受けている労働者について、療養開始後3年を経過しても治らない場合に、使用者は労基法81条の打切補償を支払って解雇制限(19条1項)を外し、解雇することができるのでしょうか。
阪急トラベルサポート事件
旅行ツアーの添乗業務のように、業務内容があらかじめ具体的に確定しており、携帯電話での連絡体制や添乗日報による報告が整っている場合、事業場外労働のみなし労働時間制の要件である「労働時間を算定し難いとき」に当たるか、という点です。