三菱樹脂事件
最高裁大法廷・1973年12月12日・最大判昭48.12.12

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:17「会社は、思想・信条を理由に採用を拒否してもよいのか?」——採用の自由の範囲を示した、労働法分野で最も有名な最高裁大法廷判決のひとつです。労基法3条の均等待遇が「雇入れ後」にしか及ばないことを明確にしました。
事案の概要
大学卒業と同時に3カ月の試用期間付きで管理職要員として採用された人が、本採用を拒否された事件です。在学中の学生運動への関与を身上書に記載せず、面接でも事実と異なる回答をしたことが「管理職要員として不適格」と判断されました。本人は解雇(本採用拒否)の無効を主張して争いました。
- 入社3カ月の試用期間付きで管理職要員として採用されました
- 発覚在学中の学生運動関与を身上書・面接で秘匿していたことが判明しました
- 本採用拒否管理職要員として不適格として本採用を拒否されました
- 提訴本人が解雇無効を主張して提訴しました
- 最高裁企業の採用の自由を広く認め、思想・信条を理由とする雇入れ拒否も当然には違法でないと判断しました
争点
企業は、特定の思想・信条を持つことを理由に、その人の雇入れを拒否できるのでしょうか。また、採用選考の段階で応募者の思想・信条を調査し、関連事項の申告を求めることは違法なのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。
それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。
(中略)労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない。
結論
企業には契約締結の自由(採用の自由)があり、法律等による特別の制限がない限り、誰をどんな条件で雇うかを原則自由に決定できます。思想・信条を理由に雇入れを拒んでも当然に違法とはいえず、採用選考でその調査・申告を求めることも違法ではありません。
関連法令の解説
労働基準法3条(均等待遇)
「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定めています。禁止事由は国籍・信条・社会的身分の3つで、対象は賃金・労働時間のほか解雇・災害補償・安全衛生・寄宿舎など労働条件の全般に及びます。本判例は、この条文が「雇入れ後」の制限であって採用そのものには適用されないことを明確にしました。
憲法14条・19条
法の下の平等(14条)と思想・良心の自由(19条)は国家と個人の関係を定めた規定であり、私人間(企業と応募者)には直接適用されない、というのが本判決の前提です。私人間の問題は民法などの私法を通じて調整されます(間接適用説)。
身近な例え
自分の部屋に誰を入れるかは自分で決めていい、というのに似ています。ただし、いったん友達として迎え入れたら、その後の扱い(お菓子の分け方=労働条件)で差別してはいけません。「入れるかどうかの自由」と「入れた後の平等」は別のルール、というのがこの判例の核心です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
この判例のキモは「入口」と「入った後」の区別だよ。労基法3条は信条での差別を禁止してるけど、それはあくまで雇入れた後の労働条件の話。採用するかどうか自体は、企業の「契約締結の自由」の範囲なんだ。だから思想・信条を理由に採用を断っても当然には違法にならないし、面接で思想を調査するのも違法じゃないとされた。試験では「労基法3条は雇入れも制限する」ってひっかけが定番だから、そこだけは絶対に間違えないでね!
◎ 選択式で狙われるポイント
労基法3条が禁止する信条差別は「雇入れ後の労働条件」に関する制限であり、雇入れ(採用)そのものには及びません——この切り分けが最頻出のひっかけです。採用時の思想調査も違法ではないとした点までセットで押さえましょう。
- ▶労基法3条の差別禁止事由は「国籍・信条・社会的身分」の3つです。「性別」は含まれません(性別は労基法4条=賃金のみです)。
- ▶労基法3条が制限するのは雇入れ後の労働条件です。採用(雇入れ)の自由そのものは制約しません。
- ▶採用選考で応募者の思想・信条を調査し申告を求めることも、法律上禁止された違法行為ではないとされました。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」
- 「雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない」
出題実績
- H21-労基1B
- H28-労基1ウ
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