日本シェーリング事件
最高裁第一小法廷・1989年12月14日・最一小判平1.12.14

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:16「稼働率80%以下の人は賃上げなし」——ただし年休や産休を取った日も欠勤扱いです。そんな労働協約条項の効力を、労基法・労組法上の権利行使を抑制するかどうかで切り分けた判例です。有効とされた沼津交通事件との対比で問われる定番テーマです。
事案の概要
会社は稼働率向上のため、前年の稼働率が80%以下の従業員を賃上げ対象から外す条項を含む賃上げ協定を労働組合と結んでいました。問題は稼働率の計算方法で、本人の責めに帰すべき欠勤・遅刻・早退だけでなく、年休や産前産後休業の取得まで不就労として扱われていました。これにより賃上げされなかった従業員らが、条項の無効を主張して賃金の支払い等を求めました。
- 協定締結稼働率80%以下の従業員を賃上げ対象から外す条項を含む賃上げ協定を労使で締結しました
- 算定方法年休・産前産後休業の取得日まで不就労として稼働率を算定していました
- 賃上げ除外条項に該当した従業員らが賃上げ対象から除外されました
- 提訴除外された従業員らが条項の無効を主張し賃金の支払い等を請求しました
- 最高裁権利に基づく不就労を算定基礎に含める部分は公序に反し無効と判断しました
争点
年休や産前産後休業など労基法・労組法上の権利に基づく不就労を含めて稼働率を算定し、稼働率80%以下の従業員を賃上げ対象から除外する労働協約条項(80%条項)は有効なのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
従業員の出勤率の低下防止等の観点から、稼働率の低い者につきある種の経済的利益を得られないこととする制度は、一応の経済的合理性を有しており、当該制度が、労基法または労組法上の権利に基づくもの以外の不就労を基礎として稼働率を算定するものであれば、それを違法であるとすべきものではない。
そして、当該制度が、労基法または労組法上の権利に基づく不就労を含めて稼働率を算定するものである場合においては、基準となっている稼働率の数値との関連において、当該制度が、労基法または労組法上の権利を行使したことにより経済的利益を得られないこととすることによって権利の行使を抑制し、ひいては右各法が労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるときに、当該制度を定めた労働協約条項は、公序に反するものとして無効となると解するのが相当である。
(中略)本件80パーセント条項は、労基法または労組法上の権利に基づくもの以外の不就労を基礎として稼働率を算定する限りにおいては、その効力を否定すべきいわれはないが、反面、同条項において、労基法または労組法上の権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎としている点は、労基法または労組法上の権利を行使したことにより経済的利益を得られないこととすることによって権利の行使を抑制し、ひいては、右各法が労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから、公序に反し無効であるといわなければならない。
結論
稼働率の低い者に経済的利益を与えない制度自体は一応の経済的合理性がありますが、労基法・労組法上の権利に基づく不就労を稼働率算定に含める場合、権利行使の抑制により法が権利を保障した趣旨を実質的に失わせると認められるときは公序違反で無効となります。本件80%条項は、権利に基づく不就労を算定基礎に含める点が無効とされました。
関連法令の解説
民法90条(公序良俗)
本判決が無効の根拠としたのは「公序」です。労働協約は労使が合意した規範ですが、労基法・労組法が労働者に保障した権利の行使を抑制し、権利保障の趣旨を実質的に失わせるような内容は、協約であっても公序に反して無効となります。労使合意があれば何でも許されるわけではない、という点が急所です。
労基法・労組法上の諸権利
稼働率算定に含めることが問題となった不就労は、年次有給休暇(労基法39条)、産前産後休業(労基法65条)、育児時間、労災による休業、同盟罷業(労組法上の争議権)など、法律が労働者に保障した権利に基づくものです。これらの権利行使に経済的不利益を結び付けると、権利を「使いにくくする」効果が生じるため、厳しく審査されます。
身近な例え
ポイントカードで「今月毎日来店した人だけ割引」というルールを作るのは自由ですが、「法律で保障されたお休み」を取った日まで「来なかった日」にカウントするのは話が別、という感覚です。学校で例えるなら、公認の学校行事で欠席した日まで皆勤賞の計算から引かれたら、誰も行事に参加しなくなりますよね。権利を使うと損をする仕組みは、権利の保障そのものを骨抜きにしてしまうのです。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
「稼働率80%以下なら賃上げなし」っていう条項自体は、一応の経済的合理性があるんだ。でもね、その稼働率の計算に年休や産休、労災の休業みたいな「法律で保障された権利」で休んだ日まで入れちゃうのはアウト。権利を使ったら損する仕組みだと、みんな権利を使うのを我慢しちゃって、法律が権利を保障した意味がなくなっちゃうでしょ?だからその部分は公序に反して無効なんだよ。ポイントは「全部無効じゃない」こと。自己都合欠勤とかを基礎にする限りは有効で、権利に基づく不就労を含める部分だけが無効。あと、皆勤手当が有効とされた沼津交通事件との対比は超頻出だから、セットで覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
全部が無効なのではなく「切り分け」がポイントです。権利に基づくもの以外の不就労(自己都合欠勤等)を基礎とする限りは有効で、権利に基づく不就労(年休・産前産後休業・労災休業・同盟罷業等)を含める部分だけが公序違反で無効です。沼津交通事件(皆勤手当は有効)との対比が頻出です。
- ▶H23択一では「労災による休業を稼働率算定に含めることは経済的合理性があり有効」という肢が×とされました。権利に基づく不就労を含める部分は無効です。
- ▶無効となる不就労の例としては、年休・生理休暇・産前産後休業・育児時間・労災による休業・同盟罷業など、労基法または労組法で保障された権利に基づくものが挙げられます。
- ▶条項全体が無効なのではありません。自己都合欠勤など権利に基づくもの以外の不就労を基礎とする限りでは効力は否定されない、という切り分けを正確に押さえましょう。
- ▶本件で無効とされた背景事情——ベースアップ分も除外され不利益が後続年度・退職金にまで残存すること、80%という数値では産休や労災休業だけで該当し得ること——も判断材料として押さえておきましょう。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「権利の行使を抑制し、ひいては右各法が労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせる」
- 「公序に反するものとして無効となる」
- 「権利に基づくもの以外の不就労を基礎として稼働率を算定する限りにおいては、その効力を否定すべきいわれはない」
出題実績
- H23-労基6C
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