社労士になる子ちゃん
労働基準法重要度A自由意思に基づく賃金相殺

日新製鋼事件

最高裁第二小法廷・1990年11月26日・最二小判平2.11.26

日新製鋼事件の当事者関係図
日新製鋼事件の当事者関係図
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なる子ちゃんの判例解説動画

プレミアム4:43

労働者本人が「退職金で借金を清算してほしい」と頼んだ場合の相殺は許されるのでしょうか——自由な意思に基づく同意があれば合意相殺は全額払の原則に違反しない、と例外を認めた最高裁判決です。一方的相殺を禁じた日本勧業経済会事件との対比で必ず出題されます。

事案の概要

在職中に住宅資金を会社等から借り入れていた従業員が、交際費等の出費でサラ金にも多額の負債を抱え、破産申立てをする状況に陥りました。会社借入れの連帯保証人になっていた同僚に迷惑をかけないよう、破産宣告前に、退職金や給与を会社からの残債務の返済に充てて相殺する意思表示を自ら行いました。その後選任された破産管財人が、この意思表示は完全な自由意思に基づくものではなく全額払の原則に違反し、他の破産債権者を害するとして、会社に退職金等の支払いを求めて提訴しました。

  1. 借入れ従業員が会社等から住宅資金を借り入れ、サラ金にも多額の負債を抱えていました
  2. 清算依頼破産申立て前に、本人が退職金・給与での残債務返済(相殺)を自発的に依頼しました
  3. 破産破産宣告を受け、破産管財人が選任されました
  4. 提訴管財人が、相殺は全額払の原則違反であるとして退職金等の支払いを請求しました
  5. 最高裁自由な意思に基づく同意による相殺は全額払の原則に違反しないと判断しました

争点

労働者が自由な意思に基づいて相殺に同意した場合、使用者が労働者に対して有する債権と賃金債権との相殺は、賃金全額払の原則に違反しないのでしょうか。

判旨

判決文からの引用(原文のまま)

労働基準法24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合においては、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である。

もっとも、右全額払の原則の趣旨にかんがみると、同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところである。

結論

賃金全額払の原則は使用者による一方的相殺を禁止しますが、労働者が自由な意思に基づいて相殺に同意し、その同意が自由な意思によるものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同意を得てした相殺は同原則に違反しません。ただし、自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行わなければなりません。

関連法令の解説

労働基準法24条1項本文(賃金全額払の原則)

賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています。本判決は、この原則の趣旨を「使用者による一方的な賃金控除の禁止」と捉えたうえで、労働者の自由な意思に基づく同意がある合意相殺は趣旨に反しないと整理しました。一方的相殺を禁じた日本勧業経済会事件と矛盾するのではなく、「一方的か、真に合意があるか」で結論が分かれる関係です。

身近な例え

友達の財布から勝手にお金を抜くのは泥棒ですが、友達本人が「立て替えてもらった分、ここから取っておいて」と心から頼んできたなら話は別です。ただし「本当に心からの頼みか、断れない空気で言わされたのか」は慎重に見極める必要がある——それがこの判例の考え方です。

なる子ちゃん

なる子ちゃんのざっくりまとめ

前の日本勧業経済会事件で「使用者の一方的相殺はダメ」って決まったけど、じゃあ労働者本人が心から同意してたら?に答えたのがこの判例だよ。労働者が自由な意思で相殺に同意して、しかもその同意が自由意思によるものだと認められる合理的な理由が客観的に存在するなら、相殺は全額払の原則に違反しないんだ。ただし例外を安易に認めたら原則が崩れちゃうから、認定判断は「厳格かつ慎重」に。この6文字は試験で超狙われるよ!本件では、本人が自発的に頼んだこと、強要がなかったこと、借入条件が低利で会社が利子まで負担してて労働者に有利だったことなんかが決め手になったの。「一方的なら×、真の合意なら○」って対比で整理してね!

選択式で狙われるポイント

①合意相殺は全額払の原則の例外になり得ること、②ただし「合理的な理由が客観的に存在」することが必要であること、③認定判断は「厳格かつ慎重」に行うこと——という3段構えです。日本勧業経済会事件(一方的相殺は不可)との対比が出題の軸になります。「厳格かつ慎重」の語句は穴埋め・正誤の両方で狙われます。

  • H18-2Bは判旨と同旨の長文正誤問題で、正答は○です。「自由な意思に基づく同意+合理的理由の客観的存在」という要件構造を正確に覚えましょう。
  • 同意の認定判断は「厳格かつ慎重」に行う、という限定句が落とされたり緩められたりするひっかけに注意が必要です。例外を安易に認めない趣旨です。
  • 本件で自由意思を裏づけた事情——本人からの自発的依頼、強要の不存在、清算後の異議のない署名押印、低利・長期分割・会社の利子負担という労働者に有利な借入条件、退職時一括返済の約定の認識——も具体的に問われることがあります。

穴埋めで問われるキーフレーズ

  • 労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合
  • 自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき
  • 認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならない

出題実績

  • H18-労基2B
  • H30-労基6B
  • R3-労基3ウ
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