ノース・ウエスト航空事件
最高裁第二小法廷・1987年7月17日・最二小判昭62.7.17

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:44別地区の組合員が行ったストライキのせいで仕事がなくなり休業を命じられた労働者は、休業手当をもらえるのでしょうか——労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の判断枠組みを示した最高裁判決です。休業手当分野の最頻出判例で、選択式・択一式の双方で繰り返し出題されています。
事案の概要
Xらは航空会社Y社の大阪営業所・沖縄営業所の従業員で、A労働組合の組合員でした。組合は、Y社が他社(B社)の労働者を自社従業員と混用している状態が職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)違反にあたるとして、東京地区の組合員でストライキを行い、羽田空港内のY社の業務用機材を占拠しました。これにより羽田の地上作業が困難になり、Y社は便数・路線の変更を迫られ、大阪・沖縄経由の運航がほぼ止まりました。Y社はストに参加していない大阪・沖縄のXらに休業を命じて賃金を支払わず、Xらは賃金または休業手当の支払いを求めて提訴しました。
- 背景Y社が他社労働者を自社従業員と混用しており、職安法44条違反の疑いがありました
- 改善案Y社が組合の要求を一部受け入れ、正社員化方針・業務分離の改善案を発表しました
- スト決行組合は改善案では不十分だとして要求貫徹を目指しストを決行し、羽田の機材を占拠しました
- 休業命令大阪・沖縄経由便がほぼ消滅し、スト不参加のXらに休業を命じました
- 最高裁休業は使用者の責に帰すべき事由によるものではないとして、休業手当の請求を否定しました
争点
労働組合が自らの主体的判断と責任でストライキを決行し、その結果としてスト不参加の労働者に休業が命じられた場合、その休業は労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業にあたり、休業手当を請求できるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
Y社が従前グラウンドホステス業務および搭載業務にB社の労働者を従事させ、自己の従業員と混用していたことが職業安定法44条に違反する疑いがあり、このことが本件ストライキの発生を招いたことは否定できないものの、Y社は、(中略)A労働組合の要求の趣旨を一部受け入れて、(中略)改善案を発表し、これによって職業安定法違反はなくなると説明していたのであり、右説明自体は、一つの見解としてそれなりに首肯しえないものではない。
これに対し、A労働組合は、Y社とは異なった見解に立ち、右改善案によっても職業安定法違反の状態は除去されないとして、あくまでも搭載係員の統合撤回および機材売却中止という要求の貫徹を目指して本件ストライキを決行し、Y社の業務用機材を占拠して飛行便の運行スケジュールの大幅な変更を余儀なくさせたというのであるから、本件ストライキは、もっぱらXらの所属するA労働組合が自らの主体的判断とその責任に基づいて行ったものとみるべきであって、Y社側に起因する事象ということはできない。
(中略)前記休業を命じた期間中飛行便がほとんど大阪および沖縄を経由しなくなったため、Y社は管理職でないXらの就労を必要としなくなったというのであるから、その間Xらが労働をすることは社会観念上無価値となったといわなければならない。
そうすると、本件ストライキの結果Y社がXらに命じた休業は、Y社側に起因する経営、管理上の障害によるものということはできないから、Y社の責に帰すべき事由によるものということはできず、Xらは右休業につきY社に対し休業手当を請求することはできない。
結論
使用者が改善案を示すなど一定の対応をしていたにもかかわらず、労働組合が自らの主体的判断と責任でストライキを決行した場合、その結果生じたスト不参加労働者への休業は、使用者側に起因する経営・管理上の障害とはいえません。したがって「使用者の責に帰すべき事由」による休業にはあたらず、休業手当を請求することはできません。
関連法令の解説
労働基準法26条(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中、平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければなりません。この「責に帰すべき事由」は民法536条2項の帰責事由より広く、経営障害も含むとされますが、本判決は、組合の主体的判断によるストの結果生じた休業は「使用者側に起因する経営、管理上の障害」にあたらないとして、その外延を画しました。
職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)
何人も、許可なく労働者供給事業を行い、またはその事業者から供給される労働者を自らの指揮命令下で労働させてはならないという規定です。本件では、Y社が他社労働者を自社従業員と混用していたことにこの条文違反の疑いがあり、それがストの引き金になりました。ただし判決は、その疑いがあってもストの主体的決行という組合側の判断を重視しています。
身近な例え
学園祭の実行委員の一部が運営方針に抗議して倉庫を占拠し、機材が使えなくなって他のクラスの出し物まで中止になった場面を想像してください。出し物を中止したのは学校側の采配ミスではなく、占拠という抗議行動の結果です。中止で暇になった生徒が「学校のせいだから補償して」とは言えない、という構図に似ています。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
ポイントは「その休業、誰のせい?」って話だよ。会社は組合の要求を一部受け入れて改善案まで出してたのに、組合は「それじゃ足りない」って自分たちの判断でストを決行した。だからストは組合が自らの主体的判断と責任でやったものであって、会社側に起因する事象じゃないんだ。そうなると、ストのせいで飛行機が飛ばなくなって仕事がなくなったXらの労働は「社会観念上無価値」になっただけで、休業も「使用者の責に帰すべき事由」によるものじゃない。だから休業手当は請求できないの。「会社に法令違反の疑いがあったんだから会社のせいでしょ」ってひっかけが定番だから気をつけてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
①ストは組合の主体的判断と責任によるもので使用者側に起因する事象ではないこと、②スト不参加者の労働は「社会観念上無価値」となったこと、③よって休業は使用者の責に帰すべき事由によるものではなく休業手当は請求できないこと——という三段の流れです。法令違反の疑いがスト発生を招いた事情があっても結論は変わらない点がひっかけどころです。
- ▶労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の判断では、休業が「使用者側に起因する経営、管理上の障害」によるものか否かがメルクマールになります。H21選択式では、この判旨の言い回しが穴埋めで問われました。
- ▶法令違反の疑いがストの発生・長期化を招いたという事情があっても、使用者が改善案を示すなどの対応をしており、組合が主体的判断でストを決行した以上、休業は使用者側に起因するものとはいえません。「使用者に過失があるから休業手当を請求できる」とする記述は誤りです(R5-6E)。
- ▶スト不参加労働者の労働が「社会観念上無価値」となったために命じた休業、という表現もキーワードとして押さえておきましょう。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「もっぱらXらの所属するA労働組合が自らの主体的判断とその責任に基づいて行ったもの」
- 「Xらが労働をすることは社会観念上無価値となった」
- 「Y社側に起因する経営、管理上の障害によるものということはできない」
出題実績
- H17-労基1E
- H24-労基1C
- H26-労基4B
- R5-労基6E
- H21選-労基C
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