沼津交通事件
最高裁第二小法廷・1993年6月25日・最二小判平5.6.25

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:42年休を取ると皆勤手当がもらえない——この取扱いは違法なのでしょうか。労基法附則136条が「努力義務」にすぎないことを明らかにし、不利益措置の有効性は諸事情の総合判断で決まるとした判例です。無効とされた日本シェーリング事件との対比で必ず出てきます。
事案の概要
タクシー会社が、車両の実働率を高めるための出勤率向上策として皆勤手当を支給していました。月ごとの勤務予定表どおり出勤した者に支給し、予定表作成後に年休等を1日取ると半額、2日以上取ると不支給という仕組みです。年休を取得して皆勤手当をもらえなかった乗務員が、この取扱いは不当だとして支払いを求めました。タクシー業では予定表確定後の年休取得は代替要員の手配が難しく実働率が下がる、という業態の事情が背景にあります。
- 制度導入タクシー会社が出勤率向上策として皆勤手当を支給していました(予定表確定後の年休取得1日で半額、2日以上で不支給)
- 年休取得乗務員が年休を取得したところ、皆勤手当が支給されませんでした
- 提訴乗務員が皆勤手当の支払いを求めて提訴しました
- 最高裁附則136条は努力義務にとどまるとし、本件措置は公序違反とまではいえないと判断しました
争点
年次有給休暇を取得したことを理由に皆勤手当を減額・不支給とする措置は、年休の不利益取扱いとして無効になるのでしょうか。また、労基法附則136条(当時134条)はどのような性質の規定なのか、という点です。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働基準法134条(現在は136条)が、使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないと規定していることからすれば、使用者が、従業員の出勤率の低下を防止する等の観点から、年次有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結び付ける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきであることはいうまでもないが、右の規定は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。
また、右のような措置は、年次有給休暇を保障した労働基準法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないものではあるが、その効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできないと解するのが相当である。
(中略)右措置は、年次有給休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないと見るのが相当であり、また、乗務員が年次有給休暇を取得したことにより控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどからして、この措置が乗務員の年次有給休暇の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきである。
以上によれば、Y社における年次有給休暇の取得を理由に皆勤手当を控除する措置は、同法39条および134条(現在は136条)の趣旨からして望ましいものではないとしても、労働者の同法上の年次有給休暇取得の権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとまでは認められないから、公序に反する無効なものとまではいえないというべきである。
結論
労基法附則136条は使用者の努力義務を定めた規定にとどまり、年休取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果まで否定する効力はありません。不利益措置の効力は、趣旨・目的、失われる経済的利益の程度、事実上の抑止力の強弱等を総合し、年休権保障の趣旨を実質的に失わせると認められない限り、公序違反とはなりません。本件の皆勤手当控除は有効とされました。
関連法令の解説
労働基準法附則136条(不利益取扱いの禁止)
39条1項から4項までの年休(日単位・時間単位)を取得した労働者に対し、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない、と定める規定です。本判決はこれを「使用者の努力義務」と性質決定しました。年休取得日を欠勤扱いにするような取扱いを禁じる趣旨ですが、訓示規定であり罰則はありません。
労働基準法39条(年次有給休暇)
年休権を保障する中核規定です。年休取得に経済的不利益を結び付ける措置は39条の精神に沿わない面がありますが、それだけで無効になるのではなく、権利行使を抑制して「権利を保障した趣旨を実質的に失わせる」と認められる場合に初めて公序違反で無効になる、というのが本判決の枠組みです。
身近な例え
部活の「皆勤賞」を想像してください。文化祭の準備で公認欠席した部員に皆勤賞をあげないのは、少しモヤッとするけれど、賞のおまけが小さければ「まあ皆勤賞だからね」で済む話。でも公認欠席した人を試合のレギュラーから外すとなったら、誰も公認欠席を使えなくなります。不利益の大きさと抑止力の強さで線を引く、というのがこの判例の発想です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
年休を取ったら皆勤手当がもらえない——望ましくはないけど、無効とまではいえない、っていうのがこの判例だよ。まず大事なのは、附則136条(不利益取扱いをしないようにしなければならない)は「努力義務」だってこと。違反したから即無効、とはならないんだ。じゃあ何で決まるかというと、措置の趣旨・目的、失う経済的利益の程度、年休取得への事実上の抑止力の強さなどの総合判断。この事件では、控除される皆勤手当の額が相対的に大きくなくて、年休を一般的に抑制する趣旨でもなかったから、公序違反とまではいえないとされたの。80%条項が無効になった日本シェーリング事件と何が違うのか、事情の違いを自分の言葉で説明できるようにしておいてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
①附則136条は努力義務であり私法上の効力を否定しないこと、②有効・無効は「権利保障の趣旨を実質的に失わせるか」の総合判断で決まること、③本件は「一般的抑制の趣旨でない・控除額が相対的に大きくない・抑止力が大きくない」から有効とされたこと——の3点です。80%条項を無効とした日本シェーリング事件との結論の違いを、事情の違いから説明できるようにしておきましょう。
- ▶附則136条は「努力義務」です。違反しても直ちに私法上無効にはなりませんし、罰則もない訓示規定です。「不利益取扱いは直ちに無効」とあれば誤りです。
- ▶判断枠組みは「趣旨・目的/失う経済的利益の程度/事実上の抑止力の強弱」等の総合判断です。この列挙は穴埋めの定番です(本書の確認問題でも「経済的不利益」「努力義務」「不利益取扱い」が空欄になっています)。
- ▶日本シェーリング事件(無効)と対比しましょう。あちらは賃上げ除外で不利益が後年度・退職金まで残る大きなものだったのに対し、本件は皆勤手当という相対的に小さい額で、一般的に年休を抑制する趣旨でもなかったため有効とされました。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない」
- 「その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して」
- 「権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできない」
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