社労士になる子ちゃん
労働基準法重要度S労働基準法上の労働時間

大林ファシリティーズ事件

最高裁第二小法廷・2007年10月19日・最二小判平19.10.19

大林ファシリティーズ事件の当事者関係図
大林ファシリティーズ事件の当事者関係図
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なる子ちゃんの判例解説動画

プレミアム3:56

住み込みのマンション管理員夫婦が、所定労働時間の前後や休日に住民対応をしていた事案で、「実作業をしていない時間」が労働時間になる条件を示した最高裁判決です。三菱重工長崎造船所事件の「指揮命令下」基準を不活動時間に展開し、「労働からの解放」の保障という判断基準を打ち出しました。

事案の概要

Xら夫婦はマンションの住み込み管理員としてY社に雇われていました。所定労働時間は1日8時間(午前9時〜午後6時、休憩1時間)でしたが、実際には午前7時のごみ置場の開錠や管理員室の照明点灯、午後9時の施錠・無断駐車の確認、午後10時の消灯など、所定時間外の業務を指示されていました。管理員室に在室するのは午前9時〜午後6時ですが、それ以外の時間や休日も隣の居室におり、住民からのインターホン呼出しへの対応や宅配物の受渡しをしていました。時間外の対価は月額の特別手当(夫1万5千円・妻1万円)にとどまっており、Xらは割増賃金の残額等を請求しました。

  1. 勤務実態所定は9時〜18時でしたが、7時のごみ置場開錠から22時の消灯まで業務を指示されていました
  2. 居室待機所定時間外・休日も隣の居室で住民のインターホン対応や宅配受渡しに応じていました
  3. 提訴特別手当だけでは足りないとして、割増賃金の残額等を請求しました
  4. 最高裁労働からの解放が保障されない不活動時間は労働時間であると判断し、黙示の指示も認定しました

争点

住み込みのマンション管理員のように、実作業に従事していない不活動時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられている場合、その時間は労基法上の労働時間にあたるのでしょうか。

判旨

判決文からの引用(原文のまま)

労働基準法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。

そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。

したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。

そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

(中略)Y社は、Xらから管理日報等の提出を受けるなどして定期的に業務の報告を受け、適宜業務についての指示をしていたというのであるから、Xらが所定労働時間外においても住民等からの要望に対応していた事実を認識していたものといわざるを得ず、このことをも併せ考慮すると、住民等からの要望への対応についてY社による黙示の指示があったものというべきである。

そうすると、平日の午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、Xらは、管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて、Y社の指揮命令下に置かれていたものであり、上記時間は、労基法上の労働時間に当たるというべきである。

結論

実作業に従事していない不活動時間でも、労働から離れることが保障されていなければ指揮命令下から離脱したとはいえず、労基法上の労働時間にあたります。労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえません。本件では黙示の指示も認められ、平日午前7時から午後10時(休憩1時間を除く)が労働時間とされました。

関連法令の解説

労働基準法32条(労働時間)

法定労働時間の規定です。本判決は、三菱重工長崎造船所事件が示した「指揮命令下に置かれている時間」という定義を前提に、実作業のない不活動時間の扱いを具体化しました。判断の順序は、①労働からの解放が保障されているか、②役務の提供が義務付けられていると評価されるなら解放の保障なし、③よって指揮命令下にあり労働時間、という流れです。仮眠時間や住み込み勤務の労働時間性を考える際の基本枠組みになっています。

身近な例え

呼び出しベルを渡されて「鳴ったらすぐ来てね」と言われている状態を想像してください。ベルが鳴らない間は自由に見えても、いつ鳴るかわからないから遠出もできず気も抜けません。「実際に働いていない時間」でも「働かなくていいと保障された時間」でなければ、拘束は続いている——それがこの判例の考え方です。

なる子ちゃん

なる子ちゃんのざっくりまとめ

この判例の合言葉は「労働からの解放」だよ。実作業をしてない時間(不活動時間)でも、それだけでは指揮命令下から離れたことにならないんだ。労働から離れることがちゃんと保障されていて初めて労働時間じゃなくなる。管理員さん夫婦は居室にいてもインターホンが鳴ったら対応しなきゃいけなかったから、役務の提供が義務付けられていて解放の保障なし=労働時間ってわけ。しかも会社は日報で時間外対応を知ってたから「黙示の指示」もあったとされたよ。R5の選択式で「労働からの解放」がそのまま空欄になったから、このフレーズは絶対に落とさないでね!

選択式で狙われるポイント

キーワードは「労働からの解放」です。実作業をしていないだけでは指揮命令下から離脱したことにはならず、労働から離れることが保障されて初めて労働時間から外れます。R5選択式では、この規範部分がそのまま空欄補充で出題されました。

  • R5選択式では「不活動時間であっても[労働からの解放]が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たる」の空欄補充が出題されました。答えは「労働からの解放」です。
  • 実作業に従事していないというだけでは指揮命令下からの離脱にはならない、という否定形の言い回しに注意しましょう。
  • 使用者が業務報告等を通じて時間外対応の事実を認識しつつ容認していれば「黙示の指示」が認められます。明示の指示がなくても労働時間になり得ます。
  • 曜日ごとの処理も細かい論点です。土曜は1人体制の明確な指示があったため1名分のみ、日曜・祝日は明示・黙示の指示がある業務に現実に従事した時間のみが労働時間とされました。

穴埋めで問われるキーフレーズ

  • 労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる
  • 不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たる
  • 労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず
  • 住民等からの要望への対応についてY社による黙示の指示があった

出題実績

  • R5選-労基C
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