社労士になる子ちゃん
労働基準法重要度B退職意思の撤回

大隈鐵工所事件

最高裁第三小法廷・1987年9月18日・最三小判昭62.9.18

大隈鐵工所事件の当事者関係図
大隈鐵工所事件の当事者関係図
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なる子ちゃんの判例解説動画

プレミアム4:41

退職願を出した翌日に「やっぱり撤回します」——これは認められるのでしょうか。退職願(合意解約の申込み)への会社の承諾は特別な方式を要さず、人事部長が単独で承諾しても不合理ではないとした判例です。承諾が成立すれば撤回はもうできない、という退職意思の撤回問題の基本判例です。

事案の概要

労働者は学生時代から加入していた団体の活動を入社後も社内で続けていたところ、活動仲間の同僚が失踪しました。会社の調査で失踪した同僚との関係が判明し、事情聴取を受けた労働者は「失踪とは無関係」と述べたうえで、退職を願い出て退職願を提出しました。ところが翌日、退職の意思表示を撤回します。会社が撤回を認めなかったため、裁判で争いになりました。原審は「採用には副社長ら4名の面接など複数人が関与する会社だから、退職の承認も人事部長単独ではできない」として、承諾の成立を否定していました。

  1. 事情聴取同僚の失踪をめぐる調査の中で、労働者が事情聴取を受けました
  2. 退職願提出労働者が退職を願い出て退職願を提出し、人事部長が即時受理しました
  3. 撤回翌日、労働者が退職の意思表示の撤回を申し出ましたが、会社は認めませんでした
  4. 原審採用手続との対比から、人事部長単独の承諾を否定しました
  5. 最高裁採用と退職承認は同じ比重ではないとし、人事部長単独の決定権限を経験則上不合理でないと判断しました

争点

労働者からの退職願(雇用契約の合意解約の申込み)に対する使用者の承諾は、一定の方式による必要があるのでしょうか。また、新規採用の決定には複数人が関与する会社で、退職願の承認を人事部長が単独で決定することは不合理なのでしょうか。

判旨

判決文からの引用(原文のまま)

私企業における労働者からの雇用契約の合意解約申込に対する使用者の承諾の意思表示は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付等一定の方式によらなければならないというものではない。

(中略)原審の右判断は、企業における労働者の新規採用の決定と退職願に対する承認とが企業の人事管理上同一の比重を持つものであることを前提とするものであると解せられるところ、そのような前提を採ることは、たやすく是認し難いものといわなければならない。

けだし、Y社において原判決が認定するような採用制度をとっているのは、労働者の新規採用は、その者の経歴、学識、技能あるいは性格等について会社に十分な知識がない状態において、会社に有用と思われる人物を選択するものであるから、人事部長に採用の決定権を与えることは必ずしも適当ではないとの配慮に基づくものであると解せられるのに対し、労働者の退職願に対する承認はこれと異なり、採用後の当該労働者の能力、人物、実績等について掌握し得る立場にある人事部長に退職承認についての利害得失を判断させ、単独でこれを決定する権限を与えることとすることも、経験則上何ら不合理なことではないからである。

したがって、Xの採用の際の手続から推し量り、退職願の承認について人事部長の意思のみによってY社の意思が形成されたと解することはできないとした原審の認定判断は、経験則に反するものというほかはない。

結論

退職願、すなわち合意解約の申込みに対する使用者の承諾は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付など一定の方式による必要はありません。採用の決定に複数人が関与する会社でも、採用後の労働者の能力・人物・実績を把握できる人事部長に退職承認を単独で決定させることは、経験則上不合理ではありません。人事部長が退職願を受理した時点で承諾があったとみられ、以後の撤回は認められません。

関連法令の解説

合意解約の法理(申込みと承諾)

退職願の提出は、辞職(一方的な解約告知)ではなく「合意解約の申込み」と構成されるのが一般的です。契約の一般法理により、申込みは相手方の承諾があるまでは撤回の余地がありますが、承諾により合意が成立した後はもはや一方的に覆せません。本件では人事部長の受理の時点で承諾が成立したとみられ、翌日の撤回は間に合わなかったことになります。

承諾権限の所在(経験則による判断)

誰が会社を代表して承諾できるかは、その会社の人事管理の実態から判断されます。本判決は「採用の決定」と「退職の承認」の性質の違い——前者は情報がない中での人物選択、後者は情報を持つ者による利害得失の判断——に着目し、人事部長への単独決定権限の付与を経験則上不合理でないとしました。

身近な例え

フリマアプリで出品(申込み)を取り下げられるのは、誰かが「購入」ボタンを押す前まで。押された瞬間に取引成立で、もう一方的にはキャンセルできません。退職願も同じで、会社側の「承諾」が成立する前なら撤回できますが、権限のある人事部長が受理したらそこで成立。翌日に「やっぱりやめた」は通らない、というわけです。

なる子ちゃん

なる子ちゃんのざっくりまとめ

退職願って、出した瞬間に退職が決まるわけじゃなくて、「合意解約の申込み」なんだ。会社が承諾する前なら撤回できるけど、承諾されたらもう撤回できない。じゃあ誰の承諾で成立するの?っていうのがこの事件。この会社は採用のときは副社長や取締役も面接する仕組みだったから、原審は「退職の承認も人事部長一人じゃできないでしょ」って考えたんだけど、最高裁は逆。採用時は本人のことをよく知らないから慎重にやるだけで、退職時は能力も人物も実績も把握してる人事部長が単独で判断しても経験則上不合理じゃない、としたの。だから人事部長が退職願を受理した時点で承諾成立、翌日の撤回はアウト。「承諾前なら撤回OK、承諾後はNG」の流れで整理してね!

選択式で狙われるポイント

退職願は「合意解約の申込み」であり、使用者の承諾前なら撤回できますが、承諾が成立したら撤回できません。この流れの中で「誰の・どんな行為が承諾にあたるか」を示した判例です。採用と退職承認は人事管理上同じ重みではない、という理由付けが問われます。

  • 退職願は雇用契約の合意解約の「申込み」です。使用者の「承諾」があって初めて合意解約が成立し、承諾前なら撤回可能、承諾後は撤回不可という流れを押さえましょう。
  • 承諾の意思表示は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付など一定の方式を要しません。人事部長による退職願の「受理」が、即時の承諾と評価され得ます。
  • 採用決定に複数人が関与する会社でも、退職承認は人事部長単独で決定でき、不合理ではありません。採用時は本人の情報が乏しいのに対し、退職時は能力・人物・実績を把握できる立場にあるからです。本書の確認問題では「利害得失を判断」「経験則上」が空欄になっています。

穴埋めで問われるキーフレーズ

  • 就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付等一定の方式によらなければならないというものではない
  • 採用後の当該労働者の能力、人物、実績等について掌握し得る立場にある人事部長に退職承認についての利害得失を判断させ、単独でこれを決定する権限を与えることとすることも、経験則上何ら不合理なことではない
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