小野運送事件
最高裁第三小法廷・1963年6月4日・最三小判昭38.6.4

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:23交通事故による第三者行為災害で、被災労働者が加害者側と示談して損害賠償請求権を放棄した後、政府が保険給付をして加害者に求償できるかが争われた事件です。放棄の限度で請求権自体が消滅するため政府は代位取得できない、と結論づけた第三者行為災害の基本判例です。
事案の概要
従業員Bが業務で道路を通行中、別会社Y社の運転手のトラックと接触して重傷を負いました。Bの代理人とY社の間で、自賠責保険からの10万円に慰謝料・治療費2万円を加えた計12万円を支払い、その他の損害賠償請求権は一切放棄するという示談が成立しました。他方、政府はBの負傷を業務上と認め、保険給付額約42万円から示談分12万円を差し引いた約30万円を給付し、その分をY社に求償しました。Y社が「示談により政府が代位取得すべき請求権はすでに消滅している」として支払いを拒んだため、政府が提訴しました。
- 事故業務中の従業員Bが第三者Y社のトラックと接触して重傷を負いました
- 示談計12万円の支払いと引き換えに、その他の損害賠償請求権を一切放棄する示談が成立しました
- 保険給付政府が業務上の負傷と認め、示談分を差し引いた約30万円をBに給付しました
- 求償政府が給付相当分をY社に請求しましたが、Y社は請求権の消滅を理由に拒否しました
- 最高裁示談で免除した限度で請求権は消滅し、政府の法定代位権は発生しないと判断しました
争点
第三者行為災害において、被災労働者が示談により第三者に対する損害賠償請求権を放棄(債務を免除)した場合、その後に保険給付をした政府は、第三者に対して損害賠償を請求(求償)できるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者が第三者の行為により災害をこうむった場合にその第三者に対して取得する損害賠償請求権は、通常の不法行為の債権であり、その災害につき労働者災害補償保険法による保険が付せられているからといって、その性質を異にするものとは解されない。
したがって、他に別段の規定がないかぎり、被災労働者らは、私法自治の原則上、第三者が自己に対し負担する損害賠償債務の全部または一部を免除する自由を有するものといわなければならない。
(中略)被災労働者ら自らが、第三者の自己に対する損害賠償債務の全部または一部を免除し、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合においても、政府は、その限度において保険給付をする義務を免れるべきことは、規定をまつまでもない当然のことであって、右2項の規定は、右の場合における政府の免責を否定する趣旨のものとは解されないのである。
そして、補償を受けるべき者が、第三者から損害賠償を受けまたは第三者の負担する損害賠償債務を免除したときは、その限度において損害賠償請求権は消滅するのであるから、政府がその後保険給付をしても、その請求権がなお存することを前提とする前示法条2項による法定代位権の発生する余地のないことは明らかである。
結論
被災労働者が第三者に対して持つ損害賠償請求権は通常の不法行為債権であり、私法自治の原則上、労働者はこれを示談で免除する自由を持ちます。免除した限度で損害賠償請求権自体が消滅する以上、政府がその後保険給付をしても代位取得すべき権利は存在せず、第三者への求償はできません。
関連法令の解説
労働者災害補償保険法12条の4(旧20条・第三者行為災害)
1項は、第三者の行為による事故について政府が保険給付をしたときは、給付の価額の限度で受給権者が第三者に対して持つ損害賠償請求権を政府が取得する(法定代位)と定め、2項は、受給権者が第三者から同一の事由につき損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で給付義務を免れると定めます。本判決は、示談による免除の場合も2項の趣旨から政府は免責され、消滅した請求権を代位取得することはできないと整理しました。
身近な例え
友達が自転車をぶつけられて、相手と「1万円もらうから、これ以上は請求しない」と約束(示談)したとします。その後に保険会社がお見舞い金を払ったからといって、「代わりに相手へ請求する」ことはできませんよね。請求する権利そのものが、約束の時点でもう消えているからです。ないものは肩代わりできない、というシンプルな理屈です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
第三者行為災害の求償の仕組みを理解する判例だよ。被災した労働者が加害者に対して持つ損害賠償請求権は、普通の不法行為の債権。だから私法自治の原則で、本人が示談で「もう請求しません」って放棄するのも自由なんだ。でも放棄したらその限度で請求権は消滅するから、あとから政府が保険給付をしても、肩代わりして取得するはずの権利がもう存在しない=加害者に求償できないってこと。試験では「示談で免除した後でも政府は求償できる」っていう誤りの肢が定番だから、「消滅した権利は代位できない」って構造で覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
示談で放棄した部分について、政府は求償「できません」。損害賠償請求権が消滅する→代位取得の対象がない、という構造で理解しましょう。H29-労災6Eでは、「免除後でも求償できる」とする誤りの肢で出題されました。
- ▶被災労働者が第三者に対して取得する損害賠償請求権は「通常の不法行為の債権」であり、労災保険が付いていても性質は変わりません。この位置づけが空欄補充で問われました。
- ▶示談で損害賠償債務を免除すると、その限度で請求権自体が消滅します。政府がその後保険給付をしても代位取得の対象がないため、第三者への求償はできません。「求償できる」とする肢は誤りです(H29-労災6E)。
- ▶行政上の取扱いでは、真正に成立した示談が損害の全部のてん補を目的とするものであるときは、原則として保険給付自体が行われません。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「通常の不法行為の債権」
- 「私法自治の原則上、(中略)免除する自由を有する」
- 「その限度において損害賠償請求権は消滅する」
- 「法定代位権の発生する余地のないことは明らかである」
出題実績
- H29-労災6E
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