三晃社事件
最高裁第二小法廷・1977年8月9日・最二小判昭52.8.9

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム4:21「ライバル会社に転職したら退職金は半分」——そんな退職金規則は有効なのでしょうか。退職金の功労報償的性格に着目して、半額条項を労基法16条(賠償予定の禁止)等に違反しないとした判例です。H30選択式で「功労報償」が空欄になった実績があります。
事案の概要
広告代理店に約10年勤めた従業員の事案です。会社の就業規則には、退職後に同業他社へ転職した場合は自己都合退職の2分の1の乗率で退職金を計算する定めがありました。従業員は退職時に「同業他社に就職したら退職金の半額を返還する」と約定したうえで自己都合退職の額を受け取りましたが、まもなく同業他社に就職しました。そこで会社が、約定どおり半額の返還を求めて提訴しました。
- 在職広告代理店に約10年勤務していました。就業規則には、同業他社転職時は退職金半額とする定めがありました
- 退職「同業他社に就職したら半額返還する」と約定して退職金全額を受領しました
- 転職まもなく同業他社に就職しました
- 提訴会社が約定に基づき、退職金の半額の返還を請求しました
- 最高裁半額の定めは功労報償的性格に照らし合理性を欠くとはいえず、労基法等に違反しないと判断しました
争点
退職後に同業他社へ転職した場合の退職金を、一般の自己都合退職の場合の半額と定める退職金規則は、賠償予定の禁止(労基法16条)や賃金全額払(労基法24条)等に違反しないのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
原審の確定した事実関係のもとにおいては、Y社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められない。
したがって、Y社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。
すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の労働基準法3条、労働基準法16条、労働基準法24条および民法90条等の規定にはなんら違反するものではない。
結論
退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することは、直ちに職業の自由の不当な拘束とはいえません。退職金には功労報償的な性格があるため、制限違反の転職により功労の評価が減殺され、退職金の権利そのものが半額の限度でしか発生しないと構成されます。したがって、半額の定めは労基法3条・16条・24条や民法90条に違反しません。
関連法令の解説
労働基準法16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならないという規定です。違約金で労働者を職場に縛り付けて労働を強制することを防ぐ趣旨です。本判決は、半額条項を「違約金」ではなく「退職金の権利がその範囲でしか発生しない定め」と構成することで、16条違反の問題を回避しました。
労働基準法24条(賃金全額払)
賃金は全額を支払わなければならないという原則です。退職金も労基法上の賃金にあたり得ますが、本判決の構成では、同業他社に転職した場合の退職金債権はそもそも半額の限度でしか発生していないので、「発生した賃金を控除した」ことにはならず、全額払違反も生じません。
民法90条(公序良俗)
公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は無効とする規定です。競業制限が過度であれば職業選択の自由を不当に拘束し公序良俗違反になり得ますが、本件では「ある程度の期間」の制限にとどまり、直ちに不当な拘束とはいえないと判断されました。
身近な例え
長年の常連さんに「感謝の気持ち」として特別なプレゼントを渡すお店を想像してください。もしその常連さんが翌日からライバル店の宣伝部長になったら、「感謝の気持ち」は半減しますよね。退職金も勤続への「ごほうび」の性格があるから、会社を裏切る形の転職ならごほうびが最初から半分しか発生しない——罰金を取るのとは違う、という理屈です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
この判例のキモは「罰金じゃなくて、ごほうびが半分になるだけ」っていう構成だよ。退職金には功労報償——つまり長年の働きへのごほうび——の性格があるから、同業他社に転職すると功労の評価が減って、退職金の権利そのものが半額しか発生しない、と考えるんだ。だから違約金・賠償予定を禁止する労基法16条にも、賃金全額払の24条にも違反しない。H30の選択式で「功労報償」がそのまま空欄になったから、この4文字は絶対に書けるようにしておいてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「半額返還」を賠償予定(労基法16条違反)と捉えるのではなく、「退職金の権利がそもそも半額しか発生していない」と構成するのが判例のロジックです。権利が発生していない部分には、賃金全額払の問題も生じません。選択式では「功労報償」の穴埋めが出題済みです。
- ▶H30選択式では判旨の文言がそのまま空欄補充で出題され、空欄Aの答は「功労報償」でした。判旨の言い回しをそのまま覚えましょう。
- ▶半額条項は「違約金・賠償予定」ではなく、「退職金の権利の発生範囲の問題」と構成されます。だからこそ労基法16条違反にはなりません。
- ▶退職金が労基法上の賃金にあたるとしても結論は変わらない、と判旨が明言している点もひっかけどころです。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められない」
- 「本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない」
- 「退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しない」
出題実績
- H30選-労基C
独学でも合格をつかみ取れる!
動画・テキスト・過去問・図解まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
全10科目の解説動画が見放題!連続再生・科目別・ブックマーク再生でスキマ時間に効率よく学べます。プレミアム限定
択一式・選択式の年度別/科目別演習が無制限!何度も解きなおせます。マイページで苦手管理もばっちり。プレミアム限定
節ごとの解説動画とテキストPDFで、通勤中もオフラインで復習できる。図解つきでイメージが残る。プレミアム限定
科目別テキストPDFダウンロード可能!ダウンロード後は半永久的に利用可能で、印刷して好きな使い方で学べます。プレミアム限定
テキストのブックマーク管理で苦手分野・何度も確認したい部分を徹底管理可能!プレミアム限定
学習記録・成績管理で自分の進捗を可視化。どの科目に集中すべきか一目でわかる。プレミアム限定
プレミアムプラン
¥7,800/ 購入日から1年間有効(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
同じ科目の判例
国際自動車事件
歩合給の計算にあたり、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨を賃金規則で定めた場合、通常の労働時間の賃金にあたる部分と労基法37条の割増賃金にあたる部分とを判別できるといえるでしょうか。
専修大学事件
使用者自身の療養補償(労基法75条)ではなく、労災保険法の療養補償給付を受けている労働者について、療養開始後3年を経過しても治らない場合に、使用者は労基法81条の打切補償を支払って解雇制限(19条1項)を外し、解雇することができるのでしょうか。
阪急トラベルサポート事件
旅行ツアーの添乗業務のように、業務内容があらかじめ具体的に確定しており、携帯電話での連絡体制や添乗日報による報告が整っている場合、事業場外労働のみなし労働時間制の要件である「労働時間を算定し難いとき」に当たるか、という点です。