三共自動車事件
最高裁第三小法廷・1977年10月25日・最三小判昭52.10.25

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:33労災事故の民事損害賠償で、将来受け取ることが確定している労災年金の分を賠償額から差し引けるかが争われた事件です。最高裁は「現実に給付された分だけ控除、将来分は控除不要」と判断しました。この判例法理を修正するために現行の年金と損害賠償の調整規定が立法された、という流れごと押さえる判例です。
事案の概要
自動車の分解整備業を営むY社で、20歳の整備工Xが工場での作業中、ワイヤーロープに吊られたバケットの落下で下敷きになり、脳挫傷・頸骨骨折などの重傷を負って完全に労働不能となりました。XはY社に逸失利益や慰謝料の損害賠償を求めて提訴しました。裁判では、賠償額の算定にあたり、Xが将来受給していく労災保険の年金給付分を差し引けるかどうかが争われました。
- 事故整備工場での作業中にバケットが落下し、20歳の整備工Xが重傷を負って完全に労働不能となりました
- 提訴XがY社に逸失利益・慰謝料等の損害賠償を請求しました
- 争点化将来の労災年金給付分を賠償額から控除できるかが争われました
- 最高裁現実に給付された分に限り控除され、将来の給付額は控除を要しないと判断しました
- 立法対応昭和55年改正で、将来の年金給付と民事損害賠償の調整規定が新設されました
争点
使用者の行為による労働災害で被災労働者が使用者に民事損害賠償を請求する場合、賠償額から、将来受給することが確定している労災保険の年金給付の額を控除できるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであって、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によって生じた場合において、受給権者に対し、政府が労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法84条2項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが、相当である。
そして、右のように政府が保険給付をしたことによって、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが、相当である。
結論
労災保険給付は損害てん補の性質を持つため、政府が給付をすれば使用者はその価額の限度で賠償責任を免れます(労基法84条2項の類推適用等)。ただし賠償請求権が失われるのは「政府が現実に保険金を給付したとき」に限られ、将来給付が確定している年金でも、現実の給付前である以上、将来分を賠償額から控除する必要はありません。
関連法令の解説
労働基準法84条2項(他の法律との関係)
使用者が労基法上の災害補償を行った場合、同一の事由については、その価額の限度で民法による損害賠償の責任を免れると定める規定です。本判決は、労災保険給付が実質的に使用者の災害補償義務を政府が肩代わりするものであることから、労災保険給付が行われた場合にもこの規定を類推適用しました。
労災保険法(年金給付と損害賠償の調整規定)
本判決が「将来分は控除不要」としたことで、使用者は保険料を払っていても将来の年金分まで含めた全額賠償を求められかねない状態になりました。そこで昭和55年の法改正により、将来受けるべき年金給付と民事損害賠償を調整する規定が設けられ、判例法理は立法によって修正されています。判例と現行制度をセットで覚えることが大切です。
身近な例え
毎月の仕送りを約束してくれた人がいるからといって、今すぐ必要な生活費の請求をその約束分だけ減らされたら困りますよね。約束はあくまで将来の話で、実際にお金が届くまでは手元の損害は埋まっていない——だから「実際に受け取った分だけ差し引く」というのがこの判例の考え方です。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
労災の保険給付と民事の損害賠償、二重取りにならないよう調整するのがテーマだよ。労災保険給付には損害てん補の性質があるから、政府が給付したら使用者はその分の賠償責任を免れる。根拠は労災給付なら労基法84条2項の類推適用、厚生年金の給付なら衡平の理念ね。ただし免れるのは「現実に給付されたとき」だけ!将来もらえることが確定してる年金でも、まだもらってない分は賠償額から控除しなくていいんだ。でもこれだと使用者が労災保険に入ってる意味が薄れちゃうから、昭和55年改正で将来の年金給付との調整規定ができた——この「判例→立法で修正」の流れまでセットで覚えてね!
◎ 選択式で狙われるポイント
「既に支給された保険給付分は控除する、将来の年金給付分は控除しない」という対比が核心です。労災給付なら労基法84条2項の類推適用、厚年給付なら衡平の理念、という根拠の使い分けも空欄補充で狙われます。判例法理の不都合を修正するため、昭和55年改正で将来年金と民事損害賠償の調整規定が設けられました。
- ▶労災保険給付が行われた場合に使用者が民事賠償責任を免れる根拠は、労基法84条2項の「類推適用」です。厚生年金保険の給付の場合は「衡平の理念」です。この根拠の対比が空欄補充の定番です。
- ▶賠償請求権が失われるのは、政府が「現実に」保険金を給付したときに限られます。将来にわたる継続給付が確定していても、未給付分は賠償額から控除する必要はありません。
- ▶この判例のままでは使用者の労災保険加入の意味が薄れるため、昭和55年改正で将来の年金給付と民事損害賠償の調整規定が設けられました。判例法理と現行制度の関係として問われることがあります。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「受給権者に対する損害の填補の性質をも有する」
- 「労働基準法84条2項の規定を類推適用し」
- 「衡平の理念に照らし」
- 「政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ」
- 「将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しない」
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