社労士になる子ちゃん
労働者災害補償保険法重要度B労働災害と業務起因性

横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件

最高裁第一小法廷・2000年7月17日・最一小判平12.7.17

横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件の当事者関係図
横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件の当事者関係図
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なる子ちゃんの判例解説動画

プレミアム5:49

支店長付き運転手が過重勤務の末にくも膜下出血を発症した事案で、基礎疾患を持つ労働者でも、業務による過重な負荷が基礎疾患を「自然の経過を超えて増悪」させたなら業務起因性が認められることを示した最高裁判決です。過労による脳・心臓疾患の労災認定を学ぶうえでの基本判例です。

事案の概要

支店長付きの運転手Xは、発症前の半年間、1日平均7時間を超える時間外労働と長距離走行が続き、慢性疲労の状態にありました。発症前日は早朝5時50分に出庫して夜7時30分に帰庫し、その後深夜11時頃までオイル漏れの修理を行い、睡眠約3時間半で翌朝4時30分に起床してまた業務に就くという極端な勤務でした。その朝、支店長を迎えに行く運転中にくも膜下出血を発症して休業しました。休業補償給付を請求しましたが、労基署長が業務上の疾病に当たらないとして不支給としたため、処分の取消しを求めて提訴しました。

  1. 慢性疲労半年間にわたり1日平均7時間超の時間外労働と長距離走行が続きました
  2. 前日の勤務早朝出庫から深夜の修理作業まで働き、睡眠約3時間半で翌朝も早朝から業務に就きました
  3. 発症支店長を迎えに行く運転中にくも膜下出血を発症して休業しました
  4. 不支給処分休業補償給付を請求しましたが、労基署長が業務上の疾病に当たらないとして不支給としました
  5. 最高裁業務の過重負荷が基礎疾患を自然の経過を超えて増悪させたとして業務起因性を肯定しました

争点

脳動脈瘤・高血圧症といった基礎疾患を持つ労働者が、長時間の拘束と慢性疲労を伴う業務の中でくも膜下出血を発症した場合、発症と業務との間に相当因果関係(業務起因性)が認められるのでしょうか。

判旨

判決文からの引用(原文のまま)

Xの業務は、支店長の乗車する自動車の運転という業務の性質からして精神的緊張を伴うものであった上、支店長の業務の都合に合わせて行われる不規則なものであり、その時間は早朝から深夜に及ぶ場合があって拘束時間が極めて長く、また、Xの業務の性質および勤務態様に照らすと、待機時間の存在を考慮しても、その労働密度は決して低くはないというべきである。

(中略)Xの基礎疾患の内容、程度、Xが本件くも膜下出血発症前に従事していた業務の内容、態様、遂行状況等に加えて、脳動脈りゅうの血管病変は慢性の高血圧症、動脈硬化により増悪するものと考えられており、慢性の疲労や過度のストレスの持続が慢性の高血圧症、動脈硬化の原因の一つとなり得るものであることを併せ考えれば、Xの右基礎疾患が右発症当時その自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに破裂を来す程度にまで増悪していたとみることは困難というべきであり、他に確たる増悪要因を見いだせない本件においては、Xが右発症前に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷がXの右基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、右発症に至ったものとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる。

したがって、Xの発症した本件くも膜下出血は労働基準法施行規則35条、別表第1の2第9号にいう「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するというべきである。

結論

基礎疾患の内容・程度と、発症前に従事していた業務の内容・態様・遂行状況等を総合的に判断し、他に確たる増悪要因が見当たらない本件では、業務による過重な精神的・身体的負荷が基礎疾患を自然の経過を超えて増悪させて発症に至ったとみるのが相当であり、業務と発症との相当因果関係が肯定されます。よって本件くも膜下出血は「業務に起因することの明らかな疾病」に当たります。

関連法令の解説

労働基準法施行規則別表第1の2(業務上の疾病の範囲)

労基法75条2項を受けて業務上の疾病の範囲を列挙する規定です。本判決は、過労によるくも膜下出血を包括条項である「その他業務に起因することの明らかな疾病」(当時の第9号)に該当すると判断しました。過労による脳・心臓疾患を労災として認める流れの基礎になった判例で、後の認定基準の考え方にもつながっています。

労働者災害補償保険法(休業補償給付)

業務上の負傷・疾病による療養のため働けず賃金を受けられない場合に支給される給付です。「業務上」といえるためには、業務遂行性を前提に、業務と傷病との間の相当因果関係(業務起因性)が必要という二段構えの枠組みで判断されます。本件はこの業務起因性が正面から争われました。

身近な例え

もともと小さなひびが入っていた水道管をイメージしてください。普通の水圧で使っていればまだ当分壊れなかったはずなのに、毎日限界ぎりぎりの高圧で水を流し続けたせいで破裂したなら、壊れた原因は「ひび」ではなく「高圧運転」ですよね。基礎疾患があっても、それを一気に悪化させたのが過重な業務なら、労災として扱うという考え方です。

なる子ちゃん

なる子ちゃんのざっくりまとめ

この判例のポイントは、もともと脳動脈瘤や高血圧っていう基礎疾患があった人でも労災になり得るってことだよ。判断の仕方は「基礎疾患の内容・程度」と「発症前の業務の内容・態様・遂行状況」をぜんぶ合わせた総合判断。そのうえで、過重な業務の負荷が基礎疾患を「自然の経過を超えて増悪」させたといえるなら、業務と発症の間に相当因果関係あり=業務起因性OKなんだ。試験では「自然の経過を超えて増悪」「相当因果関係」っていう言い回しがそのまま空欄で出るから、このフレーズはセットで正確に覚えてね!

選択式で狙われるポイント

「基礎疾患があるから業務外」は誤りです。基礎疾患の内容・程度+業務の内容・態様・遂行状況の総合判断で、過重負荷が基礎疾患を「自然の経過を超えて増悪」させたなら相当因果関係が肯定されます。この2つのキーフレーズが空欄補充の定番です。

  • 業務起因性の判断枠組みは「基礎疾患の内容・程度」と「発症前に従事していた業務の内容・態様・遂行状況等」の総合判断です。この列挙が空欄補充で狙われます。
  • 脳動脈瘤や高血圧症といった基礎疾患があっても、業務の過重負荷が基礎疾患を「自然の経過を超えて増悪」させたと認められれば相当因果関係は肯定されます。「基礎疾患がある以上業務外」とする肢は誤りです。
  • 本判決が該当するとした条文は労基法施行規則35条・別表第1の2の「その他業務に起因することの明らかな疾病」です。

穴埋めで問われるキーフレーズ

  • 拘束時間が極めて長く、(中略)その労働密度は決して低くはない
  • 基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ
  • 過重な精神的、身体的負荷
  • 相当因果関係の存在を肯定することができる
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