行橋労基署長(テイクロ九州)事件
最高裁第二小法廷・2016年7月8日・最二小判平28.7.8

なる子ちゃんの判例解説動画
プレミアム5:48会社の歓送迎会に途中参加した後、研修生を送ってから職場へ戻る運転中の事故死が業務災害に当たるかが争われた事件です。最高裁は、業務遂行性の判断枠組み(労働契約に基づき事業主の支配下にある状態)を示したうえで、飲酒を伴う事業場外の会合がらみでも「なお会社の支配下にあった」として業務災害を認めました。
事案の概要
親会社からA社に出向していたXは、社長業務を代行する部長の提案で開かれた中国人研修生と従業員の親睦のための歓送迎会に誘われました。翌日提出期限の資料作成があったため一旦は断りましたが、部長から参加してほしいという強い意向を示され、工場での作業を中断してA社所有の自動車で会場へ移動し途中参加しました。会の終了後、当初は部長が送る予定だった研修生たちをアパートまで送り届けてから工場に戻る途中、対向車線の大型貨物自動車と衝突して死亡しました。妻が遺族補償給付と葬祭料を請求しましたが、労基署長が業務上の死亡に当たらないとして不支給としたため、その取消しを求めて提訴しました。
- 誘い資料作成を理由に一旦断りましたが、部長から歓送迎会への参加を強く求められました
- 途中参加工場での業務を一時中断し、社有車で移動して歓送迎会に途中参加しました
- 事故会の終了後、研修生をアパートへ送って工場に戻る運転中に対向車と衝突し死亡しました
- 不支給処分妻の遺族補償給付等の請求に対し、労基署長が業務上の死亡に当たらないとして不支給としました
- 最高裁原審の判断を覆し、事故の際もなお会社の支配下にあったとして業務災害と認めました
争点
上司の強い意向を受けて業務を中断し歓送迎会に途中参加した労働者が、会の終了後、研修生を送ってから業務に戻るため社有車を運転中の事故で死亡した場合、その死亡は業務上の事由による災害(業務災害)に当たるのでしょうか。
判旨
判決文からの引用(原文のまま)
労働者の負傷、疾病、障害または死亡(以下「災害」という。
)が労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であると解するのが相当である(中略)Xは、A社により、その事業活動に密接に関連するものである歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、歓送迎会の終了後に当該業務を再開するためA社の所有する自動車を運転して工場に戻るに当たり、併せて部長に代わり研修生らをアパートまで送っていた際に事故に遭ったものということができるから、歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、研修生らをアパートまで送ることが部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、Xは、事故の際、なおA社の支配下にあったというべきである。
また、事故によるXの死亡と上記の運転行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができることも明らかである。
以上によれば、事故によるXの死亡は、労働者災害補償保険法1条、12条の8第2項、労働基準法79条、80条所定の業務上の事由による災害に当たるというべきである。
結論
業務災害と認められるための要件の一つは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態で災害が発生したこと(業務遂行性)です。本件では、事業活動に密接に関連する歓送迎会に参加せざるを得ない状況に置かれ、業務を一時中断して参加し、業務再開のため社有車で戻る途中の事故でしたから、事業場外の飲酒を伴う会で明示的な送迎指示がなかったことを考慮しても、なお事業主の支配下にあったと評価され、死亡は業務上の事由による災害に当たります。
関連法令の解説
労災保険法1条・12条の8第2項
1条は労災保険制度の目的を定め、12条の8第2項は遺族補償給付や葬祭料などの業務災害に関する保険給付が、労基法の災害補償事由(79条の遺族補償・80条の葬祭料など)が生じた場合に行われることを定めています。給付の入口となる「業務上の事由」該当性は、業務遂行性と業務起因性の枠組みで判断されます。
労働基準法79条・80条(遺族補償・葬祭料)
労働者が業務上死亡した場合に、使用者が遺族補償と葬祭料を支払うべきことを定めた規定です。実際には労災保険の遺族補償給付・葬祭料がこれに相当する給付として行われます。本判決は、死亡がこれらの規定の予定する「業務上の事由による災害」に当たると結論づけました。
身近な例え
部活の顧問の先生に「今日の懇親会、来てくれないと困る」と言われて、宿題を中断してしぶしぶ顔を出し、終わった後に先生の代わりに後輩を家まで送ってから宿題に戻る途中で事故に遭った——そんな場面を想像してください。形の上では自由参加の集まりでも、実際には断れない状況で動いていたなら、それは「自分の都合」ではなく「組織の都合」の中の出来事ですよね。
なる子ちゃんのざっくりまとめ
飲み会がらみの事故でも労災になるの?がテーマの判例だよ。まず枠組みとして、業務災害と認められるには「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態」で災害が起きたこと(業務遂行性)が必要。本件の歓送迎会は会社の事業活動に密接に関連していて、Xは参加しないわけにはいかない状況に置かれ、業務を一時中断して参加、終わったら業務再開のため社有車で戻る途中だった。だから会場が社外でお酒が出てて、送迎の明示的な指示がなくても、「なお会社の支配下にあった」と評価されたんだ。原審は私的な会合だとして労災を否定してたけど、最高裁がひっくり返した——この対比もひっかけで出やすいから要チェックだよ!
◎ 選択式で狙われるポイント
一見プライベートな宴会がらみでも、上司の強い意向・業務の一時中断と再開予定・社有車の使用といった事情の総合判断で「事業主の支配下」と評価され得ます。原審は私的会合として業務遂行性を否定しましたが最高裁が逆転させた、という対比まで押さえてください。
- ▶業務災害の要件の一つは「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態」で災害が発生したこと(業務遂行性)です。この定義の言い回しが空欄補充で狙われやすい部分です。
- ▶「事業活動に密接に関連する」会合への参加を事実上強いられ、業務を一時中断して参加し、業務再開のため社有車で戻る途中——という総合判断で支配下にあったと評価されました。個々の事情(事業場外・飲酒あり・明示的指示なし)だけを取り出して業務外とする肢に注意してください。
- ▶原審は歓送迎会を従業員有志の私的会合、送迎も任意の行為として業務遂行性を否定しましたが、最高裁はこれを覆しました。原審と最高裁の結論の対比がひっかけ論点です。
穴埋めで問われるキーフレーズ
- 「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要」
- 「事業活動に密接に関連するものである歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況」
- 「なおA社の支配下にあったというべきである」
独学でも合格をつかみ取れる!
動画・テキスト・過去問・図解まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
全10科目の解説動画が見放題!連続再生・科目別・ブックマーク再生でスキマ時間に効率よく学べます。プレミアム限定
択一式・選択式の年度別/科目別演習が無制限!何度も解きなおせます。マイページで苦手管理もばっちり。プレミアム限定
節ごとの解説動画とテキストPDFで、通勤中もオフラインで復習できる。図解つきでイメージが残る。プレミアム限定
科目別テキストPDFダウンロード可能!ダウンロード後は半永久的に利用可能で、印刷して好きな使い方で学べます。プレミアム限定
テキストのブックマーク管理で苦手分野・何度も確認したい部分を徹底管理可能!プレミアム限定
学習記録・成績管理で自分の進捗を可視化。どの科目に集中すべきか一目でわかる。プレミアム限定
プレミアムプラン
¥7,800/ 購入日から1年間有効(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
同じ科目の判例
フォーカスシステムズ事件
過労死について遺族への損害賠償が認められた場合、遺族が支給を受ける遺族補償年金は、損害賠償の「元本」と「遅延損害金」のどちらとの間で損益相殺的な調整を行うべきなのでしょうか。また、遅延損害金との調整はできるのでしょうか。
横浜南労基署長(旭紙業)事件
自己所有のトラックを持ち込んで特定企業の運送業務に専属的に従事する運転手(傭車運転手)は、労働基準法および労災保険法上の「労働者」に当たるのでしょうか。
小野運送事件
第三者行為災害において、被災労働者が示談により第三者に対する損害賠償請求権を放棄(債務を免除)した場合、その後に保険給付をした政府は、第三者に対して損害賠償を請求(求償)できるのでしょうか。